第53話 北の七妖魔王化計画
「さて、今度は誰が来る?さっさと来ないとこっちが決めるぞ」
それは嫌だと思った天狗の少年が前に出た。
彼はやる気が十分以上にあるようだ。
だとすると、すぐに来なかったのはスキルや魔法がクソザコなのかもしれない。
これは手加減してやらないといけないかもね。
ビスカはとりあえずエンチャントをいくつか解除した。
「俺は天狗のフォーゲル・ラプタ!いざ参る!」
彼はかっこつけて名乗った。
それをダサいなぁとか思いながら見ていると急に彼の姿が消えた。
先の隠密と同じかと思って警戒する。
それからすぐに違うと気づいた。
「気づいた時にはもう遅い!『暴風壁』」
彼は素早く飛び回って風を操っていた。
それはとても立派な風の壁だった。
普通ならこれに閉じ込められたら出られないだろう。
上はラプタが見張っている。横は風で出られそうにない。
だからと言って下に向かえば背中に攻撃をするつもりなのだろう。
なるほど。
相手が弱ければこれで勝てたかもしれないね。
でも、ビスカはこれをどうにか出来る手段を持っている。
一方向に風が向かっているなら、その逆向きの流れをぶつければ良い。
「良い魔法だね。だけど、魔王には全然届いてない」
ビスカは名前のない風魔法を発動して一瞬でかき消した。
それからすぐに瞬天で飛んでラプタの目の前に移動した。
彼は驚いて手に持っていた団扇を落としてしまった。
彼がそれに気を取られてる内にビスカはデコピンで終わらせた。
魔王レベルのデコピンは普通に痛い。
彼は気を失って落ちそうになった。
その体をビスカが支えて地上に降りる。
地上に到着したすぐにヒスイに任せて次に向かう。
「次は誰?どうせこうなるんだからすぐに来なさい!」
今度は速攻してきた。
来たのは猫又だ。
火がついた爪で切り裂こうとしている。
ビスカはそれを華麗に避けた。
「猫又のミチーノ・ラッテだ。僕は負けない!」
避けてる間に自己紹介されてしまった。
でも、確かに簡単に負けることは無いだろう。
女装男子のラッテは反応速度がかなり速い。
避けられると分かってからの自己紹介までが速かった。
これはエンチャントを掛け直さないといけないかもしれない。
「来るなら来なよ。あんたの攻撃なんて全部当たらないんだからね!この魔王を倒せると思うな!」
「そんなのはやってみないと分からない!だから、やってやる!『猫又乱舞』」
ラッテはスキルの発動で爪を伸ばして身体能力を上昇させた。
その状態でビスカを引っかこうと乱撃を繰り出す。
その全てをビスカは見切って避けた。
それから反撃で蹴りを繰り出した。
それをラッテはギリギリで避けた。
ビスカほどの余裕はないが、猫又なら素早い蹴りでも避けられるらしい。
「なら、これでも喰らっとけ!」
そう言うとビスカは範囲攻撃の雷魔法を使用した。
しかし、ラッテが『飛天』のパッシブスキルを持ってたせいで空気を蹴って上に逃げられてしまった。
この感じにビスカは覚えがあった。
そうだ。ラビアラの肉体派戦術に似ているのだ。
スキルもそっちにばかりのようだから、鍛えればラビアラの劣化版か別バージョンに育つかもしれない。
まぁ、今はビスカに勝てないけど。
ビスカは瞬天で後を追って後ろから頭を掴んだ。
そのまま電撃魔法を使うことで「にゃう!」と情けない声を出させて勝利した。
ビスカはボロボロになったラッテをヒスイの方に投げて次に向かう。
降りると今度は天邪鬼が目の前に出てきた。
その顔はまるで悪ガキのようだ。
「今度はあたしの番だ。天邪鬼のランヴェル・ベーゼだ。あんたが頭のキレるやつやつであることを祈ってるよ」
その直後にビスカの視界がおかしくなった。
まるで世界が反転したように見える。
ベーゼが空を歩いてるように見えるなんておかしいでしょ。
これがランヴェル・ベーゼのスキル『反逆の世界』だ。
五感のどれかでベーゼの何かを感じ取るとスキルが発動してしまう。
抜け出す方法は気合のみ。
気合いで抜け出す以外に方法は絶対にない。
あったら天邪鬼が余計に改造するから見つけちゃダメ。
その力に囚われたビスカはエンチャントでどうにかしようとした。
しかし、どのエンチャントも意味をなさなかった。
「どうしたぁ?あたしのスキルはよく効いてるのか?」
「効きすぎて戦えないレベルだ」
魔王にそう言わせたことでベーゼは笑みを浮かべた。
今のビスカにはまともに見えないが、ベーゼが人生で一番かわいらしく笑っている。
「そっか。効いてるのか。えへへ。これは自信になるな」
その笑みはすぐに消えることになる。
ビスカは魔力を大量に溢れさせることでベーゼのスキルを解除した。
これで攻撃できるようになってしまった。
自分のピンチに気づいたベーゼはギザ歯を見せながら深く息を吸う。
そして、空気で肺をいっぱいにしたところで息を止めた。
そうすることでスキルが発動した。
今度のスキルは『逆転の時間』だ。
それが発動してることに気づかないままビスカは顔面を殴りに行った。
「これで終わっとけ」
そう言いながらパンッといい音をさせて殴った。
しかし、ベーゼはノーダメージのようだ。
どうやら、強い一撃が雑魚の一撃にさせられたらしい。
これではいくら殴ってもダメージが入らない。
ただ、これもすぐに攻略できてしまう。
ベーゼが呼吸をするタイミングを待つか。
威力の低い攻撃をすればいい。
それを予想したビスカはエンチャントで本気なのに雑魚になる逆転の概念を付与した。
これで殴るとベーゼは普通に吹っ飛んだ。
そして、そのまま気絶した。
「いいスキルだ。まるでラビアラと戦ってるみたいだった」
気絶して聞いてないのに好評価を与えた。
ビスカをここまで苦しめたのは確かにすごいことだ。
他の連中じゃここまで苦しめられなかったから1番の活躍をしたことになる。
次がそうじゃなければ。
ビスカはベーゼもヒスイに任せて最後の1人の所に行く。
最後はカマイタチだ。
カマイタチの少年はしっかりと人型の姿で待っていた。
「俺はカマイタチのファルチェ・ヴィントだ。他より弱いかも知れないが、あんたの胸を借りるつもりでやらせてもらう」
「来なさい。最後でも期待してやる」
「そうか。なら、手加減しない」
その時点でビスカは勝っていた。
相手の欲しがる物を予想して奪っていた。
そのせいで彼は一切魔法を使えなくなった。
本当は風属性のスペシャリストだからある程度の強さはあるのだ。
だが、その風を自分より先に操られたら何もできない。
魔王との綱引きなんて話にならない。
だから、戦闘開始前にヴィントは負けていたのだ。
それでも諦めない。
ヴィントは腕を適当に振り回して空気の流れを生み出した。
それをスキルと魔法で風の刃にした。
それを装備して魔王に挑む。
「よく頑張った。その程度でも戦おうと思った勇気を称えよう。その前に倒れとけ!」
ビスカは走って向かってくるヴィントに対して風魔法を発動した。
ヴィントに使わせないために奪っておいた風が彼を襲う。
しかし、ダメージを与えられない。
風が見える彼は隙間を縫ってビスカに接近した。
ビスカは油断して動くのが遅れた、
その遅れのせいでヴィントの刃が首に突きつけられる結果になった。
「お見事」
「そちらが油断しなければ負けてたのはこっちだ。褒める必要ない」
彼はそう言って風の刃を消した。
一応ヴィントの勝利だが納得してない様子だ。
でも、これで全員の強さが分かった。
今のままじゃ魔王候補になるのも厳しそうだ。
ただ、ヴィントとベーゼは例外だ。
この2人は育てたらすぐに魔王候補に入れるだろ。
問題は他の4人がどこまで伸びしろがあるかだ。
全くなければ期待できない。
それをしばらく隠すことにした。
しばらくして負けた連中が全員目覚めた。
その報告を受けたビスカが彼らに向かってやろうとしてることを話す。
「起きたか。それじゃあ、魔王化計画について説明させてもらう」
そんなことを言われても彼らは驚かなかった。
すでに話してるもんね。
「あんた達は絶対に魔王になってもらう。そのためにやるのが魔王化計画だ。あんた達でうまく行ったら他の種族にもやらせる」
他にも魔王が居ない種族は多く居る。
その全ては厳しいだろう。
だが、それは今回の結果によって変わってくる。
もし、予想より早く魔王を育てられれば他の魔王達も計画に参加するだろう。
魔王が多いに越したことはない。
「まずあんた達には苦手分野を克服してもらう。その後に実践や訓練を繰り返して経験を積む。その後にでも同族をまとめなさい。力と仲間が揃えば魔王になれる可能性が高くなる。ここに住むからには私達が全力でサポートする。私でもラビアラでもイニーツィオでも頼りなさい。分かったら開始!」
ビスカは彼らに課題を与えた。
彼らはそれを七妖同士で解決しろと言われたのだと解釈した。
おかげでしばらくは放っておいても大丈夫そうだ。
今はイニーとヒスイに任せよう。
ビスカはそろそろラビアラと魔都見学に行くことにした。
そのために招待状を持ち歩いている。
今回は魔王アラーニャの異常国家ペサディヤにお邪魔させてもらおう。




