第57話 フィアンマフィスト
ビスカが驚きながら空を見ていると、魔王フィアンマが灼熱炎焦拳を本気で打とうと準備を進めていた。
それが放たれればさすがに炎熱耐性付与をしたビスカでも焼かれる恐れがある。
それを止めようとするが、振り返ってる間に完成するだろう。
実は瞬天に大きな弱点がある。
それは方向転換が苦手ということだ。
普段は数段階の移動でどうにかしているが、こう状況ではどうして間に合わない。
このままじゃまずい。
そう思った瞬間にマキナが瞬天並みの速度で駆けつけてくれた。
そして、魔王フィアンマの懐に入って顎にアッパーを喰らわせてやった。
それでフィアンマの意識が飛びかける。
「勝手に吹っ飛んでください」
マキナはそのセリフを残してビスカを回収しに向かった。
一瞬で抱きかかえるとすぐに走って距離を取る。
その数秒後にフィアンマの技が暴発してどんでもない爆発が起きた。
普通なら絶対に死ぬレベルの爆発だ。
あれに耐えられたら勝ち目は薄いぞ。
ビスカは降ろしてもらうとすぐにエンチャントして遠くを見た。
爆煙が広がる中に人影は見えない。
いや、今立ち上がった。
「マキナ!まだ生きてる!」
「いくら自分の攻撃でも、受ければ倒れるはずです!それを耐えるなんて、彼は本当に生き物ですか!」
「そういう生き物だから魔王なんでしょ!私達だってギリギリ耐える自信はあるでしょ!」
「そうですね。腕一本を犠牲にして耐えられるでしょう。だとすると、彼はしっかりと魔王ということですね」
そう話してる間に魔王フィアンマが爆煙を吹っ飛ばしてその姿を見せた。
ボロボロになった彼はそのままこちらに向かってきている。
どうやら自己再生は無いらしい。
ドールよりかは倒せる可能性がありそうだ。
「とりあえず、もう一度行くぞ!」
「遠距離か中距離で行きましょう!近づくのは危険です!」
「いや、ここは僕がやる!」
はっ?
急にケイトが出しゃばって2人の間から魔王に向かう。
「あのバカ!死ぬ気か!」
「ビスカ!とりあえずケイトにエンチャントを!」
「分かった!」
ビスカは手を伸ばして100個のエンチャントを無理やり掛けようとした。
しかし、それがパキンッと弾かれてしまった。
そのあり得ない光景には2人して同じような顔で驚く。
「そんなのあり得るか?他人の力を通さないなんて!そんなの魔王ラビアラじゃん!」
「とにかく助けに行きますよ!このままだと魔王に焼かれて終わりです!」
「そうだな!急ぐぞ!」
そう話して間にケイトは魔王フィアンマの目の前にたどり着いてしまった。
彼は魔王達に見覚えがない剣を使って立ち向かおうとしている。
英雄でもない人間が敵うわけあるか!
そういえば、人間の英雄って勇者の代わりに国に1人は居るんじゃなかったっけ?
でも、それって人間の国限定じゃないの?
もしかしたら神様は人間が多ければ認めることがあるのかもしれない。
「何だよ。人間ごときが俺にダメージを与えられると思ってるのか?笑わせるな!」
「笑えなくしてやるよ!僕はこの歳にしちゃ強いんだぜ!」
「面白い!なら、掛かって来やがれ!」
魔王フィアンマは両手に炎をまとって殴りかかって来た。
その素早い一撃をケイトはギリギリのタイミングでサッと避けた。
避けた時に剣を振れる体勢を整えた。
あとは振り下ろすだけ。
「切り裂け!英勇剣!」
「あいよ!」
変な声が聞こえた。
それはこの戦場にいる全魔王の耳に届いた。
幻聴じゃない。本当に聞こえる。
その声が聞こえた次の瞬間に剣は強烈な水をまとった。
そのままケイトが振り下ろすと腕が切れた。
フィアンマは一瞬何が起きたか分からなかった。
でも、すぐ痛みが脳に昇ってきて何をされたか理解した。
「ぐぉぉ!なんで俺の腕が!」
「英勇剣は僕の分身みたいな物だ。僕自身に対するあらゆる影響から防御する。そして、あらゆる属性をまとって相手を切れる。それがこの剣だ」
ケイトは勝った気で説明してしまった。
それを聞いてフィアンマは全身から炎を噴き出した。
その勢いはビスカとマキナを近づけさせない。
近くにいるケイトのことは焼き尽くそうとしている。
「その剣がどんなに強かろうと今はない!持ち主ごと焼き尽くせば終わりだ!」
「そう思うならダメだな。さっきも言ったろ?あらゆる影響から防御する。つまり、焼けないしダメージも受けない。炎はダメなんだよ」
そう言いながらケイトは余裕で炎の中から歩いて外に出た。
しかし、ノーダメージとはいかなかったらしい。
傷はないが少し疲れた顔をしている。
「さて、いつまで火だるまで居るつもりだ?さっさと出てきて魔王2人と英雄を相手にしろよ。それとも、僕ら3人の偉業の犠牲になってくれるのか?」
「んなわけあるか!」
魔王フィアンマは炎を消して立ち上がった。
切れた腕は炎で再現している。
やっぱり治せないらしい。
でも、こっちの方が厄介だ。
あのまま触られれば焼けるのが確定している。
下手したら強くなってるかもしれない。
「ガキどもと人間か。もう出し惜しみしねえぞ!」
魔王フィアンマはここまでされてブチギレたらしい。
顔を見ればそれが分かるくらいになっている。
となると、冷静な攻撃はされないだろう。
今が大チャンスだ。
「掛かって来やがれ!英勇剣からも何か言ってやれ!」
「俺達のコンビは強いぜ!魔王にだって負けるかよ!」
剣が本当にしゃべってる。
なんか不気味だな。
まぁ、今はこれでも役に立つなら放っておこう。
「今のケイトなら負けないだろうね。だから、数的にも負けるのはあんただ!魔王フィアンマ!」
「ここで終わらせましょう。満身創痍のあなたを解放して差し上げます」
「生意気な連中だ。なら、俺の本気を見せてやる。灼熱爆炎拳だ!」
フィアンマは覚悟を決めた顔で全身から炎を放つ。
それが空気中のゴミなどの物に当たると爆発する。
それが徐々に広がっていく。
しかも、本人は殴る動作でそれを中距離に飛ばしている。
当たれば小規模爆発をする炎をやたらと撒き散らされたらたまったもんじゃない。
ビスカはそれを止めるためにエンチャントを繰り返す。
それでかなりの炎でも耐えられるようになった。
マキナとケイトも準備が出来たらしい。
「魔王フィアンマ!あんたを倒す!行くぞ!」
「行かせてもらいます!」
「耐えろよ!英勇剣!」
「分かってるっての!」
3人は同時に飛び出した。
まるで花火のような炎の中でフィアンマに向かう。
彼は3人が目に入ったところで殴る方向を絞った。
それによってビスカ達は連続攻撃を喰らうことになった。
しかし、ケイトがほぼ効かないことを利用して盾役になってくれた。
おかげで距離を縮められる。
「クソが!」
まずいと思ったフィアンマは拳を振り回しながら下がっていく。
ビスカはそれが見えたので急ぐことにした。
「どちらにお出かけかな?」
瞬天で追いついてしばらく並走する。
フィアンマは横にビスカが来たことに焦って転んでしまった。
「痛っ!クソが!」
その顔を3人が覗き込む。
それを見つめてフィアンマは負けると確信した。
なら、最後に見せてやろうと残りの魔力を搾り出して大技を発動する。
「一矢報いる!ダメでもそれでいい!燃焼爆炎拳!」
横になった状態で両手に炎を集中させる。
ばら撒いていた炎を両手に集めることに威力はとんでもないことになる。
それを地面に叩き込む。
すると、地面が揺れ始めた。
そして、あちこちから炎が溢れ出て弾けている。
ビスカはまさかと思った。
それでバッとフィアンマの顔を見ると、彼は笑っていた。
「チッ!範囲が広い!マキナは上空に避難!ケイトは…」
「安心しろ!英勇剣は風も起こせる!かなり負荷をかけることになるが、僕1人なら飛べる!」
「分かった!それじゃあ、即避難して!」
その指示に従って2人は上空に逃げた。
ビスカは念入りにフィアンマが逃げられないようにデバフをエンチャントした。
その後に念話で避難指示を出す。
堕天使やドールはそれに従って離れていく。
ビスカはその全てを終えてから空に避難した。
しばらくして地面が大きな音させて爆発した。
かなりの広範囲がたった1人の魔王の手によって焼け野原になってしまったのだ。
これであの魔王が生き残ってたら本当の怪物だな。
爆心地でゆらりと魔王フィアンマは立ち上がった。
最後の力も使い切って残りカスしかない。
それでも倒れるわけには行かない。
そろそろ彼が来るから。
「もう終わったぞ。俺の尻拭いもできなかった。だから、人生を諦めてやるよ」
その言葉に反応したかのように空間が歪んで彼が現れた。
バージェス=オスクリタは真っ黒な和服を着て闇をまとっている。
今にも殺しそうな目をしている。
バージェス=フィアンマは彼に殺されることを覚悟した。




