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第42話 魔王の復帰

 ビスカは勝利してからしばらく叫び続けていた。叫んでる間に姿を戻した。

 それが落ち着いた頃に全魔王がビスカの目の前に現れた。

 ヴォルカナは自分の王がいるからどこかに隠れたらしい。

 ビスカだけにやばい奴らを任せやがって。


「ごめんね。まさかミュー達が帰ってすぐにこうなるとは思わなかったの!」


「私はまだ居ました。用事がありましたので」


「ウチも居たけど今は黙っとけ!怒られるぞ!」


 この魔王達は結局役に立ってくれなかったな。

 でも、消耗させてくれたから勝てたと言える。

 感謝しないとね。


「勝てたのはお三方のおかげだ。ありがとう」


 感謝されて3人は同じように照れた。

 実際にはどこまで削ってくれたか分からないけど、もしイニーツィオの魔力がフルにあったらまずかったかも知れない。

 それなら感謝して正解だろう。


 彼女達が照れている横におっさんが立った。

 その姿を見てすぐに魔王ミューカスは2人と一緒に下がった。

 どうやら見覚えのないこのおっさんが魔竜帝スペラーレらしい。

 確かに魔力の質はヴォルカナとイニーツィオに似ている。

 でも、人の姿だから人目では竜と気づけないな。


 彼は周りが静かになるといきなりビスカに向けて頭を下げた。


「初めまして。わしが魔竜帝スペラーレだ。このたびは娘が迷惑をかけてしまって申し訳ない」


 その姿を見てビスカは少しイラッとした。

 でも、抑えないと街が消えるかも知れない。

 そうなったら諦めよう。

 ビスカは堕天使になって余計に我慢が出来なくなった。

 だから、相手が最強の魔王であろうと気にせずに言いたいことを吐き出す。


「なにが娘だ。娘だって言うならなぁ!もっとしっかり見てやれ!理想と違っても子は子だろうが!大切にしやがれ!」


「ごもっともだ。わしとてあの子のことを考えていなかったわけではない。理解しようとしたんだ」


「いいや!違うね!あんたは理解しようとしたんじゃない!理解させようとしたんだ!言語が不自由ならバカとか思ってんだろ?真逆だ!こいつは言葉に出来ないだけで頭は普通にいい方だ!それを知らない時点であんたは親失格だ!」


 そこまで言ったところで彼は我慢できずに怒った。

 顔を上げてビスカの目を見て言う。


「親失格だと!言い過ぎではないのか!そこまで言うなら貴様はあの子のことを理解したのだろうな!」


「理解した!大昔に暴れたのは言いたいことを理解してくれなかったストレスからだろう!ずっと一緒に居ても理解してくれないみんなが嫌になって暴走したんだろうよ!」


「その証拠はどこにある!あるわけがない!」


「あるね!ただ暴れるだけの化け物なら、理解してあげた私に対して笑ってくれるもんか!私達みたいにスムーズに話せないだけで頭は普通なんだよ!それを否定してやるな!変な特徴でも認めてやれ!それが親ってもんだろ!」


 ビスカは親を語れるような人生を送ってこなかった。

 それでもこの力強い言葉には謎の説得力があるだろう。

 その言葉に負けてしまったスペラーレはもう何も言い返せずに固まってしまった。

 そこに部下であるヴォルカナが現れた。


「スペラーレ様、ここまでです。あの者の言葉が正しいです」


「ヴォルカナ……!そうか…そうだな。わしの間違いを認めよう」


 魔竜帝スペラーレは産まれて初めて大きな過ちに気付かされた。

 それを教えたのが部下と堕天使のガキというのはちょっとおかしいかな。

 でも、響いたならそれでいいだろう。

 ビスカはそれだけで満足した。

 でも、魔竜帝スペラーレはそれで終われないらしい。

 この世界で初めての土下座を最強の竜が見せた。


「あの子には後で謝る。だから、先に言わせてもらう。わしが間違っていた!すまなかった!その過ちに気付かせてくれてありがとう!」


 こんな土下座をされたのは始めた。

 でも、普通の土下座より長く見たくないな。


「私に対してはもういいんだよ。あの子が目覚める前にすることがあるならそれをして」


「寛大であるな。では、そうしよう」


 彼は立ち上がると汚れを払ってから魔王達の方を向いた。

 その顔は真剣そのものでビスカにも邪魔できそうにない。

 彼は覚悟決めてお願いする。


「魔王の諸君よ。わしはもう責任をとって魔王の輪から離れる必用は無いだろう。どうだろうか。この場に全魔王が揃ってるなら、ここでわしを魔王の席に戻してくれないだろうか」


 その発言で魔王達はざわついた。

 事情があって離れていた魔王が戻ってきたら均衡がまた崩れるだろう。

 でも、このまま強いから別枠なんだってことを言い続けるのも辛い。

 だから、全魔王の意見が一致する。

 その代表として古参の魔王ブルームが前に出る。


「良かろう。増えて困ることもないからな。戻ることを許可する。皆もいいだろう?」


 魔王ブルームは振り返って魔王達に尋ねた。

 もちろん全員がOKを出した。


「魔王が全員許したんだ。しっかりと魔王らしくやれよ!」


「分かっている。わしとて古参の魔王の一柱(ひとり)だ。前と同じようにやってやる!」


「空回りするなよぉ?もう古参の魔王は妾達だけだからな!古くさいと言われんようにな!」


「心得た。今回のことを教訓にするよ」


「そうか。では、妾は帰るとするかの」


 そう言って魔王ブルームは立ち去ろうとする。

 帰る直前に振り返ってビスカに向けて言う。


「ビスカよ。魔王への道は大分進んでいるようだが、最後は気に入られるかどうかだ。ダメそうなら頼れ。全魔王の推薦なら魔王の居ない堕天使のお前さんを認めさせるくらい簡単だ。本当に厳しいときだけ認めてやるからな」


 それだけ伝えて立ち去った。


 残る魔王達も徐々に帰って行く。

 ビスカはドラゴニュートと獣人に挨拶したかったが、すぐに帰ってしまった。

 代わりに魔王マリスが魔王デモニオと一緒に話に来た。


「久しいな。ビスカよ」


「久しぶりだナ!元気にしてたみたいで安心だ!」


「魔王マリス様と魔王デモニオ様、お久しぶりです」


「堕天したのだな。そんな気はしていた」


 魔王マリスはとても悲しそうな顔をした。

 自分の後継者になって欲しかったんだろうけど。

 残念なことにビスカは堕天してしまった。

 諦めてもらうしかない。


「魔王デモニオ様も堕ちると思ってたんですかぁ?」


「まあな。初対面の時から魔力が冷えてたからそうなると思ってたゼ」


「そうなんですねぇ。あなた達の予想通りに堕天しましたぁ。これから私は堕天使として魔王を目指すので、いつか一緒に魔王の座に座りましょうね。マリス様、デモニオ様」


 2人は同時にため息をついた。

 前のビスカと明らかに違うからだ。

 今更戻れないが、それを分かってても2人は天使のビスカを懐かしく思って寂しくなるらしい。

 なんでやねん!


「そういえば知ってるか?堕天使って悪魔からも生まれるんだゼ!」


「そうだったな。我らの両方の最上位に堕天使が居る。我々は争い合っているが堕天使というゴールは同じだから、本来は争う必要とないのだ」


「それでも生き方が違うから戦うんだよな。言っちまえば堕天使も両方の戦い方ができるから敵だな」


「それってかなり面倒ですね。まぁ、私が居る限りは堕天使から戦争は仕掛けませんよ」


 そんな世間話をしているところでイニーが目覚めた。

 襲ってくるかもしれないと思った魔王達は簡単に挨拶して帰っていった。

 この場にはビスカ、スペラーレ、ヴォルカナの3人だけが残った。


 さて、ここからは親子で話し合わせよう。

 ビスカはヴォルカナの肩を叩いて一緒に離れた。

 出来るだけ見えない場所に移動する。


「おっと!そういえばエンチャントを解除した犯人が居たんだ!ビスカ、話を聞くなら任せるぞ?」


「そっか。分かったよ。私が色々聞き出す」


 ビスカはヴォルカナの案内で犯人のところに移動する。

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