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第41話 竜王の娘は素晴らしい

 不安はあったが、戦いが終わったので魔王達は帰って行った。

 ヴォルカナだけは残って見届けることにしたらしい。

 そりゃそうだ。自分とっての王の娘が酷い目にあったら責任はヴォルカナにも行くのだから。


 さて、重量増加で動けない彼女とはここで話し合おう。

 動かせないのはビスカも同じだから。


 ビスカは話すために至近距離まで近づいた。

 本来ならこの行為は危険だが、相手はデバフを数十個も掛けてあるのだから危険なわけがない。

 そう思っていたのに急にイニーの下に魔法陣が出現した。

 それはすぐに発動してイニーツィオに掛けられたデバフエンチャントを全て解除した。


「なんで!どういうことなの!こんなことはあり得ない!」


 そう言ってる間にイニーが顔面に切り裂こうと襲ってきた。

 ビスカはとっさの判断で500mも後ろに下がった。

 それを追ってくる様子はない。

 その代わりにさっきとは比べ物にならない程の魔力を練っている。

 つまり、魔王達が居なくなった今からが本番ということだ。


 その様子を見ていたヴォルカナは誰がやったのかと周囲を見渡した。

 いや、それじゃ(らち)があかないと思ったので魔力探知に切り替えた。

 すると、すぐに犯人が見つかった。

 ヴォルカナはその場をビスカに任せてそっちに向かった。


 さて、この大ピンチに魔王も仲間も居ないなんて最悪な状況だ。

 相手はこの世で最も強いドラゴンの遺伝子を持ってるんだぞ。

 しかも、それをさらに危険にしてる。

 アレを使わないと勝てるかよ!


「考えてたってどうにもならいよね!相手も本気ならこっちも本気だ!」


 そう言うとビスカは相手の準備が終わる前に、あの時以来使ってこなかった聖過剰付与(オーバーエンチャント)を使用して大人の姿になった。

 前と違って元が育ったからこの姿になったらしい。

 これなら色々使えそうだ。

 てことで、魔力鎧を作ってそれに剣を作るエンチャントを施した。

 これでこちらの準備はできた。

 さぁ、あっちはどうかな?


 ビスカが視線を向けた瞬間に突っ込んできた。

 それを避けて相手の手を見る。

 今度は『魔力爪(まりょくそう)』で爪を強化して伸ばしたらしい。

 意外と賢くね?


「やるじゃん!でも、こっちだって色々できるんだよ!」


 そう言うとビスカは重力操作で相手を押しつけた。

 それでイニーの動きが完全に鈍くなった。

 この先に魔力操作で溢れさせた魔力をロープ状にする。

 それにエンチャントして魔力の鎖を作る。

 さらにエンチャントを重ねて鎖を擬似的な絶対捕縛鎖(チェーンブロック)に変化させた。

 それを操作して重力で動けずにいるイニーに巻き付ける。


「今度は上もダメ!千切ろうとしてもダメ!逃げられはしない!」


「そうかな?」


 ニヤリと笑いながらイニーツィオはそう言った。

 それが不気味に感じたのでビスカは距離を取る。

 その移動の間にイニーツィオは鎖を溶かしてしまった。

 さらに高重力の中で普通に立ち上がった。

 まるで、これが自然であるかのような普通すぎる動きだった。


 それを見たビスカは久々に血が騒ぐのを感じた。

 マキナ以来の面白い相手だ。


 色々試そう。

 あれもやりたい。これもやりたい。それもやりたい。

 アハッ!久しぶりに壊すのもいいかも!

 てことで、108つのエンチャントを剣に掛けちゃおう。


「あんた強いから本気出すわ。死なないでよ?」


「こっちのせりふ!あなたはきにいった!ひとりでもたおれないなんてすごいもん!」


「そりゃどうも!本気でやり合う前に聞く!なぜ戦う!」


「かなしいから!おこってるから!だから、わかってもらうためにたおすの!」


 完全に言葉を知らないガキの発想じゃん!

 それで街を消し飛ばされたらシャレにならない。

 これだからガキは大好きだ!教育のしがいがある!


「それならそっちが勝ったら聞いてやる。こっちが勝ったら私の街に住め!面倒見てやるから!」


「うん!わかった!じゃあ、やろうよ!」


 それからしばらく2人は睨み合った。

 その2人の間で魔力がゆっくりと広がって近づいていく。

 ゆっくり、じっくり、ねっとり、広がって触れた。

 その瞬間に2人は同時に動いた。


 伸ばした魔力の爪と、1本に混ざって大剣となった魔力がぶつかった。

 2人ともとんでもない力をぶつけている。

 その魔力の高まりに全魔王が反応した。その中にはイニーツィオの父親も。


 世界での騒ぎなんて気にせずに2人は戦う。

 イニーは片手でダメならともう片手の爪を伸ばした。

 それを振り上げで大剣を横から叩いて離れさせた。

 その時にビスカは少し体勢を崩した。

 それを大きな隙と見てイニーツィオは背後をとった。


「これできれちゃえ!」


 そう言って右手を振り上げた。

 それからすぐに背中めがけて振り下ろした。

 しかし、その手を止めるために鎖が伸びてきた。

 それは手に巻きつくと勢いよく地面に叩きつけた。

 その一撃でイニーの骨が折れた。


 イニーツィオは見上げる。

 そこには体勢を整えて、振り向きながら見下ろす堕天使の姿がある。


「これで終わっとけ!」


 ビスカはそう叫ぶと大剣を折れた腕に突き立てた。

 そうしたら急にイニーが笑い始めた。

 切られたことで腕が鎖から解放されたのだ。

 鎖から解放されて嬉しくなったイニーはバッと立ち上がって数歩下がった。

 それから切れてなくなった手を、ブンッと振るだけで再生させた。

 まるで引っ込めていた物を出したかのようだ。


 そのあり得ない光景のせいでビスカは切れた手と治った手を何度も見比べてしまった。

 あれは紛れもなく完治したイニーの手だ。

 つまり、振り出しに戻った。


「さて、これでダメならもっとやらないと。終わる前に試してやる!」


 今度のビスカは魔力を空に放った。

 それをたくさんの剣に変えてたくさんのエンチャントをする。

 その全てを操作して、イニーツィオの手足を狙って踊らせる。


 イニーはいろんな角度から襲ってくる剣を避ける。

 あっちへ、こっちへ、そっちへ、踊るかのように華麗に避ける。

 その光景はまるでマリオネットだ。


「めんどくさい!」


 イニーは少し怒った顔でそう言った。

 それから小さな魔力砲を銃のように発動した。

 それを連発して剣を破壊する。

 今度は流れ星がきらめくように宙を走る。


 その光景を見てビスカは嫌なことを思い出した。

 もう会えない親友と見に行った流星群。

 綺麗だけど今のビスカをイライラさせるのには十分だった。


 今度は足元から鎖で襲う。

 足を縛って、その鎖を通してビスカはたくさんのデバフを相手に付与する。

 でも、すぐに抵抗(レジスト)されて発動が無効化された。

 何度も同じでは喰らわないらしい。

 憎たらしいガキめ!


「効かないなら諦めて次に移動するだけ!」


 そう言ってるのにビスカは200本の鎖を生み出して襲った。

 イニーの周りを囲んで一気に閉じ込める。

 封印は苦手だからできないが、これを脱出できなければ勝てる。


 でも、イニーに鎖なんて無意味だった。

 魔力で出来た鎖はイニーの『接続拒絶』によって簡単に溶けてしまう。

 でも、それは時間稼ぎだった。


 イニーは腕にズキンッという痛みを感じた。

 よく見ると切られた辺りが変色していた。

 それで考えられるのは何かしらの毒物による危険な反応。

 それに気づいたイニーは何も言わずにビスカの顔を見つめる。

 イニーの顔には驚きと戸惑いが見て取れる。

 それを見てビスカは勝ったなと確信した。


「私の魔力を毒化したんだよ。色んな種類の毒にしたから当たられば必ず効く。待って正解だったよ」


「どく?そんなことができるの?」


「私のスキルならそれが可能なんだ。さて、次の手があるならやってご覧よ」


 そうやって(あお)ると、イニーは魔力爪の一本を変色させて自分の腕に突き刺した。

 何をしてるのかと思ったら、それを抜いた場所からすぐに変化が起きた。

 複雑な毒が完全に無毒化されて傷の再生を許してしまった。

 変色部位も完治している。

 どうやらイニーには効果を変える力もあるらしい。


 こうなってしまったら勝つためのルートが限られる。

 ビスカのほとんどが効かないなら秘策を使うしかないだろう。

 まだ使い慣れてないから試す予定もなかったんだけど。


「あんたが万能なのは認める。でも、今度は甘くないよ」


 そう言いながらビスカはボッと大きな炎を発生させた。

 それは天使が苦手で、悪魔が得意な魔法というものだ。

 属性魔法は悪魔が発明して使える奴を絞った。

 堕天使は天使と悪魔を混ぜたような種族なので魔法も使える。

 ビスカは天使がスタートだから使い慣れてるわけがないのだ。

 でも、ある程度は本能が使わせてくれる。


「エンチャントをした炎で焼けろ!」


 このセリフを言った直後にイニーが上空に逃げた。

 そこなら当たらないだろうと考えてるらしい。

 考えがマジでガキだな!


 魔法で発生させた炎は自在に姿を変えて空に伸びていく。

 それに気付いたイニーは入れ違いで地上に降りた。

 綺麗に着地したイニーはがら空きの背中に向かって跳び蹴りをしようとしている。


 それが危険なことくらいビスカは分かっている。

 だから、炎を消して今度は電気を発生させた。

 それをビスカの周りに円形に展開して痺れさせてやった。


「がはっ!」


 完全に焼けたイニーは意識が飛んでいる。

 跳び蹴りの勢いのまま地面に落ちた。

 顔面をすったのはかわいそうだけど、一応これで勝利した。


 完全に動かないイニーを見続けていたら急に喜びが湧き出てきた。

 だから、ガッツポーズで叫ぶ。


「うおぉぉぉぉぉ!!やったぁぁぁぁ!!」


 その叫びを全魔王が見ていた。

 来ていなかった魔王達は魔王ミューカスから報告を受けていた。

 だが、魔王級の魔力が2つも同時に発生したことで見に来てしまったのだ。

 その中には魔竜帝スペラーレの姿もある。

 魔王ミューカス達も戻って来て成り行きを見守っていた。


 彼らは街の建物の上から見ていた。

 途中からではあるが久々に本気で戦いたくなるような熱い戦いを見せてもらった。

 これなら魔王になっても文句はない。

 14人の魔王全員がそう思った。


 だが、神様はそう思っていないらしい。

 まだ魔王にするには面白さが足りないようだ。

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