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第45話 勇者のなり損ないの許可

 英雄ソモンは誰よりも先に上陸した。

 そこから先に見える街を見つめる。

 まだ国と呼べるほど立派ではない。

 だが、建物の数や住んでる奴らの数を考えれば国と認めても良いレベルだ。


 英雄ソモンはその街を見に行こうとしたが、すぐに足を止めた。

 原因はイニーだ。

 彼女が笑顔で英雄のことを見ていたから足が止まってしまったのだ。

 つまり、英雄は一眼見るだけで相手の実力を理解したということになる。

 しかも、相手がSランクの(じょう)であることも分かった。

 そんな化け物には英雄でも勝てない。


 そこにビスカが降りてきた。

 その瞬間にイニーは殺気を隠した。

 この短期間で彼女はたくさんのことを学んだ。

 だから、すぐに喧嘩を売らなくなったのだ。


 ビスカはそこで何があったか知らないままソモンに話しかける。


「まだ荷物を下ろすのに時間がかかりそうだね。それをくれるって言うからもらうけどさ。運ぶために仲間を呼んでくるよ」


「その前に聞きたい。あいつはお前の何だ?」


 イニーのことを指しながらそんなことを聞いてきた。

 ビスカは真面目な顔で答える。


「イニーは友達だよ。魔竜帝スペラーレの娘でもある」


「はっ!?」


 ソモンは驚きながらすごい速度でこっちを向いた。

 まぁ、そうなる気持ちは分からなくない。

 誰でも知ってるような竜の娘がいるなんてかなりやばいからね。


「イニーの友達になってることに驚いたの?」


「いや、半分合ってるが半分間違ってる」


「どういうこと?」


「本来Sランクってのは王様、魔王、勇者、英雄しかなれないんだよ。それなのにあいつはSランクって…」


「それはまおうだからだぞ!」


「おぉー!?」


 ソモンはイニーが急接近したせいで腰を抜かしてしまった。

 しかも、本人がその口で自分が魔王の一角だと言ってしまった。

 てか、初耳なんだけど。

 ビスカは自分も知らないことを言われたので確認する。


「イニーは魔王なの?」


「そう!おなじひとがいないからなれちゃった!」


「ライバルも居ないし、現在魔王になってる奴も居ないからか。でも、いつなったの?」


「ビスカにまけたつぎのひ!」


 マジかよ。あの神様最高だな。

 最強の味方なら許せるでしょ。もし、タイミングが戦闘中だったら神様を絶対に呪うけど。

 でも、それって見てたってことだよね?なんでビスカじゃないの?


 神様の考えは読めないが、今はそれを考えないことにした。

 とりあえず街に戻ろう。


「……これ以上は頭痛くなりそうだから先に戻ってるよ。準備が終わったら街に来て。役所に居るから。場所がわからなければ誰かに聞いて、そしたら分かるから」


「おう。俺も整理できたら行かせてもらう。ちゃんと話さないといけないからな」


「それじゃ、イニーも行くよ」


「はーい!」


 2人は彼らから急速に離れていく。

 その姿を見送った英雄は作業中の仲間達の方に戻る。




 ---------------




 さて、客人と話し合うためにビスカは会議室に幹部達を集めた。

 その中にはマキナのスカウトとルーチェの後押しで来ることになったマーチの姿もある。

 あの戦いの後、魔王ルーチェが無理やり置いていく形でマーチを預けたらしい。

 マキナも強引すぎてかなり戸惑ったそうだ。


 そのマーチを含めて現在幹部は10人だ。

 ヴォルカナにも声をかけたから、人型の姿で参加してくれることになった。


 彼らと一緒に待っていると、英雄ソモンが1人で会議室に入って来た。

 彼を見た瞬間にヴォルカナとヒスイが驚いた顔をした。

 そういえば誰が来たのか言わなかったな。

 彼はビスカと対面の席に座った。


「ようこそ。私の街へ」


「大工の手配ありがとうな。もう仕事を始めてくれてるぜ」


「一週間以内は仕事が終わるそうだから、それまでは宿に泊まるといいよ。つい最近こんな日のために建てさせたんだ」


「長期滞在まで許してくれなんてありがたいな。その代金は積み荷のお宝ってことで」


「それでいいよ。さて、それじゃあ何の目的で海に出たのか話してもらおうか?」


 ここから真面目(?)な話をする。

 英雄は自分のことについても話す気だ。

 その前に今聞かれたことについて答える。


「うちの国は漁師の国なんだ。それなのに海に出れなくなったから伝説の化け物を2体も倒した。リヴァイアサンとクラーケンだ。そいつらと連戦したせいで船がボロボロになっちまった」


「なるほど。積み荷の中にあった何かの素材はそれか。でも、何であなたは英雄って呼ばれてるの?」


「俺はなり損ないなんだよ。勇者のな」


 彼はあまり話したく無さそうな顔をしてる。

 でも、彼の目には覚悟が見てとれた。

 だから、ビスカは聞いてみることにした。


「それはどいうこと?」


「各国から実力者を選ぶ。その中から神によって選ばられた者を勇者と呼ぶ。英雄は選ばれなかった連中に神様が与える称号だ。実力は勇者とほぼ同じだが、圧倒的にスキルに差が出てるんだ」


「つまり、勇者と同じように時には魔王と戦うと?」


「そうだ。もしもの時はお前とも戦う。だが、俺は英雄になった後に王様にもなってしまった。だから、最近はずっとそれらしい戦いをしてこなかったんだ。その結果があれだ」


 確かに腕は鈍ってるようだ。

 今の彼にビスカが負ける可能性は低いだろう。

 てか、ビスカでダメならイニーをぶつければいいし。


 彼は話を切り替えるチャンスを見て動いた。


「そういえば、国名は決まってて人も居るんだろ?」


「そうだよ。ほとんど堕天使だけどね」


「なら、俺が国として認めてやるよ。この世界では1人の王が認めれば、規模とかの条件を満たしてれば国になる。そうやって出来た国がほとんどだ。現在の82ヵ国の内10ヵ国は俺が認めたしな」


 これは本当に願ってもない申し出だ。

 ビスカには認めさせられるほどの力などない。

 このチャンスを逃したら魔王を頼るしか無くなる。

 それだと人間からしたらかなり恐ろしいことになるだろう。

 だから、人に認めさせる方がいい。

 てことで、認めてもらうことにした。


「それならお願いしようかな。国に帰るのは私のおかげだし、それくらいしてもらってもバチは当たらないでしょ」


「では、俺も王としてちゃんとやらんとな。一国の主同士になるんだからな」


「分かった。それで何をすれば国として認められるの?」


「これに名前を書いてくれて。俺の分は書いてあるから、その下に書いてくれて。そうすれば今日から全世界に通達されて国として機能し始めるぜ」


「そっか。じゃ、書いちゃおっか」


 ビスカは彼がどこかから取り出した紙を受け取った。

 その内容に問題がないことを確認して名前を書く。

 一瞬書き方がわからなかったが、すぐに神様の力で書けるようになった。

 フルネームで書き終えると、紙が81個の塊に分かれてどこかに飛んでいった。

 これで今日からここは正式に国となる。


 これからビスカは王という扱いになる。

 手始めに目の前の英雄王に対して国交を結ぶ提案をしてみよう。


「これで正式に認められた。なら、ソモン王に条約を結ぶことを提案したい。いかがだろうか?」


「確かにそちらと国交を結ぶ必要はあるだろうな。すでに魔王になりかけてる奴を敵に回すのは得策じゃない。それに、裏に魔王と竜が控えている。さらに、Aランクがごろごろと居やがる。この機会を逃せばどうなる?」


 そう聞かれてビスカは冷ややかな笑みを浮かべた。


「すぐに敵対関係にはならない。でも、そちらが判断をいくらでも間違えれば、その時は戦争だ」


 そうなったとしてもソモン側からすればビスカ達などいくらでも倒す策を用意できる。

 だから、本来は恐れる必要などない。

 しかし、ビスカは噂になったことのある天使だ。裏に魔王マリスなどが居てもおかしくない。

 知らない人ならそう考える。実際に戦争となれば、ミューカス、フィアンマ、マリス、ラビアラの軍はビスカ側につくだろう。

 そうなれば中規模のソモンでは勝ち目がなくなる。


 ここで判断を間違えないためにソモンは保留にすることにした。

 それをビスカが受け入れてくれたらいいけど。


「この件を一度持ち帰らせてくれ。うちの大臣達と話し合った上で決めたい。で、条約を結ぶ際にはそちらからお越しいただけないか?こちらにも体裁(ていさい)というものがある」


「分かった。こちらはまだそういうのが慣れてないからな。内容もそちらが考えてくれて構わない。もし、気に食わなければその時は話し合おう」


 話し合おうと言ってるのにビスカは隠しきれないほどの殺気を出している。

 それに同調するように幹部達も相手に対して威嚇(いかく)している。

 その態度にソモンは呆れた。

 ここで初めて英雄らしい強さを見せつける。


「話し合う気のある態度じゃねえよな?俺はもう出る。宿から出る気はねえからな。次会う時までに理解しとけよ」


 そう言ってから彼は本気の殺気を見せた。

 剣も抜いていないのに、ビスカ達はその殺気だけで勝てないと悟った。

 そして、ケイトやループはあまりにも強い殺気に驚いて苦しそうにした。

 これが勇者のなり損ない。

 最後にえげつないものを見せつけて出て行った。

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