第51話 シエルに咲いたダリア
ビスカは細かい仕事をケイトに任せて外に出た。
エリカと支部を建てる場所について話したりするためだ。
その場所は意外と早く決まった。
街の西側を商業地区にする計画もついでに出来た。
その中心にダリア商会が立つわけだ。
仕事を終えたビスカはエリカと自宅で話すことにした。
そこに移動するとすぐに奥の部屋に通した。
そこでお茶を飲みながら聞きたいことを聞いてみる。
「さて、落ち着いたから聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「なんでこの世界って技術の進歩が遅いの?」
「その話ですか。単純なことですよ。人間は魔族より魔力が少ないから技術が手に入っても使えないことがあります。魔族の場合は他の魔族が邪魔して技術を進歩させないんです」
酷い話だな。
でも、それなら生物を利用する技術は何で出来てるんだ?
「それならどうして合成魔獣とか作れるの?」
「あれは魔法兵器の妥協案です。人間の国王達が揃って研究して作成方法を確立させました。魔力が少なくても、生きた魔獣を集められれば作れるので彼らからしてもちょうどいい技術なんです」
「それを作るためだけに国王達が手を組んだのか。それぞれが隠し合うことで魔王にバレずにあれを完成させたと」
「そういうことです。魔王は自分達の立場を安定させるために抑え合っていたのです。ですが、魔王ミューカスやあなたの登場で進歩を始めました。魔王達が得意分野の技術を財産として扱えるほどに伸ばしたのです」
「この世界には特許とかあるの?」
「技術保護の魔法があります。5年間その技術を発明者が自分の物に出来る契約魔法です。それを使ってる間に国が自国の物だと主張して認めさせます。そうすることで特産品を作ることに繋がります」
いい話を聞けた。
その魔法はすぐにでも覚えられるだろう。
だから、他国に負けないような物を作ってやろう。
でも、デメリットはあるのだろうか。
「その魔法ってデメリットはあるの?」
「すでに技術が登録済みの場合は発動しないだけです。爆発などのデメリットは存在しません」
「登録って魔法で確認出来るの?」
「出来ますよ。そういう魔法を魔王デモニオが開発しましたから」
「うーん?もしかしてデモニオとマギアは魔法研究で登録してるとか?」
「そうです。登録された技術は開発者が許可すれば使用できるようになります。魔法の場合も同じなので魔王に対して許可を求めることで使用できるようになります」
なるほど。
知らないうちに許可を得てる可能性があるのか。
魔王フィアンマのお香のように。
あれは魔王フィアンマだけが作っている代物で、匂いがキツいから嫌われているが、それにもしも注目が集まれば。
いいことを思いついたビスカはニヤリと終わった。
それを待って察したエリカが尋ねる。
「何か商売を思いつきましたか?」
「魔王フィアンマに恩を売れると思ってね」
「それはお香ですか?あれはあまり売れませんよ。彼の調合通りにして売ったことがありますが、どの香りもあまり好かれませんでした」
「そんなのは調合を変えればいい。それに、お香がダメでもアロマなら別かもしれない。まずは好まれる匂いを調査して、それが完成したら無料で配る。気に入ってもらえたら少しずつ金額を上げて限界を探る。そして、いいところで金額を固定する」
それ以上は聞かなくても分かる。
エリカは魔王ビスカの日本人らしいやり方に懐かしさを覚えた。
「それがうまく行ったらこちらに協力してもらえませんか?」
「そっちに売ってもらうんだからね。お互い様で協力するよ」
「では、魔王アラーニャと魔王ミューカスに話をつけてもらえませんか?たくさんの服を作ってファッション誌を作りたいのです」
それはいい考えだ。
この世界ではファッションを楽しめるのが上流階級に限られる。
その層に向けてアピール出来れば稼げるだろう。
エリカがやろうとしてることは読めたな。
「それを無料で配って服の販売に繋げると。それがうまく行ったらファッション誌にも値を付けて販売する。そっちは別に高く売れなくていい。売りたいのは高級品の服だからってことか」
「そういうことです。察しが良くて助かります。まるで日本にいた頃の親友と話してるようです」
「私もそう思った。まるであいつと話してるみたいだなって。どんな話をしても噛み合うから話なしやすかったよ」
「こちらもそうですね。同じ趣味をもってるからこそ親友と呼べるところまで仲良くなりました。本当に懐かしい」
2人は共に二度と会えない親友の顔を思い出した。
ビスカは会えない人のことを諦めてこの世界に適応した。
でも、エリカは違うようだ。
戻れなくても悪あがきはしたいように見える。
もしかしたら、そのためにここまで何かをしてきたのかもしれない。
この後も2人は稼げそうな話をした。
エリカは金の亡者のようだが、ビスカは王として国のために稼ごうとしている。
今の状況では税金を集めることなど出来ない。
ましてや近隣諸国から来てもらうなんて不可能だ。
てか、近隣にはろくな国が無い。
テクノロジア、ルミエラ、ナトラ、ペサディヤ、その他の人間の国、合計して9つの国がシエルに面している。
いや、あの駄竜はどんな力で広範囲を焼き尽くしたんだよ。
そのせいでビスカ領は魔王4人と国王5人に囲まれる形になっている。
いや、使ってない土地が多いから西側の更地をマキナに与えれば分散出来るな。
この話はエリカにするわけにいかない。
今日のところは切り上げよう。
これ以上は良い話が出ないだろうから。
「そろそろ終わろうか。こちらとしても疲れてしまった」
「では、そろそろ引き上げましょう。明日から工事を始めさせていただきます。他の計画についても同時並行で動きますので、配下の誰かを担当にしてください。どうせ魔王様は忙しいでしょうから」
「そうしよう。誰が担当になっても文句言わないでよ?」
「言いませんよ。ですが、最低でも3人は担当にしてください。支部、飲食店、商店の3つに分担しないと厳しいですよ」
「参考にするよ。で、最後に聞きたいことがある」
帰ろうとしたエリカは立ち上がるのをやめて話に耳を傾ける。
ビスカはバカな話をその耳に聞かせる。
「魔王を育成する計画を考えてる。これは出来ると思う?」
「可能だと思いますよ。私も若い頃に2人の魔王を育て上げました。その片方は引退しましたけど」
「そっか。じゃあ、私が全種族から魔王を出すって言ったら応援してくれる?」
「きっと商売に繋がりますね。だから、応援します」
「やっぱりあんたはそっちを見てるよね。分かった。好きにやるよ」
「では、失礼します」
エリカは頭を下げてから帰った。
この数日後にエリカが再びやってきて工事の指揮をとった。
これからしばらくシエルに滞在するそうだ。
同じ日に英雄王ソモンが帰ることになった。
船の修理が完全に終わったらしい。
帰り際にソモンはビスカがマシな王になったと感じて国交を結びに至った。
ソモンからすれば持ち帰って決めるべきだったが、ビスカがそんな暇を与えなかった。
今のビスカなら1人でも国を滅ぼすくらい楽勝だから。
それで脅して相手に最善の選択をさせた。
これでシエルは強力なバックをたくさん得たことになる。
これで王達が手を出せなくなった。
さて、しばらくは平和になるだろうから魔都見学を再開しようか。




