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第55話 急変する鬼の王

 ビスカはラビアラとセッカが十分に勉強をできたところでシエルに帰還した。

 するとすぐにヒスイから奇妙な報告が入った。


「お帰りなさいませ。ビスカ様」


「ただいま。あいつらしっかりと苦手克服を頑張ってる?」


「その前に報告があります。魔王フィアンマ様が魔王マキナ様に戦争を仕掛けたようです。マキナ様は現在5万の配下を連れてこちらに向かっています」


 なんであの魔王がそんなことを?

 意味が分からないでしょ。

 魔王フィアンマもいる前でビスカとマキナは仲良しを見せたのだから。

 それでも戦争を起こす理由があったと言うのか?

 本当に意味が分からない。

 でも、今やるべきことはわかる。


「受け入れ態勢を整えて!もしこんな遠くまで鬼が攻めてくるようなら友好関係を破棄する!もしもの時にヒスイ達は出なくていい」


「お気遣い感謝います。ですが、我々はもうあなた様の配下です。気にせずに同族だろうと斬り伏せます」


「そうか。無理はしないように。それじゃあ、任せた」


「はっ!」


 ヒスイは命令を遂行するためにシュッと姿を消して街に向かった。

 ビスカは時間がないことを惜しいと思った。

 もう少し時間があれば七妖のうちの誰かを魔王に出来ただろうから。

 そいつの協力があればビスカとマキナより強いフィアンマを楽勝で倒せただろう。


 その協力が無いとなるとかなり厳しい戦いになるだろう。

 仕方ない。今回はイニーツィオを参加させよう。


「イニー、これから戦争だから手を貸して」


「いやだ」


 うーん?

 今あの子なんて言った?距離が少しあるから聞き間違えたかな?

 一応もう一度聞こう。


「えっと、手を貸してくれない?」


「ぜったいにやだ!ラビアラがともだちだからってなんでもてつだったらダメっていったもん!」


 何言ってくれてんのこいつ!

 バッと振り返るとそれより速くそっぽ向かれてしまった。

 それでもラビアラのせいでイニーが手伝ってくれないのは確定のようだ。

 これは困ったな。

 未来の竜と人の架け橋が力を貸してくれないとなると、今ある戦力だけで潰すしかないだろう。

 とりあえず偵察をさせよう。


 念話でアリッサに指示を出す。


『アリッサ!今手が空いてる?』


『大丈夫ですわ。何のようでございますか?』


『今から空を飛んで魔王フィアンマの軍を見つけてほしい。マキナの魔力をたどればわかるはずだ』


『分かりましたわ。こういうことを頼むならそういう秘密部隊を組んだ方が早いのでは?』


『考えておく』


 そこで念話を切った。

 さて、あとは待つだけだ。

 待ちながらベーゼ達を鍛える。それと並行してマキナ達の受け入れ態勢を確保する。

 これは大仕事になるぞ。




    ----------------




 実際に大仕事になった。

 ベーゼ達は完全にイニーにまかせて他をラビアラと協力して進めた。

 まず食料と医療品を確認した。

 人形の体に回復魔法や薬が効かなかった時のことを考えて職人達も集めた。

 ラビアラは自分の配下達に指示を出して炊き出しを手伝ってくれた。

 ドールだって食い物をしっかりと食べることをマキナから学んでいる。

 だから、すぐに栄養を補給させるために作られせている。


 この間に魔王が誕生すれば良かったのだが、外道な方法でもダメそうだ。

 仕方なく今ある戦力だけで戦うことにした。




 数時間後。

 マキナを先頭にドール達がシエルに到着した。

 彼女達はひどく疲れてるように見える。

 ビスカは友人のマキナに駆け寄る。


「マキナ!大丈夫!?」


「ビスカ!受け入れ感謝します。私は無事ですが…」


 マキナはチラッと後ろの方を見た。

 ビスカもそこを見ると、ボロボロのドール達が集められていた。

 その感じからして死んでいるのだろう。

 ドールは完全に分解されると死んでいまう。

 その魂が入れる人形があれば復活できるが、それが無ければ5分で消滅してしまう。

 おそらく人形を作れるマキナでも間に合わなかったのだろう。

 悔しそうに唇を噛んでいる。


 ビスカはその頭をポンッと撫でた。


「あんたはよく頑張った。嫌わられてもおかしく無いのにこれだけの同族を集められただけですごいよ。それをあまり減らさずにここまで来れたんだ。誇りに思っていい」


「ですが、私が説得しなければこんなことには…」


 マキナはポロポロと泣き始めてしまった。

 ビスカはその体をギュッと抱きしめた。

 そして、頭を撫でながら慰める。


「辛かったよね。救える力があったのに死なせちゃって。でも、あんたが死ななくてみんな安心したんじゃないかな?魔王ってそういう存在だから」


 その言葉を聞いてマキナの鳴き声が大きくなってきた。


「死んだ奴らの分まで生きてやりなさい。そして、死んだ奴らのことは忘れずに心に刻んでおけ。そいつらの分まで生きるために絶対に死なないと誓ったけ。それが上に立つ者だ」


「分かりましたぁ…泣くのは…これっきりにします…!」


「うん。いいと思うよ。今は存分に泣きなさい」


 マキナはしばらく泣き続けた。

 その配下達も釣られて泣いてしまった。

 仲間をそこまで想えるのは才能だ。

 マキナはきっといい魔王をしてたんだろう。

 その邪魔をした魔王フィアンマは許せない。


 ビスカは久々に本気でキレた。

 今回は魔王として容赦なく戦闘を繰り広げるつもりだ。

 もうあんな奴を恐れる必要もないのだから。




 しばらくしてドール達はマキナの指示でビスカ達の食料を分けてもらうことになった。

 それで栄養を補給して破損部分を再生させる。

 どうやら、ドールは食い物を体の一部に変換できるらしい。

 それなりに食料が減っているがその分戦力が戻ったと考えればお釣りが出過ぎてる。

 これなら鬼の相手も怖くない。


 ビスカはとりあえず落ち着いたマキナから話を聞くことにした。

 場所はいつもの会議室だ。


「マキナ、まずは何で急に戦争なんて言われたのかわかる?」


「分かりません。ですが、何かを焦ってるように見えました。何かに怯えた様子で私の前に現れたんです」


「直接宣戦布告を受けたの?」


「そうです。逃げられそうにないので相手をしましたが、そのせいであんなことに」


 また泣きそうな顔なった。

 ビスカはすぐに次の言葉を出す。


「来たのは魔王フィアンマだけ?」


「いいえ。1万の鬼が一緒に居ました。彼らが開始と同じタイミングで一気に攻めてきたんです」


「それはどこで?」


「テクノロジアから西に8kmの所です。そこの森で休んでいたら急に来ました」


 マキナが言った場所は地図で見ると、ちょうどシエルとアルマドラの間くらいの場所だ。

 もしかして、狙いはシエルだったけど、マキナ達に侵攻してるところを邪魔されたからターゲットを変えたんじゃ。

 だとすると、足の速いドールより遅れるなら猶予は少ししかないな。


「マキナ、魔王と本気でやり合うけど一緒に来るか?」


「行きますよ。私もお返ししたいので」


「それなら同盟を結ぼう」


「喜んで」


 簡単に同名は締結された。

 魔王フィアンマを倒すためだけに2人の魔王が繋がってしまった。

 こうなれば魔王フィアンマの動きが変わる可能性がある。

 その前に叩き潰さなければならない。

 つまり、今からでも攻め返す!


「ケイト、やるぞ!魔王としての初陣(ういじん)だ!」


「了解!こっちも本気で盛り上げてやる!期待しとけよ!」


 そう息巻いてどこかに行ってしまった。


 さて、どう攻めるか。

 真正面から行っても焼き尽くされて終わりだ。

 魔王フィアンマは灼熱の異名を持つほどの実力者だからな。

 どんでもない火力を持ってるから一撃だけならスペラーレやイニーに並ぶ強さを持つらしい。

 そんな怪物に正面から向かうのはバカだ。


 なら、堕天使が得意とする戦略を取ればいい。

 マキナの方は囲むように動かそう。

 逃げ場を減らせば魔王フィアンマは檻の中だ。

 どうせ軍隊の先頭にいるんだろうしね。

 その頭を叩くのはビスカとマキナだ。

 魔王には魔王ってね!


 さぁ、準備を始めよう。

 すぐに出発だ。

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