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第50話 騒がしくなる世界

 ビスカ達があそこから戻ると世界中が騒ぎになっていた。

 魔王の数が17となったことで人間達は危機感を感じたらしい。

 でも、英雄王ソモンがビスカ側に居ることが知っているので、どの国も下手に動けず対策に頭を悩ませてるらしい。


 ダリア商会のエリカは商売チャンスと見てすぐに支部を建てる交渉を部下に命じた。

 場合によってはエリカ自身が動くことにするらしい。

 いつも動く動く詐欺をしてる癖に。今回は本気中の本気で動く気らしい。

 いつもなら着ないような上品な服を着て待機している。それが本気の証なのだろう。


 このエリカが動きそうだという噂もすぐに広がった。

 そのせいでさらに混沌が深まった。

 ダリア商会が魔王ビスカと仲良くする気だと敵対するのは得策じゃなくなる。

 もし、ダリア商会を怒らせればどんな手で金を搾り取られるか分かったもんじゃない。

 金のためなら何でもする社長を敵にするくらいなら魔王と仲良くした方がマシだ。



 人間達ではそういう騒ぎになっているが、魔族の方では神様の声を聞いた魔王候補者達が動き始める騒ぎになった。

 マキナの時のように戦争を(くわだ)てる者、魔王にたる実力をつけるためにひたすら戦う者、自分の力を活かす方法を模索する者、最上位形態になるために努力を惜しまない者、そういった連中がビスカの後に続くために動き回る。

 ビスカ以外の【魔王への挑戦】だ。


 その内の1人が魔王ビスカに接触しようとしている。

 それと同時に魔王マキナにも接触をしようと考えている者がいる。

 どちらもビスカ達より弱い。

 でも、ビスカなら新しい魔王を増やすことに反対しないだろう。

 ビスカは全種族から魔王が生まれることを望み始めた。

 その望みが叶えられる日は近いだろう。




    ---------------




 ビスカ達が戻ってからすぐにケイト達に会いに行くと、問い詰められた。

 すごい勢いでどういうことなのかと聞かれまくった。

 その日は面倒になったので翌日話すことにして休んだ。




 その翌日。

 会議室に4人を魔王が集まってケイト達に説明する。


「さて、詳しく話してもらおうか」


「急に魔王達に呼ばれて行ってみたらサプライズがあっただけだよ。それで私とマキナが魔王になったの」


「本当に魔王になったのか?」


「神様を疑うの?あー、そっか。神様は頭がおかしいからね。なら、これで信じる?」


 ビスカは情報石を使ってステータスを見せた。

 同じようにマキナもステータスをみんなに見せる。

 どちらの称号欄にも魔王が追加されている。

 これで魔王になったことは確定だ。

 それを見せられたケイト達は一応信じてくれたらしい。


「それを偽装することはできない。信じてやるよ。だが、魔王達と不可侵条約を結べたってのは信じられねえな」


「一応複製魔法で持って帰ってきたけど、これがあっても信じられない?」


「うーん。いや、信じよう」


 この件はこれで終わりみたいだ。

 でも、次は魔王マキナがドール達をどうするかの話になった。


「で、マキナはこれからどうするんだ?」


「それについてはビスカと話します。あなた達はビスカの配下らしくしててください」


 そう言われてケイトは舌打ちをした。

 今までは同じくらいの立ち位置だったのに、急に偉そうにされてムカついたらしい。

 そいつらが落ち着くまでビスカが魔王として話し合いをする。


「それなら聞くけど、あいつらがついて来てくれると思う?」


「思ってません。でも、魔王になったからには同族を守りたいと思います」


「ウチはやめとけって言うよ」


 魔王ラビアラが珍しく真剣な顔で警告した。

 その理由は自分と同じになるからだろう。


「魔王になったから同種族を守るために上に立つ。それは立派だと思う。でも、ウチは計画なしでやったせいで酷い目にあった。味方に出来る自信が無いならやめとけ。死ぬぞ」


 本気の警告と脅しはマキナの心に響いた。

 それでも考えを変える気は無いようだ。

 目がその未来しか見ていない。


「必死で謝ってやり直します。あの時の目的は達成してますから。何年掛かってもいい。彼らと一緒に国を作ってドールの楽園を作ります」


「本気?ウチは警告したからね!」


「いいんじゃない?私はいいと思うよ。同じ魔王になったんだから外に出て好きにしなよ」


「そんな無責なことを言わないでよ!君の友人の1人かもしれないけど。もしものことがあったら責任はビスカに来るんだよ!」


「構わないよ。それに、私はマキナが失敗しないって確信してるからね。最上位形態になったラビアラがそうだったように、マキナも他には殺されないだろうからね」


 そこまで言われてラビアラは諦めた。

 これ以上言っても止められないなら好きにさせた方が楽だ。

 だから、マキナがこの国を出ることが確定した。


「では、今日から同族集めの旅に出ます」


「そうしなさい。まぁ、それならまずはテクノロジアに行って魔王ミューカスと話さないとね」


「ハードル高いですね。でも、やって見せますよ。人形の王になったんですからね」


 そう言いながら演出で人形を作り出した。

 材料は遠くにある木や石や土だ。

 その人形達に命を与えて従者として従わせる。


「では、この子達と一緒に行ってきます。落ち着いたらまた来ますね」


「分かった。頑張りなよ」


「はい。では、行ってきます」


 彼女は挨拶した直後に席を立って会議室を出た。




 さて、ここからはシエルの今後に関わる話をしよう。

 そのためにラビアラには退席してもらおうと思ったが、嫌そうな目を向けてくるのでやめた。

 運よく未来を当てやがったな。

 無意識で強い奴が一番困る。


「ケイト、1年以内にここを立派に出来る?」


「それは何故だ?」


「うちは堕天使が中心の国だからね。魔王としてマリスやデモニオと付き合うなら街も同レベルにしたいの。じゃないと種族に上な私達のプライドが許さないの。負けたみたいでさ」


「それなら話しておこう。あっ、そういえばダリア商会が支部をここに作らせてくれないかと言ってきたぞ」


 ダリア商会はあまりいい噂を聞かない。

 表向きはしっかりとした物を売る会社みたいだけど、裏では金のために様々なことをしてるらしい。

 そんな奴らをこの国に居させるのはかなり危険だろう。


 でも、悪い話じゃない。

 シエルに受け入れればお互いに見張り合える。

 ついでにこの世界はダリア商会がだいぶ影響力を持っている。

 受け入れればお互いに大きな利益を見込める。

 このチャンスを無にするよりは危険を承知で受け入れるべきだろう。


「その申し出を受けよう。その代わりにダリア商会のトップに会わせてもらおう。信用できる奴じゃ無ければこの件は無かったことにする」


「無かったことにされるのは困ります。なので、今この場で契約を成立させましょう」


 その声に聞き覚えが無かった。

 脳が一瞬反応しなかったが、気づいたところでドアの方を見ると女がドアの前に立っていた。

 彼女はダリア商会の社長務めるエリカだ。

 行くべきだと判断して一瞬で移動した。

 彼女はビスカと話し合うために対面の席に座った。


「それでは交渉を始めましょう。我々としては新天地で支部を作れるチャンスが来たことを嬉しく思っております。さぁ、この場で実りのある話をしましょう」


「あんたの人柄は大体わかった。怖い人だ。下手したら全魔王魔王より強いかも知れない」


「そんなことはございませんよ。全員で来られれば勝てません。それは確定しています」


 嘘だな。

 魔力を完全に隠せる技術は魔王でも手に入れるのに修行が必要だ。

 それを会得してるのに弱いなんてことはあり得ない。

 平気で嘘をつくなんて、やっぱり怖い人だ。

 それでもチャンスをドブに捨てたらもっと怖いことになるだろう。

 国を守るためにもここは間違えられない。

 ラビアラもイニーも動かないでくれよ。


「その話はやめよう。さっき実りのある話をしようと言ったな」


「はい。言いました」


「私の独断で悪いが、シエルはダリア商会を受け入れる。これはしっかりと考えて出した答えだ」


 その回答を聞けてエリカは嬉しそうに笑った。

 それから満面の笑みで細かい話を始める。


「それでは契約しましょう。我々は良い品を仕入れます。あなた方はそれを購入していただければいいのです。気に入らなければ言ってください。大陸中の物を集めていますので、すぐにでも商品を入れ替えます」


「てことは、各国で集めたお金を他の国に払って仕入れてるのか。利益は出てるの?」


「当然です。我々は商人ですよ?利益が出ないのに仕入れていてはただの馬鹿です」


「なら、良い話がある。ダリア商会が中心でいいからさ。テクノロジアに負けない飲食店とかやってみない?」


 急に(もう)け話をされてエリカの眉が一瞬ピクッと動いた。

 これはいい反応かもしれない。

 このチャンスを逃さないためにプレゼンみたいなことをしてみる。


「世界各地の物を仕入れられるんでしょ?なら、それを利用してもっと利益を出せる商売をするべきだと思う。その第一号が飲食店だ」


「稼げると思ってるのですか?」


 ここに来て初めてエリカがキツい目つきをした。

 これは本気で話を聞いてる感じだ。

 うまくやればシエルにも利益が見込める。

 言葉をもっと選んで話さないと。


「テクノロジア並みの飲食店を各国で展開する。そうすればテクノロジアまで行かないと食べれない物が自国に居ても食べれるようになる。テクノロジアに集中していた飲食店のイメージを奪えば利益はこちらに流れるようになる」


「良い考えです。もしかして異世界転生者ですか?」


「そうだ。私の考えたことは異世界のやり方だ」


「納得です。ですが、私も異世界転生をしています。それでもその方法を選びませんでしたよ。魔王を怒らせるべきでは無いので」


「それなら心配ない。同じ転生者として私が後ろ盾になろう」


 その申し出でエリカの目が輝いた。

 成り立ての魔王でも後ろに居てくれれば守ってもらえる。

 ダリア商会からしてもこれは逃せない大チャンスだ。


「では、それで行きましょう。同じ転生者として頼りにしてますよ」


「それなら割合を決めよう」


「支部の件を受け入れてくれたのでそちらに多く支払いましょう」


「そこは気にするな。うちが3のそっちが7でいい」


「それで良いのですか?もし本当に大きな利益が出たならそちらには受け取る権利があるのですよ」


「いいの。こっちはまだまだ実力をつけないといけない段階だからね。案をダリア商会が通したってのが必要なのであって、金は別に今いらないんだよ」


「そうですか。では、それで進めましょう」


 彼女は話がまとまったことで握手を求めて近づいてきた。

 それに応えるためにビスカも席を立って近づく。


「人魔共生国家シエルの魔王シエラ・ビスカだ。よろしく」


「ダリア商会社長のネゴシオ・エリカです。よろしくお願いします」


 2人はしっかりと名乗ってから固い握手を交わした。

 これに対して居合わせた者達が拍手を送った。


 この件は数日後に広がって各国の動揺を大きくした。

 あのダリア商会が初めて魔王と手を組んだというだけで騒ぎなった。

 それなのにエリカが魔王の案を通したという話まで広がって国王達が動揺している。

 一方的にダリア商会が利益を得るだけだったのに、魔王の案が通ったことで初めてダリア商会の利益が分配されることになる。

 これは大陸中で伝説扱いになった。

 つまり、これがビスカの最初の偉業となったわけだ。

 大したことないように見えるが、この世界ではとんでもないことなのだ。

 魔王ビスカの偉業としては申し分ない。


 これからダリアとの関係はどうなって行くのだろうか。

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