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第47話 ティーアの野獣軍団

 ビスカとラビアラは準備を終えると2人でティーア大森林に向かった。

 その途中でビスカは移動が面倒になって魔法を使った。

 魔王デモニオが使っていた完璧な転送魔法だ。

 あれを完全に覚えて使用できるようになっていた。

 その魔法でラビアラの支配領域に瞬間移動した。


 到着するとビスカは眉間にシワが寄るほどの悪臭を感じ取った。

 これはおそらく食い残しなどが腐った臭いだろう。

 それにしてもひどい悪臭だ。

 洞窟内でこれでなら外はどんな惨状なんだよ!

 そう思ってるビスカに魔王ラビアラが話しかける。


「この洞窟はウチの城みたいな物だよ。ここにいるのはおよそ3000体の上位形態だ。ウチと同じ最上位形態は居ない。他は外で生活するように言ってる。その数は100万だ。大陸中の仲間達が集まって、9割の魔獣がウチの下についた。ビスカなら全員をまとめられる?」


「私のところには約200万の堕天使が集まってる。その全員を私はうまく使いこなして国として機能させてる。まとめられてると言えなくもないでしょ」


「となるとウチの知識不足も原因かな。やっぱり人間の文化を勉強するべきだったか。やり方を間違えたね」


「その間違いに気づけたのならやり直せばいい。私も手伝うからさ」


 そう言ったことでビスカは魔王ラビアラの憧れの人になった。

 最初に見た立派な奴が憧れになることがあるだろう?

 魔王ラビアラにとってその立派な奴がビスカしか居ないということだ。

 ルーチェもブルームもあまり友好的では無いのかもしれない。

 それならビスカはこの立場をうまく使うべきだろう。


「ちなみに、ここは金とかあるの?」


「おかね?」


 ダメだこりゃ。

 この世界でも基本はお金だ。

 物々交換も出来なくはないが、基本はお金のやり取りで生活を回している。

 特にダリア商会が昔から絡んでる国はお金の優位が揺るがない。

 それなのにお金が無いどころか知らないなんて!獣にも程がある!

 ビスカは思わず頭を抱えてしまった。

 それからため息をついてやるべきことを口にする。


「人間や他の魔族と上手くやるにはお金っていう物々交換の別バージョンを使うんだ。お金はうちから貸すとしよう。まぁ、うちもそんなに無いんだけど」


「借りるってことは返さないといけないの?」


「そうだ。お金関係については後でわかる奴を貸してやる。そいつから勉強しろ」


「分かった!」


 さて、これで1つの問題は見つけられたが、どうせ他にも問題があるだろう。

 住居や食い物、衣服、基本だけでも全滅か。

 他の問題だと考えられるのは、他が獣ってことかな。

 これは難しい問題だな。どうにかしなければ。

 まずは外の状況から確認しよう。


「さて、ちょっと外を見てくる。全部見ないと分からないからね」


「あ!ちょっと!それはダメ!」


 魔王ラビアラに止められたが、無視して外に向かった。

 音の数の多い方に向かえば出られるでしょ。

 そう考えて狭い洞窟内を飛び回っていると、数十秒で外の明かりが見えた。

 そこから外に出る。


 ビスカが外に出た途端に多くの魔獣が一斉に襲ってきた。

 洞窟から頭が出たくらいのタイミングで上から襲おうとしてるのが見えた。

 なので、ビスカは瞬天で一気に通り抜けた。

 そのせいで魔獣達は山のように重なって動けなくなってしまった。


「なんだ。あいつら」


 そう言ってると次の魔獣達が走って向かって来てる。

 それを見てビスカは大きなため息をついた。

 これの原因って同族の反感を買ったラビアラなんでしょ?

 それなら今すぐにでも威厳か希望を見せるべきでしょ。

 そのためにビスカは今新しく手に入れたスキルを発動する。


「言葉が通じなくてもこれは誰にでも通じる。でしょ?」


 そう言ったと直後に『魔力圧』で魔獣達を抑え込んだ。

 これは本来真っ直ぐに進む魔力に圧力を与えるスキルなのだが、使い方によっては敵に圧をかけることも出来る。

 それによってまるで何かに押しつぶされるように魔獣達が地に伏した。

 これでもまだ襲ってくるようなら、仕方ないがぶっ飛ばすしか無い。


 しばらく圧をかけて頃合いを見て解除した。

 もしもの時のためにビスカは静かにエンチャントをする。

 そうしてる間に魔獣達はビビりながら数歩ずつ下がる。

 そこに魔王ラビアラが猛スピードで走って合流した。

 相変わらずの脚力だ。


 彼女は同族達の前に出るといつものように偉そうな態度をとる。


「君達!ビスカは私の友人だ!傷つけるなら蹴り殺す!」


 片足を上げて威嚇する。

 魔獣達はその強さを理解してるから引き下がる。

 でも、ここで見失ったらビスカのやりたいことができない。

 だから、急いで引き止める。


「こんな奴の言うことに聞かなくていい。駄目魔王だからね」


 そう言ってやると魔獣達は驚いたような顔でビスカのことを見つめた。

 まぁ、ビスカの少し前にちょっと怒ってる魔王が居るから下手なことを言いたく無いんだけど。

 でも、魔獣との未来を盤石なものにするならここでこいらを変えるチャンスを逃すわけにはいかない。


「こんな奴だから不満があるんでしょ。なら、あんたらの駄目魔王を立派にしてやる。そのためにあんたらも努力しろ。上が良くても下がダメなら認められない。それは強さでも分かってる話でしょ」


 その話を聞いた魔獣の数体がうなずいて見せた。

 ちゃんと伝わってるようで最高だ。

 これならすぐに変えられるだろう。


「なら、あんたらはこの話を仲間達に伝えなさい。その上で全体的に努力してレベルを上げるの。その褒美に魔王ラビアラから血をもらえるようにすれば良い。優秀ならこいつだって血を分けてくれてるでしょ」


「魔獣は上位形態がたくさん居ても許される種族だからね。まぁ、本当なら魔王の下にいるのは全員が成長済みの方がいいんだけどね」


「それが出来ないのはなぜ?血を与えるに値しない連中だから?」


「ウチから見ればそうだね。他は頭が良くて人間と同じように考えるから血を分け与えた。でも、他は頭も力も足りないから血を与えても反応しないと思ったの」


 弱者が血を与えられても成長できない。

 多くの魔獣はそれに覚えがあるらしい。

 どっかで人を食ったな。

 それでも変わらない理由が知能もパワーも足りないからだとすると、魔王ラビアラはやっぱり異次元ってことなのだろう。

 そのレベルを求められても困るってのは確かにわかる。

 そんなこと言われても努力する気力も無くなるだろう。

 なら、もっと低い目標を与えればいい。


「それなら基準を変えよう。どちらかが足りればいいのなら、自分の得意なことをすればいい」


「どういうこと?」


「本で勉強して知ったんだけどさ。魔獣にはいくつかのタイプがあるらしいの。魔王になるのはパーフェクトなタイプだね。その下にパワー、ディフェンス、スピード、スペシャル、スマートが居るの」


「なるほど!得意分野を伸ばせば良いと言うんだね!」


「そういうこと。ラビアラは私の友達になったからね。その仲間がしっかりしてないと心配になるよ。だから、あんたらの魔王を成長させる代わりにノルマを課す。最低でも5万は上位になる力を付けなさい。互いを支え合えば簡単だよ」


 こんな難題を押し付けられて魔獣達は文句がありそうな顔をした。

 でも、ビスカが怖くて何も言えない。

 それを察して言ってやる。


「ラビアラはあんたらより大変な勉強をすることになるんだ。鍛えらたり、勉強したりするくらい出来るよね?」


 脅されて彼らは首を縦に振って見せた。

 それを見てる間にビスカはいい案が思いついた。


「そうだ。ラビアラの上位形態達に教育を任せよう。そうすれば野獣軍団もマシになるでしょ」


「それなら洞窟に居る奴らを呼ぼっか?」


「そうして。で、彼らが反抗するようなら実力を軽く見せてやれって命令して」


「分かった!」


 魔王ラビアラは同族達にも見せない明るい顔で洞窟に走って行ってしまった。

 ビスカは残った魔獣達に念押ししする。


「あんたらだって成長すればあそこまで行けるんだよ。努力しない奴はいつまでもザコと言われるけど、努力すれば少しはマシになる。先に行った連中の後を追うならサボらないように。成長できなければ、その時は扱いを考えよう」


 その脅しとも取れる念押しで彼らはやらなければ思った。

 そこに魔王ラビアラが上位形態の配下達を連れて戻ってきた。

 その集団を見てビスカも驚いた。

 どいつもこいつも堕天使の半分くらいの実力を持っている。

 これをわかりやすく言い換えるなら、マキナと戦った頃のビスカくらいの実力を持っている。

 つまり、全員がBランク+に達しているということだ。


 そんな化け物集団を大きくしてしまうことにビスカはちょっとした後悔をした。

 もし、ラビアラと敵対することになったらこれを相手にしないといけなくなる。

 数は少なくても全員が何かに特化していたり、複数の得意分野がある連中だ。

 これが増えたら堕天使でも負けるかもしれない。

 これが未来のある種族の未知数な強さかとビスカは戦慄した。

 出来ればあまりここに来たくないと思った。

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