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第38話 人魔共生国家シエル

 2人の堕天使が来てから1時間後。

 空を埋め尽くすほどの堕天使の大群が街の北東に着陸した。

 マジで150万の堕天使が一ヶ所に集まっちゃったよ。

 えっ?みんなこんなガキが王でいいってこと?頭おかしくない?

 ビスカがそんなことを考えてるのに、ここにいる全ての堕天使が(ひざまず)いて下につくことを誓った。


 この人数をビスカ1人で動かすのは厳しいだろう。

 てか、1000人でもキツいのにこれはマジでダメ。

 てことで、最初に来た2人を堕天使リーダーに任命した、

 これでも足りないんだろうけど、今は金髪のアリッサと赤髪のトウラに任せるしかない。


 さて、みんなにご挨拶とかしないとね。

 この間にマキナ達が職人を呼びに行ってるし、ちょうどいいタイミングが今しかない。

 ちなみに、念話を応用することで声を遠くまで伝えられるらしい。

 マイクとかいらないのは楽でいい。でも、さすがに飛んでないと姿は見えないらしい。

 だから、空中から偉そうに話してやる。


「同族のみんなよ。よく来てくれた。今日堕天使になったばかりなのに先を見越して来てくれたことに感謝する。何も言ってないのに味方になったのには驚いたけど。重ねて感謝する」


 ビスカはペコリと頭を下げる。

 それからすぐに頭を上げて続ける。


「さて、いきなりで悪いが君らには働いてもらう。もちろん分担はする。やってもらいたいのは君らの家を建ててもらうこと、井戸を掘り当てること、耕地を用意してもらうことの3つだ。詳しいことは今呼んでいる担当の者に聞いて欲しい」


 いや、建築はテクノロジアから連れてきた職人がいるから出来るけどさ。

 畑は誰か居たか?そういえば前の街の隅でやってたような気がする。

 後でケイトに念話して連れてきてもらおう。


「文句があるなら言えばいい。まぁ、私が聞かないけど。(たみ)の意見や文句なんて余裕がない時に聞くもんじゃない。だから、聞いてもらいたければ私が本当に何しなくていいくらいに発展させろ。以上だ。しっかりやれよ」


 最後にそう言ってからビスカはスタッと地面に降りた。

 その瞬間に堕天使達から歓声が湧いた。

 ビスカからすれば仕事なんて面倒なだけでやる気なんて出ないけど、彼らは違うようで心強いな。


 しばらくして職人と農家が集まった。

 ビスカは彼らに指示を出して、堕天使達をいくつかのグループに分けさせることにした。

 こんなことは本来なら翼型最強の種族がすべきことじゃ無いんだろう。

 でも、彼らはビスカの指示なら喜んでやってくれるみたいだから任せておこう。




    ---------------




 さて、彼らが働いてる間にビスカ達で決めないといけないことがたくさんある。

 その内のどれから決めるかをアリッサが提案する。

 ちなみに、今話し合ってる場所は簡易会議室だ。

 ちょっと外に出るとすぐに夜空が見える。テントかな?


「ビスカ様、先に国名を決めるべきかと思いますわ」


「やっぱり全体をまとめるのには必要?」


「必要ですわ」


 そこまで押されたら決めないと先に進まないだろう。


 そういえば私ってなんで長時間空を飛ぶことがないんだろ?

 空が怖いから?そんなことはないはずなんだけど。

 翼型は空から奇襲するのが得意だから、子供でも本能で飛べるようになるんだけどな。

 もしかして、元人間なのがいけないのかも。

 なら、国名に苦手なものを入れてみようかな。

 意外と弱点がそこにあるよって感じで言えそうだし。


 ほんのちょっと考えるだけでビスカの中では国名が決まった。

 それを後付けした理由を添えて国出してみる」


「【人魔共生国家シエル】ってのが思いついたんだけど。どうかな?」


 会議に参加した4人は顔を見合わせた。

 それからアリッサとトウラは絶賛する。


「良いと思いますわ!ビスカ様はセンスまでいいのですね!」


「しかも早い!それでこそ未来の魔王様です!」


 2人が褒めてくれてビスカはまんざらでもない。

 しかし、マキナとケイトはすぐに受け入れることが出来ない様子だ。

 その2人にに向けてアリッサが牙を剥く。


「御二方は気に入りませんの?なら、少し痛い目にあってもらいましょうか」


「やめい!私はそんなことを望んでない!」


 ビスカが止めに入るとアリッサはしょぼんとして下がった。

 そうなることを察していたトウラは最初から動いていなかった。

 まったく!堕天使はみんな好戦的なのかね?

 そう思って過去を振り返るとビスカもよく戦いで解決していた。

 人のこと言えないじゃん。


 少し恥ずかしくなったが、それを隠して2人に尋ねる。


「何かあるなら言って。私はあなた達の意見なら聞くから」


「それなら聞くが、なんで人魔共生国家なんだ?多種族共生国家でもいいだろ?」


 そこを聞かれるか。

 ビスカは予想していたが、予定外の質問で少し悩んでしまった。

 でも、すぐに「いいや言っちゃえ!」となったので教える。


「最初はそうしようと思ったけど、それだとちょっと(かた)いでしょ?だから、名称につけるならこっちがいいかなと思ったの」


「そうか。お前らしくていいんじゃないか?」


 ケイトは今ので納得してくれたらしい。

 次はマキナだ。


「私カラモ質問デス。『シエル』トハドウイウ意味ナノデスカ?」


「あー、それね。私の故郷の外国語で、空を意味する単語だよ」


「何故ソノヨウナ単語ニシタノデスカ?」


「目指してる国が空のような国だからだよ。空はどんな姿にでもなる。この国にはどんな種族でも受け入れて、どんな未来にでもなれる国にしたいんだ」


 言い終えてビスカは途端に恥ずかしくなった。

 夢物語な上にセリフがくさすぎる。

 ちょっと赤面してきたがどうにか誤魔化そう。

 そうしてる間にマキナは曇りが晴れたような顔で言った。


「ナルホド。常識ガ通用シナイ感ジハアナタラシイデスネ。私モ良イト思イマス」


「よし!じゃあ、これで決まりね。全部が決まったらみんなに伝えるよ」


 これでようやく1つだ。

 考えないといけないこといくつあるの?

 なんかもう疲れた。

 でも、今頑張らないと時間がない。

 なにせ朝になったらまた魔都見学に出かける予定だから。


 さて、次の議題はすぐに終わった。

 鬼と魔獣のリーダーを決めることになった。

 まぁ、会ったことのないアリッサとトウラ以外で決めたけど、満場一致でヒスイとループにそれぞれのリーダーを任せることになった。


 次の議題について話し合おうとしたところでアリッサが勝手なことを言い始める。

 その時に激しく挙手したのだが、まあまあデカい胸がトウラの顔面をぶっ叩いてしまった。

 そのせいで今ちょうど喧嘩になっている。

 堕天使の喧嘩って普通じゃないんだね。


「てめぇ!当てつけか!私がペタンコだからってふざけんなよ!」


「ぶつかってしまっただけですわ!悪気なんてありませんの!」


 2人は外に出たと思ったら空中でガチ喧嘩を始めた。

 ビスカの目の前だろうと気にせずに全力でスキルと魔法をぶつけ合っている。

 どちらの攻撃も地上に影響がないようにしてくれてるから見てられる。

 だが、これがもしも問答無用だったら。

 ビスカには2人のような派手な力はない。あるのは純粋な力のみ。最強の証のみ!


「2人ともその辺にしとけ。ムカつく気持ちは無性の私には分からない。でも、そっちになったら気持ちは分かるだろうさ。それまではそんなことで喧嘩するな」


 瞬天で間に入ったビスカはそんなことを言ってやった。

 それで大きな影響が出るのは自分の癖に。


 2人はそんなことを言わせてしまったことに対して謝ろうする。

 でも、何の言葉も浮かばない。

 どんなに頭を回転させても良い言葉が出てこない。

 王に対して何かは言わないといけないのに、どんな言葉も喉から出そうとすると溶けるように消えてしまう。

 2人は焦って目が泳ぐ。

 その姿を見てビスカは恵まれない奴の方が上にいることに怒りを覚えた。


 ビスカは夜空をバックにするために少し高度を上げる。

 そこからいつも以上に不気味で冷たい魔力を溢れさせる。

 その覇気に気圧(けお)された2人はブワッと冷や汗が湧き出した。

 そんな2人に不気味に美しくセリフを聞かせる。


「何も言わなくていい。私はあなた達を怒ってない。怒ってるのは不甲斐ない自分にだよ。だから、黙って降りようか」


 その姿にビビった2人は一瞬で勝てないと判断した。

 だから、ビスカと同じ瞬天で地上に降りてじっと頭を下げ続ける。

 ビスカの口からやめろと言われるまでこれで反省するつもりだ。


 そんな物を今は見たくない。

 ビスカはゆっくりと地上に降りるとアリッサの顔面を掴み上げて目を合わせた。

 その状態でビスカは吐き捨てる。


「その程度で喧嘩すんな。止めんのもめんどくせえんだよ!クソ女どもが!」


 それを聞かされたアリッサは震えてビスカから目を離せずにいる。

 今目を離したら首を折られるような気がしているのだ。

 それがあまりにも無様でつまらなかった。

 だから、ビスカはそっと手を離した。

 そして、その場から去りながらケイトとマキナに言う。


「その2人はどうせすぐに元の感じになる。私がそうだったから分かる。回復したら残りのことを決めといて。私は次に備えて休む」


 ビスカは2人の返事を聞かずに瞬天で家に向かった。


 この調子で上手くいくのだろうか。

 とても心配だ。

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