第58話 魔王オスクリタ誕生
オスクリタはかなり怒ってる様子だ。
ビスカに居ることがバレても気にせずにフィアンマに近づいていく。
「フィアンマよ。最後のチャンスを無駄にしたな。いや、最後まで頑張ったと言えるか」
「こんなんで言えるかよ。相手を巻き込めずに自爆したんだぜ」
「それを頑張ったと言う。お前は複数を相手にするのが苦手だ。本当は一対一も強者相手なら苦手としている。それをここまでやれたのだ。誇れ」
「いいから殺せよ。親友の期待にも応えられずにバカなことをした魔王を。そうすれば親友は正統後継者だ。正式に魔王になれる」
「そうだな。調べることは大体調べられた。お前は必要なくなったな」
オスクリタはフィアンマの胸に手を置いた。
その手に黒い魔力を集める。
「俺は親友のために戦えて幸せだったぜ」
「余…いや、俺もお前と話せて幸せだった。最後まで話せてよかったよ」
「さよならだな」
「ああ、これでさよならだ」
オスクリタは『黒穴食撃』を発動した。
それでフィアンマは一瞬で消された。
オスクリタの手にはしばらく口が現れてくちゃくちゃ何かを食い続けた。
その手を寂しそうに見つめる。
その口が消えたところで神様の声が聞こえた。
《バージェス=フィアンマはバージェス=オスクリタによって消されました。なので、バージェス=オスクリタを魔王と認めます》
これによってオスクリタは魔王となった。
その瞬間に魔力が上昇したので、その様子を伺っていた鬼達はビビってしまった。
ビスカはそいつのことが気になって降りた。
あの時の男が弱ってたとはいえ魔王を殺したのだ。
気にならないはずがない。
「あんたが次の魔王か」
「そうだ。余はバージェス=オスクリタ。先代魔王の親友だ」
「親友を殺せる奴か。あまり近づきたくはないな」
「そんなことを言わないでくれ。アルマドラはこのまま友好関係を維持したい。破棄したことを無かったことにしてくれないか?」
「腐っても魔王か。分かったよ。再度友好関係を築こう」
「いや、少し変えよう。余としては【魔王同盟】を所望する」
魔王間の同盟だと!
ビスカにはそんな発想がなかった。
確かに魔王間で同盟を組んでいれば仲間という扱いになる。
普通の友好関係になるよりも強固だ。
だが、何を目的にするんだ?
「その同盟の目的は?それによっては魔王マキナも参加すると思う」
「目的は平和な暮らしだ。同盟間は一切敵対しないと約束しよう。そして、敵と戦う時は同盟国が手を貸す。これでどうだ?」
「私としてはそれでいいよ。堕天使達は力を持て余してるから発散させたいしね」
そこにマキナが降りて来た。
一緒にケイトも降りた。
「話は聞いてましたよ。私も同盟に参加させてください」
「魔王マキナも入ってくれるのか!それは素晴らしい!フィアンマとやり合える魔王が両方とも加わるのは大きなことだ。実力者が揃ってるとあれば他の魔王も無視できないだろう」
「平和が目的ならラビアラとイニーツィオも加えよう。他はまた後でだね」
「そうしてくれると助かる。では、準備をしよう。余の軍勢の生き残りを連れて帰らせてもらう」
「好きなしなさい。勝ったのは私たちだけど。正確には身内にやられて戦争が終わったんだからね。戦争なんて無かったも同じよ」
「そう言っていただけるとありがたい。では、失礼」
オスクリタは闇に溶けて消えた。
次の瞬間に少し離れたところに姿を見せた。
彼は生き残った3000人の配下を連れてアルマドラに引き返して行く。
なんか勝った気がしない。
それでも戦争には勝ったんだ。
一応念話で勝利宣言をした。
でも、やっぱり何かが違うだよな。
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消化不良のままビスカ達はシエルに戻った。
ビスカ達が先頭で街に入ると凱旋を派手に出迎えてくれた。
なんでそんなことになったのか混乱したが、ダリア商会が何かしてるのが目に入った。
どうやらエリカが演出したらしい。
そのエリカが目の前に来た。
「勝利おめでとうございます」
「勝つと思ってたの?」
「魔王フィアンマ様はザコ狩りが得意な魔王様でしたから。どこまでも強くなれるお2人が揃えば負けないと思っていました」
「なるほどね。これの料金はいくら?」
「いただきません。今回は心の底からお祝いしたいと思ってしたことですので、お金をもらうわけにはいかないのです」
「なら、そのうち何かをお返しするよ。今は今後について話したいから邪魔しないでよ」
「分かりました。では、こちらはいつも通りにさせていただきます」
エリカはあっさりと引き上げて工事に戻った。
そういえば、ダリア商会はかなり遅くまで仕事してたな。
根は良い人たちなのかも。
ビスカ達はあの後すぐに会議室に入った。
軍の連中は街の連中と一緒にお祭り騒ぎだ。
でも、ビスカには片づけるべきことがあるので宴会に参加できない。
マキナやケイトにも悪いと思ってるが、ドールの国を作ることは重要な案件となってしまった。
すぐにやるしかない。
「では、ドールの国について話し合いたいと思う。私の意見ばかりを言いたいところだが、これはマキナの問題だからそっちに任せる」
「では、まずは超小国から始めようと思います。その場所が問題なのですが」
「それについてはこのケイトに任せてほしい。職人や見習いの部隊を創設した。建築部隊と材料部隊に少し離れた所に街を造らせよう」
「それではビスカの迷惑になるのでは?」
「問題ないよ。他にも必要なら使わせてあげる。それと、この領地の西半分をあんたにあげるよ。そこを使って国を作りなさい」
「願ってもないことです。親友の近くに居られるというだけでも私には最高のプレゼントです」
「決まりね。次は国名についてだ」
これはマキナにとって難しいかもしれない。
それでもあのドール達ならマキナのつけた名前を気に入ってくれるだろう。
手を出さずにやらせてみよう。
「マキナ、あんたが決めなさい。私達は口も手も出さないよ」
「それについては仲間を集めてる間にが考えました。【人形国家ペルーシュ】です」
ペルーシュとはぬいぐるみのことだ。
人形なのにぬいぐるみ?
もしかしたらそういう作戦なのかもしれない。
シエルのように魔王複数の体制を考えてるのなら、ぬいぐるみの種族も入りやすい国名はいい考えだ。
「いいんじゃない?マキナの考えが透けてる気がするけど」
「それでいいんです。ドールは大陸中から集めても20万しか居ません。ですが、ぬいぐるみ族は100万を越えます。それを味方に付けてたら一気に戦力が増すわけです」
「まぁ、マキナの国だから好きにすればいいよ。でも、発表するのはもう少し後にしなさい。今は酒を飲んで酔ってるだろうから」
「そうです。では、数日後に話すとしましょう」
ここまで順調だ。
他に話し合わないといけないのは、技術支援などについてだろうか。
「どのような国にするかによって考えるべきだろう。他のことは」
それを言ったのはオスクリタだ。
いつの間にか侵入されていたらしい。
移動方法は闇を利用した空間歪曲かな?
「魔王オスクリタか。何の用?ここは私の国なんだけど」
「同盟について細かい内容を決めたのでね。この国にいる4人の魔王に確認してもらいたい。その上で参加するかを決めてもらいたい。そのために来た」
なんて仕事の早い奴なんだ。
こういう奴ならすぐに決めないと毎日でも来そうだ。
そんな面倒ごとにならないように念話でラビアラとイニーを呼び出した。
それから2人ともすぐに来てくれた。
「2人も同盟について確認して欲しい。イニーは嫌なら見なくていいよ。国を持ってないから」
「それでみる!なにかいえるかも!」
「そうだね。それじゃ、出してもらえる?」
魔王オスクリタは同盟について書かれた紙をテーブルに置いた。
それを広げて魔王達が覗く。
そこに書かれた内容をまとめるとこうなる。
それぞれが受ける恩恵が書かれているようだ。
『相互不戦保証』
『相互安全保障』
『相互通行許可』
『相互金銭補償』
『相互技術提供』
これはどれも魅力的だ。
もしも、他の国が参加するなら魔王間の平和は保たれるだろう。
しかも、最後の1つは大きすぎる恩恵を受けることになる。
無駄にするよりは参加した方がいいに決まってる。
ビスカは参加を決めた。
「魔王オスクリタ、私は参加するよ」
「それは良かった。他の方々は?」
イニーは不備がないことを確認してゆっくりしている。
マキナは一部に不満があるようだが、ビスカと同じように他の利益を考えて参加を選んだ。
ラビアラはここで参加しない選択肢なんて最初からなかった。
「魔王マキナは参加します」
「魔王ラビアラも参加するよ。ここで参加しないなんてバカだ。そんな選択をする奴はここに居ないよ」
「では、これに署名を頼む。書いたらすぐに各国に同盟の成立を伝えられる。書いた時点で逃げられない。それでも良ければ書いて欲しい」
そう言って紙を差し出した。
ビスカは受け取るとペンをケイトから受け取って書いた。
書き終えたらその紙とペンを次に渡した。
そうして4人の魔王による同盟が成立した。
それはすぐに世界中に伝えられた。
オスクリタはこの場で同盟成立の宣言をする。
「魔王同盟は成立した!我らはこれより平和に向かって歩み始める!その道に困難があれば共に乗り越えよう!そのための同盟である!ここに魔王による新時代の到来を宣言する!」
これを聞いているのは魔王達とシエルの幹部だけだ。
それでも一応拍手が送られた。
これで鬼との関係は修復されたことになる。
さて、今後は魔都見学ついでにやることが出来たな。




