第39話 最強の遺伝子が今ここに!
翌日、ビスカ含めて堕天使達は絶好調で働いている。
結局ビスカは家に戻っても寝られなかった。
だから、堕天使達がビスカに献上した品の中にあった本を持ってきて勉強していた。
勉強したのは他国についてだ。
どの国にも特徴は必ずあるものだ。
その特徴を覚えてこの国に利用できるものを利用してやろうとしているのだ。
ただ、魔王ラビアラの所は国にもなってないようで情報がどこにも無い。
なんか、魔王なのに不憫だね。
日が昇ってくる時間になると街のみんなが動き始めた。
それは街の音に耳を傾ければ分かる。
前まではこんな時間に起きなかったから分からなかったが、みんなしっかりしてるらしい。
そんなことを思って外を見ていると料理人がビスカの屋敷にやって来た。
料理人は勝手に入ると挨拶してどうして来たのかを話してくれた。
マキナとアリッサが王に美味しいご飯を提供するように指示したらしい。
気が利く連中で助かる。
まぁ、ゆっくり朝食を食べてる暇は無さそうだけど。
「さて、戦いに行く準備をしよっか」
そう言うとビスカは立ち上がって準備運動をする。
その途中で街から南に2kmほど離れた所からとんでもない強さの魔力を感じた。
この荒々しい魔力が大きく感じるとなると、あそこに封印されてた奴が出たのだろう。
暴れられて街に被害が出たらまずい。
だから、飯抜きで行こう。
「飯はあとで食う!急がなくていいからね!」
「かしこまりました。お気をつけて」
料理人にそれだけ伝えて出陣した。
向かうのは南の草原。
飛んでいくとそこには大きな穴が開いていた。
よく見なくてもその周辺に魔法陣があったような跡が見える。
その魔法陣はボロボロになって機能を失ったようだ。
ビスカは穴の中を覗くために近くに着陸する。
その瞬間、穴の中から何かが飛び出した。
何かは大きな翼を広げるとビスカを見下ろした。
その姿は日に照らされてはっきり見えるようになった。
大きな2本のツノ、鋭い牙、鋭い爪、太い尻尾、コウモリのような翼、体の所々に見える鱗、その全てが竜の物だ。
しかし、それらを持った人型に見える。
人に竜のパーツが付いた姿からはドラゴニュートを想像できるが魔力の質が全然違う。
そいつが何かを言おうとしている。
「ここはどこ?あなたはだれ?てき?」
見た目は大人の女性なのに、話し方や雰囲気は完全に子供だ。
子供なら上手くすれば戦わずに済むかも知れない。
一応話してみよう。
「私はあなたが封印されてる間に街を作った堕天使だ。敵じゃないよ」
「てきじゃない?それならパパは?」
この子のパパって誰だろう。
魔王ミューカスからやばいのが居ると聞いてたけど、親とか正体とか何も聞いてなかった。
今更だけど聞いておけば良かった。
「私はあなたのパパを知らない。でも、教えてくれれば探してきてあげる。誰?」
「パパはえらいドラゴン。なまえはスペ…」
そこで急に止まった。
いや、封印される前のことを思い出してしまったようだ。
それからしばらく動かなくなったが、急に震え始めて魔力が大きく荒れた。
これはまずいと思ったビスカは高く飛んだ。
次の瞬間にあいつは50個の小さな魔法陣を展開した。
それは溜め時間2秒で強力な魔力砲を放った。
その強力な攻撃は瞬天のビスカより速い。だから、避けきれずにかすってしまった。
かすっただけで分かる。あれがもし上じゃなくて街の方に向いていたら消し飛んでいたと。
「このまま倒すか?いや、無理でしょ!」
そう言ってる間に二撃目が飛んできた。
それをサッと避けながら距離を取る。
幸い相手は発狂状態になって追ってくる様子がない。
このまま高度を上げてから街に戻ろう。
少し時間が掛かったがどうにか戻ってこれた。
自宅に戻るとマキナ達が集まっていた。
その中には魔王ミューカス、ルーチェ、ラビアラの姿がある。
ついでに数分前に遊びに来たばかりだと言うヴォルカナの姿もある。
彼女らは心配そうにビスカのことを見ている。
さて、この場で最初に口を開いたのは魔王ミューカスだ。その後に続いて魔王達が話す。
「アレの封印が解けたのを感じて救援に来たよ。ルーチェとラビアラはここに用があって来たみたい」
「そうです。私はマーチの付き添いで来ました」
「ウチは国作りが上手そうなビスカと話すために来たんだよ。朝早くに行けば居るかなって思ってたんだけど。まさか、揃いすぎて封印が解けたとか?」
魔王ラビアラは急に賢くなった。
いや、本当にそれなら1番の原因は堕天使の集団でしょ。
その考えをヴォルカナが否定する。ちなみに、今は人の姿でここに居る。
「それは無い!我の知る限りでは、あの封印は1つの種族が一ヶ所に集まるくらいじゃないと影響は出ない!そうであろう?封印を施した魔王の一柱よ」
ヴォルカナは嫌な顔で話をミューカスにパスした。
パスを受け取った魔王ミューカスは姿で相手がヴォルカナだと気づかなかった。
だが、話し方と熱すぎる魔力で正体がわかった。
そんな奴を怒らせたら街が吹き飛ぶことになる。
そんなことになったらビスカとも戦うことになるだろう。
それは勘弁なので大人しく話し始める。
「その通りだよ。つまり、ミュー達が原因じゃなくて…」
「私か。私が昨日堕天したんだよ。そしたら同族が大移動してここに集まったから」
「どれくらい?」
「今は150万くらいだね」
魔王ミューカスはそれ聞いてため息をついた。
「おそらくそれが原因だよ。個の力が弱くても同族が集まればそれだけ同じような力が大きくなるんだ。近くにそんな魔力があったら外側から封印に傷が付くね」
「それでアレが出たと。てか、アレってなんなの?」
その質問にどっちが答えるのかと、ヴォルカナとミューカスは目線で話し合った。
まぁ、当然のように魔王ミューカスが話すことになったので無意味だったけど。
「アレは魔竜帝スペラーレと人間の姫様から産まれた娘だよ。名前はイニーツィオ。みんなからは略したイニーって呼ばれてる」
「なんで竜と人間からあんなのが産まれたの?」
「それについては我が話す。竜しか知らぬこともあるのでな」
ヴォルカナから話の続きを奪った。
でも、魔王ミューカスは安心したようで下がっている。
まぁ、竜種の話だから彼女から聞くべきだろう。本当なら全部ね。
「あの方は存在するだけ弱者を死なせるほどの力を持っている。純粋すぎる力は竜種でも近づけないほどだ。それが寂しかったらしい。だから、子供にはそんな力を持たないで欲しかったそうだ」
「人間は弱いからね。私でも分かる。堕天したら勇者も弱者に見えるようになったし」
「そうだ。そんな弱い種族と子を作れば弱く出来ると考えたのだ。だが、結果は真逆になった。竜の破壊力と人間の精密性を合わせ持った唯一の種族が産まれてしまった。その名も…」
【人竜姫種】
「その実力は見た通りだ。どんな種族でも10秒の溜めが必要な魔力砲をあの早さで撃てる。他の攻撃も異常な精密性で、通常攻撃を最強攻撃に変えちまうんだよ。しかも、ガキのまま封印したから話も通じねえ。止められねえんだよ!」
ヴォルカナは自分のミスと思っている。
あの時ビスカを追っ払っていればこうならなかったから。
でも、これがチャンスとも思っている。
ビスカならお膳立てしてやれば倒せるかもしれない。
だが、それはまだ聖力付与がつかえれば話だ。
堕天して使えなくなったのなら話が変わってくる。
そのビスカが提案する。
「私は少しだけ話した。だから、知能がないわけじゃない。抑え込めれば説得できると思う。私が聖力付与でデバフを掛けるから、それまで魔王の皆さんには気を引いてもらいたい。お願いします!」
ビスカが真っ直ぐにそんなことを言った。
ヴォルカナはたくましくなったビスカを見て自分の王と同じ希望を感じた。
だから、託すことにした。
「我からもお願いする。頭を下げろと言うなら下げようじゃないか!イニー様が封印されずに大人しくできる未来があるなら、我は魔竜帝の部下としてそちらを望む」
こうなったら魔王達は手を貸すしかない。
ティーア大森林もテクノロジアもまだ消されたくはないだろう。
まぁ、ここで手を貸さなければ結局はイニーツィオの魔砲で消し飛ぶだけだ。
3つの選択肢があるのなら1番良い選択するべきだ。
てことで魔王達は次々に許可を出す。
「ミューはどうなっても知らないよ!もしものことがあったら街のみんなは助けてあげるけど」
「やってみればいいと思います。私はマキナを倒したあなたの実力を信じます」
「君の頭脳なら何かしらの策は思いつくだろう。ウチは期待してるよ」
これで全員がやってくれることになった。
魔王ミューカスはそんなこと言ってない?
ツンデレみたいなものだよ。理解してやれ。
てことで、イニー戦が出来る状況が整った。
あとはどうやって最強の遺伝子を封じるかを考えるだけだ。




