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第54話 異常国家ペサディヤ

 七妖に実力の差を見せつけたビスカはアラーニャの招待状を持ってラビアラに話しかける。


「ラビアラ、一緒にペサディヤに行かない?」


「あのクモの国か。私の目でも見ておきたいから行こうかな」


「よし!じゃあ早速」


 そうして行こうとした所に雪女のセッカが近づいてきた。


「あの…私も同行してよろしいですか…?」


「それはなぜ?」


「私達はあそこから上質な糸や生地(きじ)を買っています。良い店を知っているので…少しは役に立てるかと…」


 確かに役に立つかもしれない。

 彼女が着ている着物はとても白く上質だ。

 そんな物を作れる技術者と会えればいい勉強にもなるだろう。

 それなら連れて行った方が利点はある。

 てことで連れて行くことにした。


「それなら連れて行くよ。その代わり戻ったらしっかりと鍛えるんだよ」


「分かってます…あの人達に置いて行かれたくありませんから…」


「それじゃあ、行っちゃおう」


 ビスカは招待状を取り出して転送魔法を起動させた。

 それによって3人は一瞬で大陸の南東にあるペサディヤに移動した。




 ----------------




 転送された先はどうやら大きな建物の中のようだ。

 どうやらこの国は巨大な建物の中にあるらしい。

 こういうところも異常だから異常国家なのかもしれない。


 1番の異常は転送されたら魔王の目の前ってことだろ。

 これが魔王になる前だったらビビる自信あるわ。

 てか、下半身が可愛らしいクモの魔王に出迎えられた魔王の気持ちを考えろ。怖いわ!

 そんな失礼なことを考えてるビスカに魔王アラーニャが話しかけてきた。


「急ですね。ですが、魔都見学なら好きにしていいですよ。工場でも見るといいと思います」


「工場って糸製品のか?」


「そうです。すぐそこだから見に行くといいでしょう。特にお得意様の雪女さんはどのように作られているのか見て行ってください」


「分かりました…」


 魔王アラーニャは微笑んでからどこかに行こうとした。

 その途中で何か気づいたらしい。

 ビスカを引き止めた。


「魔王ビスカ、あなたとは話したいことがあります。ついて来てください」


「分かった。2人は私の分まで見ておいて。ついでにラビアラは色々やっておきなさい。自分のために」


「言われなくても分かってる。ここの技術を真似る気だから」


 さて、2人と別れて魔王アラーニャについて行くことになった。

 2人はすぐに工場見学に行ってしまった。


 ビスカがついて行っている彼女が向かったのは工場とは真逆の方向だ。

 まるでこの建物の一番奥に向かってるかのようだ。

 魔王の棲家なら一番奥が彼女の部屋でもおかしくない。

 ゲームならそういうものだから。


 しばらく歩かされて建物の中央っぽい部屋に通された。

 なるほど。魔王の部屋が中央なら襲われにくいだろうし、これはこれでいいのかもしれない。

 彼女が大きな椅子に座るとビスカに普通サイズのイスを勧めた。

 ビスカはそれにどかっと座った。


「さて、何から話しましょうか」


「なんでもいいよ。好きなことを聞いてよ。答えるから」


「では、今やってる面白そうなことについて」


 やっぱり気づかれたか。

 さすがは魔王と言ったところか。

 自然な流れで気づかないで欲しかったけど、気づかれたなら仕方ない。

 ビスカは諦めた顔で話し始める。


「北の七妖から魔王を育てて仲間にすることにしたの。雪女のセッカもその1人だよ」


「なるほど。お前さんにしては面白いことを考えますね。何か目的があってやってるんですか?」


「ほぼ善意だよ。私が魔王達の建国記を見たくなったの。だから、魔王させてそのうち本でも書かせるよ」


「それは私も読みたいですね。それぞれのやり方が知れるのは貴重です。もし完成したら安く売ってくれませんか?」


「魔王には無料配布するよ。何か間違ってるところがあったら訂正してほしいからね」


「分かりました。その時を楽しみにしてますね」


 さて、どうにか切り抜けたか。

 彼女は魔王の中で現在6番目に強いから敵にしたくない。

 普通に話をするだけで済んで良かった。


「さて、次にお前さんについて聞きたいのですが、よろしくですか?」


「構わないよ」


「では、失礼になることを承知で聞きます。お前さんは誰に操られてるんですか?」


 急にそんなことを聞かれてビスカは一瞬呼吸することを忘れた。

 それくらい驚かされたのだ。

 だから、怒った感じで聞き返す。


「私が操られてる?なんでそう思うの?」


「魔王マキナもルーチェもウェルもお前さんも、私には誰かに利用されて魔王になったようにしか見えない」


「どこにそんな証拠があるの!」


 思わず大声を出してしまった。

 久しぶりにイライラしてるかもしれない。

 怒ってるのではなくイライラしてるのが珍しい。

 魔王アラーニャはわざと火に油を注ぐ。


「偶然の全てです。まるで仕組まれてるように、流れるように事件が相次ぎました。普通に魔王になった者達はそんな修羅場を乗り越えてません。たった1つの伝説で魔王になったんです」


「それがおかしいと?ふざけてんのか?」


「ふざけてますよ。魔王スペラーレのように敵を倒しまくることで魔王になったという前例もあります。ですから、お前さん達のように問題が起きて魔王になってもおかしくない」


「なら、なんで疑う」


 そう言うビスカの目は今にも殴りかかって来そうな感じだ。

 魔王アラーニャは覚悟をして言葉を選ばずに言う。


「お前さん達が魔王になる前にはダリア商会なんてありませんでした。あれが出来たからそういうことが増えました」


 その言葉でビスカはついにキレた。

 沸点が低くなったのも原因だが、仲良くなった相手が侮辱されるのを何よりも嫌う。

 だから、ブチギレて魔王アラーニャの顔面を殴ってしまった。

 アラーニャは殴られたところを押さえながら話を続ける。


「お前さんがあいつを友達と思うなら悪いことをしてないか確かめなさい。本当に悪だったら誰が責任を取るんですか?お前さんは無責任にもあれを放置するんですか?」


「なら、私が見張ってやるよ。それで何もなければ土下座してもらう」


「それで許されるならいくらでもしますよ。世界の危機と比べれば安いものです」


「世界の危機?」


 ビスカは聞きなれない言葉に反応した。

 魔王アラーニャはしまったという顔で誤魔化そうとする。

 でも、もうビスカを誤魔化すことは不可能だ。

 彼女は諦めて白状する。


「大昔の伝説通りになるかもしれません。魔王が全種族から誕生して揃った時、神がこの世に降臨なされる。それはある意味で危機です。あの方は気まぐれですから、歩いてるだけで世界をゼロに戻すかもしれません」


「それは確かに恐ろしいな。でも、所詮(しょせん)は伝説でしょ?」


「そうとも言い切れません。私達だって伝説を残した存在なんですから」


 確かに伝説は本当になるかもしれないな。

 伝説を残した者達が実在しているから。

 だとしても、それがエリカと何の繋がりがあるの?

 聞いてみよう。


「それとエリカの繋がりは?」


「お前さんが考えてる全種族は、実は全部が揃っていないんです。堕天使や人竜姫種(ドラゴスポーザ)のように生まれ方が特殊な種族が居ますから」


「エリカはそれを生み出そうとしてるの?はっ!」


 エリカには思い当たる節があった。

 何故か自分が怒るような敵ばかりが襲ってきた気がする。

 もし、それが本当にエリカの仕業なら。

 エリカがマキナを焚きつけて戦争を起こしたことになる。

 あの一件はそんな気がしただけだった。

 本当に予想が当たってるなら、シエルにあれを置いたのはミスだったかもしれない。

 ビスカはどちらを信じればいいのか分からなくなってしまった。


「エリカが敵なら私は利用されて…魔王に…?」


「そうなりますね。ですが、私は堕天使から魔王になったのがお前さんで良かったと思ってます。他より心が弱くない。あんな奴の言うことを聞きそうにない人が魔王で良かった」


 魔王アラーニャは本当に安心して笑みを浮かべてる。

 その優しい笑みに嘘はない。

 この笑みを敵に回すのとあれを敵に回すならどっちがいいだろうか。


 そんなの決まってる。

 金にがめつい女の方だ。

 でも、すぐに敵対はしない。

 偶然聞けた情報を元に監視してそんな動きがないかを調べる。

 その上で敵と判断したら全魔王で叩き潰せばいい。

 そのために協力要請しないといけない。


「魔王アラーニャ、さっき殴ったことは謝る。だから、もしエリカが敵だった時は力を貸して」


「分かりました。その時は全力で相手しましょう」


「とりあえず今は帰るよ。すぐに他の魔王とも話さないといけないから」


「それは待ってください。彼女がどこまで手を広げてるか分かりません。なので、話すのは口が固そうな魔王だけにしてください。


「分かった。そうしよう。それじゃ、またね」


 ビスカはくるっと背を向けて部屋を出た。

 ラビアラとセッカを迎えに行ったのだ。

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