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第48話 ラビアラのターン

 ビスカは魔獣全体のレベルを上げるために上位形態達に説明を始めた。

 その前にラビアラと話し合って彼らにチーム名を与えた。

 名付けて【野獣軍団(セルヴァティコ)】だ!


 これで明確にラビアラが認めた集団であることを主張できる。

 こんな立派な組織に入れる可能性があるなら彼らも少しでもやる気が出るだろう。

 それを狙って名付けた。


 その集団に魔王の友人がやることを説明する。

 最初は睨まれたがあのラビアラに友達が出来たと知ってニコニコしてくれた。

 だから、ビスカとしてもやりやすい状態で話せる。


「あんたらには上位になってない奴らを教育してもらう」


「具体的には?」


 ライオンのような魔獣がそう尋ねた。

 それに対してビスカはしっかりと答える。


「あんたらの判断基準でタイプ分けをしてもらう。そのタイプに合わせて得意を伸ばすんだ。あんたらもそれに合わせて分かれてもらう。グループごとに強くしろ」


 そこで一旦ラビアラの方を向く。


「ラビアラ、褒美は与えられそう?」


「より濃い血を与えるとか?それなら最上位にならなくてもウチ並みに強くなれる。そのついでに幹部として数人の枠に入る権利を与えてもいいよ」


「だそうだ。褒美に不満があるなら成果を出してから文句を言え。それまでは教育に集中しなさい。それをしてる間は魔王ラビアラを借りるよ。代わりにうちの建築家とかを連れてくるから、何かあったら頼りなさい。一応強いのを送るから」


 この魔獣育成計画に彼らは納得してくれたらしい。

 感謝の気持ちを込めて(ひざまず)いてビスカのことを認めてくれた。

 ライオンの魔獣が感謝を口にする。


「ありがとうございます。ビスカ様は我らの救世主です。ここは我らがしっかりとやっておきます。なので、魔王様をよろしくお願いします」


「分かった。それじゃあ、現状も把握できたし、そろそろ行くよ」


 そう思ったが魔王ラビアラが引き止めた。


「ちょっと待った。ウチからも言いたいことがある。言ってもいい?」


「別にいいよ」


 友人に時間をもらえたラビアラは改めて魔王らしく配下の前に立つ。

 そこでいくつかの指示を出す。


「君達はビスカが言ったことをやってもらう。それと並行して森の魔蟲(まちゅう)に協力をお願いしてもらいたい。糸と蜂蜜を集めたいから。で、頼む相手は無償かウチの助けが必要な奴でお願い。今のウチらに出せる物は無いから」


「承知いたしました。他には?」


 馬の魔獣がそう言った。


「出来れば急いで成長させて欲しい。そうしないと生産に回す人材が足りない。技術を利用するために勉強熱心な奴とかを優先して育てて」


「他にはございますか?」


「出来るだけ人魔国シエルとは仲良くしたい。こちらからお返しできるものを用意して。あと、来てもらう人達のために掃除とか徹底的にして。仕事が多すぎるのは分かるけど、ビスカの国民にも気に入ってもらわないといけない。だから、優先順位は低いけど本気で頼むよ」


「かしこまりました。他にはございますか?」


「もう無いよ。さぁ、全員仕事を始めて!ウチは今からもう一度出かけるから」


「では、行ってまいります」


 魔獣達はすぐにバラけて仕事に向かった。

 ラビアラからしても少し心配みたいだが、今は魔王の育成もしないといけないのでそろそろ行くことにした。


「さぁ、行くよ」


「分かった」


 ビスカは来たと同じ魔法を発動した。

 それによって一瞬でシエルに帰って来れた。




    ---------------




 戻るとビスカはすぐにマキナに人を貸す話を伝えた。

 そういう大切なことは相談しろと言われたが、すぐに職人達に話が伝わった。

 ついでに最近ダリア商会をやめてまで働きに来てくれた商人さんに相談した。

 魔王ラビアラの金銭面の教育をしてくれないかと。

 結果は快く引き受けてくれた。

 ちなみに、ビスカも夜にみっちり仕込まれている。

 堕天使が一番元気になる時間を熟知してやがる。あの商人。




 今は向こうに送るべき人材を転送した後なので暇になってのんびりしている。

 あまりに暇なのでビスカはラビアラを誘ってマーチの研究室に行くことにした。

 そのためにラビアラが借りている家にお邪魔する。


「ラビアラ、勉強はまだ始まらないんでしょ?」


「まだ始まらないよ。商人のクライさんが勉強に使う物を用意してるんだって」


「それならまだ時間あるだろうから遊びに行かない?マーチっていう妖精が魔獣の遺伝子から動物を作り出す研究をしてるんだ」


 魔獣の魔王には一応見せた方がいいだろう。

 ラビアラの同族を改造するのとほぼ同じだから。

 許可を得られられなければ計画を白紙に戻して、許可を得られれば計画をそのまま進める。

 その判断をしっかりとするために連れ出すのだ。


「分かった。魔王としてそれは見学させてもらう」


「それなら行こうか。時間がもったいない」


 そう言うとビスカはまた魔法で瞬間移動した。

 研究所は街の西側にポツンと立っている。

 その二階でマーチは1人で研究をしている。

 そこに着くとマーチが出迎えてくれた。まるで来ることが分かってたかのようだ。


「ようこそお越しくださいました。おもてなしもできませんが、ゆっくりしていってください」


 そう言ったマーチはどうやら寝ていないようだ。

 目元がすごいことになってる。


「研究の成果を見たいんだけど。どうなってるの?」


「順調とは言い難いですね。一応『再構築(リメイク)』を使って遺伝子を改造してるのですが、なかなか育ってくれないのです」


「でも、獣人は成功させてるんでしょ?なら、マーチでも出来るんじゃないの?」


 軽くそんなことを言われてマーチは不機嫌になった。

 でも、すぐそばに魔王が居るから抑えてくれた。


「それこそ一度本物を見ないとダメですね。どうやって魔獣から魔を取ってるのやら」



 ため息混じりに吐き出された言葉に魔王ラビアラが反応した。


「魔獣から魔力を取り除いて獣にするの?」


「おっと、お気に召されませんか?」


「マーチさんだっけ?それなら遺伝子操作だけじゃダメだよ?」


 これはいい反応なんじゃないか?

 この調子で研究の後押しをしてくれれば魔王が認めたことになる。

 ここはマーチに任せよう。


「何がダメなのですか?」


「魔力って結局は自然に湧き出る生命エネルギーなんだよ。それを使えないようにして魔獣とは別の生き物にする。それなら、魔力を体内溜められないようにするんだよ」


「それはどのような方法で?」


「あの国がやってるのは生まれる前の段階でそういう遺伝子を組み込むやり方だよ。それより安全に出来るよ。そのスキルで最初から別の生き物として作り替えるんだよ」


 それは盲点だった。

 マーチは改造した遺伝子を組み込むやり方をしていた。

 でも、最初っから別の生き物に作り替えるなら安全だし簡単だ。

 慣れた力で慣れた方法で出来てしまう。

 そんなことを魔王が気づかせてくれたことでマーチはどうやらラビアラを気に入ったらしい。


「ですが、それだと見た目が最悪になるのでは?」


「再構築で遺伝子に命令を書き込むんだよ。魔獣をベースにした見た目を想像してね」


「それならデザインを描く必要がありますね。そちらに時間を使いましょう」


「それでいいと思う!あっ。でも、完成前に魔王達の許可をもらわないとダメだよ。生命の冒涜は許されないからね」


「正確には何人の許可ですか?」


「3人だね。ここには魔王が居るみたいだから、その人とウチで2人。残りはビスカが頑張って魔王になるのを待つか。他の魔王と話し合うかだね」


「分かりました。ありがとうございます」


 完全に仲良くなってるよ。

 それにしてもラビアラはそういう知識をたくさん持ってるな。

 マニアックな物ばかりだけど、うまく利用すれば面白いことになりそう。

 とりあえず今回はこのくらいで帰ろうかな。

 一応ラビアラのお墨付きが出たわけだし。

 さて、次は何をしようかな?

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