第4話 優しすぎる世界
名前をもらってから時間が経った。
あれからビスカは人間だった頃に出来なかった自由な買い物を楽しんだ。それはもうあちこちの店の人達に顔を覚えられるくらいに寄りまくったらしい。
それに付き添うことになったケイトは疲れ知らずなビスカに振り回されてうんざりしていた。でも、幸せそうな顔を見れたから許して付き合い続けている。
「さて、大体のものは揃ったかな。そろそろ日が沈んできたし、どこに泊まろう」
ビスカは神様の無限袋を抱えながらそう言った。
ちなみに、袋のことは雑貨屋さんが知っていた。教えてくれた話によると神様が地上を散歩した時にたくさんのお土産を入れるために作ったらしい。
中は無限の空間になってるから買ったものを全てそこに詰め込んだ。本当に便利なアイテムだ。
それを抱えるビスカの夕日に照らされた横顔にケイトが提案する。
「うちに泊まりな。みんなに話は通してるから準備ができたら移動だ。だが、今日は間に合わないだろうから泊めてやる」
「本当にいいの?散らかってたりしない?」
「ははっ!残念だったな!散らかす以前にほとんど家に居ないから物が無いんだよ!」
「それ威張れないよ。でも、それなら泊めてもらおうかな」
異世界に来てようやくまともに寝れそうだ。
安心からかビスカは元の世界に残してきた家族や親友のことを思い出してしまった。
「あいつら元気かな…」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないよ。さぁ、家に連れて行ってよ。楽しい時間はあっという間に過ぎてもうすぐ夜だよ」
「そうだな。ま、もう見えてるからすぐに着くぜ」
そう言われてから1分も経たずに到着した。
彼の家は街の外れにある。隣にリーダーの立派な家があるせいで小さく見える。
「おい、見比べるなよ。悲しくなるから」
「あ、ごめん」
本当に悲しいくらいに差がある。
でも、なんでこの街のトップが端っこにあるんだろう。
ま、疑問に思ってもこれは聞けそうにない。だから、黙ってケイトと一緒に家に入る。
「お邪魔します」
家の中は本当に散らかってなかった。でも、暗くて何も見えない。
ビスカがそう言う顔をしてるとケイトが電気のスイッチのようなものを押した。
すると、電球のような物が光って家を照らした。
「これは魔石を使ってるんだ。稀に洞窟とかに生成されるんだ。その土地の自然魔力が結晶化した物だからそんなに数は無いんだが、この近くに光の洞窟があるから使い放題ってくらいあるんだ」
「つまり、このスイッチは石の魔力放出を抑える仕掛けがしてあるんだ」
ビスカはスイッチをまじまじと見ながら考察を述べた。
それが当たったようでケイトは驚いた顔をした。
「よく分かったな。その通りだ。魔石は魔力を勝手に放出して消費しちまうから、使わない時は繋げた魔法陣をこれで起動させて封じ込めるんだ。光の場合はこの使い方以外をしてる奴なんて居ない」
「そうなんだ。じゃ、興味も失せたから食事の準備しようか。手伝うよ!」
やる気はあるようだが、ケイトは今回手伝い断ることにした。やる気が空回りして汚されたら周りがうるさそうだから。
「いや、僕だけでやるからいいよ。ゆっくりしてて。それに今ビスカは客人なんだから手伝いなんてさせたら怒られちまう」
「そうなの?じゃあ、お言葉に甘えて休もうかな」
そう言うと了解したことを態度で示すように奥のイスに座った。
それからすぐにドアを叩く音が聞こえた。その前にちょうどケイトが居たので応対する。
「はーい。どちら様ですか?」
そう言いながら開けるとご近所の連中が食い物を持って集まっていた。
その光景にケイトは混乱して言葉が喉から出なくなった。でも、奥さん達が買って話してくれる。
「ビスカちゃんのお守りしてたろ?ならここにいると思ってお裾分けに来たんだけど、あの子いる?」
「えっ、えぇ。うちに泊まることにしたんで」
「ならよかった!一緒にこれ食いな!」
そう言って1人がグイグイ押して手渡すと、うちもうちもと次から次へと他の人達も料理を渡していった。途中で持たなくなったので、他の人達は中に入ってきてテーブルに置いていった。
こんなに食えないってくらい置いていってくれた。で、奥さんの1人が一応言ってくれる。
「食い切れないなら諦めて捨てていいからね。でも、ちゃんとあんたも食ってあの子にも食わせなよ!」
「あぁ、分かったよ。ありがとな。色々と」
「近所同士の付き合いじゃない!これくらい当然よ!じゃ、そろそろ行くわね。また明日」
そう言って嵐は帰って行った。1人が帰ると他も一緒に散っていった。
ケイトはこの山をどうしろと!と思いながら困ってしまった。まぁ、一応そのまま奥に進むとビスカが上からヒョイヒョイっと料理を取り上げてテーブルに乗せた。
全部を並べると多分10人分くらいはあるだろう。普通に考えてそんなに食えるわけないだろ。
「あの人達って普段からこうなの?」
「いや、今日はビスカが来た記念日みたいなもんだからはりきったんだろうな。ま、ドア閉めてくるから食器取ってくれるか?」
「分かった」
で、彼は開けっ放しになってしまった扉のところに行った。
その間にビスカはキッチンに入らせてもらう。見た感じた前時代的って印象だ。でも、コンロとかは魔石を利用してるらしい。便利な物だ。
そこを物色しながらスプーンやフォークとかを取り出した。これも向こうと変わらないようだ。
それを持っていくとケイトが食事ができることへの感謝を伝えるために祈っていた。それを簡略化すると日本のアレになるわけだ。
「おっ、持ってきてくれたのか。じゃあ、冷めないうちに食べよう」
「うん。そうしよう」
2人は席についてみんなの料理に手をつける。
味付けも見た目もどっかで見たことあるようなばかりだ。だから、ビスカは好き嫌いせずに食えた。
最終的にほとんどをビスカが食ってしまった。どうやら天使の肉体はこれくらい食べないと満腹にならないらしい。なんて金のかかる体なんだ。
「満足したのか?」
ケイトは微笑みながらそう尋ねた。
「満足したよ。これで十分だから、もう寝ていい?なんか眠い」
「そりゃそうだ。天使は夜の活動が苦手だからな。ゆっくり休みな。で、そこのベッドを使ってくれ。僕のことは気にしなくていいから」
「分かったぁ〜」
お眠なビスカはそのままフラフラとベッドに入ってすぐに寝てしまった。
この街は本当にいいところだ。ビスカを快く受け入れてくれた。こんな平和が続けばいいのに思いながら深い眠りにつく。
おやすみなさい。