第32話 帰還から即鬼の国だ!
魔王ミューカスの研究所兼住宅から出ると、10人の職人をスカウト出来た仲間達が待っていた。
いや、早くね?文句とかは無いけど普通じゃないでしょ。
でも、仲間に何かを言うのも違うだろう。
だから、受け入れて合流した。
「ビスカ様、無条件で移住を決めてくださった方々です」
「無条件か。よくやった」
そう言ってあげると嬉しそうな顔をした。
それを見てからビスカは職人達の方を向いた。
「職人の皆さんに聞きます。なぜ無条件で移住を決めてくれたのですか?」
その質問に料理人らしき男が答えた。
「ここは競合相手が多すぎます。我々のように中途半端な腕ではストレスを感じてしまいます。比べられて負けを直視しなければいけませんから」
「なるほど。それで?」
「我々程度の腕前ならこの国にはいくらでもおります。ですが、あなた様のお仲間さんは我々でも一流だと言ってくださいました。その腕前で技術を伝えて欲しいと言われ、こんな自分でも役に立てるのだと思いました」
「それが理由か。確かに技術力が低いうちからすればほとんどが一流に見える。でも、この子達は魔王が命令を与えるレベルの奴らだ。その目が認めたなら本物なんだろうね」
チラッと見ると魔獣の2人は顔を伏せていた。
つまり、彼らを選んだのは鬼の方か。
まだ認めてないのにしっかりと仕事をしたなら、少しでも役に立つところを見せようとしたってことだろう。
これは誉めてやらないとね。
でも、今は帰る方を優先しよう。
「あなた方が移住する場所は私が上に立っている。それでもいいの?」
「構いません。ここで腐るよりはお役に立てた方が良いと思っています」
その言葉に合わせて他の職人達はうなずいた。
全員がビスカの下でいいと言ってくれてるのだ。断る理由はない。
「それじゃあ、今から私達の街に行くよ。魔王ミューカス様の力をお借りする」
そう言って招待状を再び開いた。
すると行きのように霊魔が現れて問答無用でビスカ達をあの街に送った。
街に着くとビスカは全員がいることを確認した。
しっかりと全員が街に入れた。
誰も欠けずに戻れてよかったと安堵した。
ホッとするビスカの所にマキナがやってきた。
一応出迎えのつもりらしい。
「ソノ様子ダト怒ラレナカッタミタイデスネ」
「でも、洗礼は受けたよ。まさかあんな人だとは思わなかったよ。あんなおぞましい…」
マキナは嫌なものを見た顔を確認してニヤニヤした。
精神的に痛い目にあったことが愉快らしい。
それから連れ帰って来た職人達の方に目を向けた。
「ソレデモ職人ヲ連レテ来レタンデスネ。技術指導ノタメデスカ?」
「まぁ、そういうことだね。彼らのことは任せていい?」
「構イマセンヨ。デモ、ドウシテ任セテシマウンデスカ?」
「魔王ミューカスに魔都見学っていう勉強のイベントをやろうって言われてさ。どうせ話は通ってるだろうから今からもう一ヶ所行こうかと思ってるの」
それを聞いてマキナは目をぱちくりさせた。
それから察して笑った。
「モウ期待サレテイルンデスカ。ソレナラ任セテクダサイ。色々トヤッテオキマス」
「任せたよ。ついでにケイトに伝えておいて。何かが居るから警戒しろって」
「分カリマシタ。デハ、私達ハ失礼シマス」
そう言ってマキナは職人達を案内しながらどこかに行った。
ビスカは招待状の取りに行くために家に向かう。
その途中で謎の魔力を感じた。
たった少しだけなのに魔王と同等の危険度に感じた。
家に戻るとすぐに箱の封印を解いて全ての招待状があることを確認した。
マキナは招待状を全て取り出して袋の中にしまった。
それを服の内側に隠す。
手に持った招待状は魔王フィアンマから送られたものだ。
つまり、今度は鬼達の故郷に行くわけだ。
こんなに早く里帰りするとは思わなかっただろうな。
今度の招待状は開けると魔法が発動した。
その術式は鬼特有の物らしい。
どう見たって術式が漢字で書かれている。
その魔法陣がカッと光ると一瞬でビスカ達を【武士国アルマドラ】に転送してくれた。
到着するとビスカはすぐに招待状を片付けた。
それから転送先で待っていた魔王フィアンマにご挨拶する。
「魔王フィアンマ様、この度はご招待ありがとうございます」
「ガッハッハッ!話は聞いているぞ!好きなだけ見ていけ!と言いたい所だが」
魔王フィアンマは急に話をやめて周りを見るようにしました。
今いる場所はアルマドラの中央広場らしい。
そこから周りを見るとまるで田舎だ。それも昔の日本みたいな感じだ。
この世界ではこれをどう表現すればいいんだ?質素か?
「何も無い国だろう?」
「いえ、そうは思いません。私は故郷の雰囲気を感じましたので」
「そうか。異世界にもこういう場所があるのか。なら、好きに見ていけ。真似したければそのうち交渉しよう。この辺でしか採れない物があるからな」
「その時はお手柔らかに」
その言葉に魔王フィアンマは何も返さずに去った。
酒を飲みながら自分の屋敷に戻るようだ。
放置されたビスカは魔王の許可があるから好きに探索することにした。
彼が案内しなかったのは配下が付いているからだろう。
そいつらに案内してもらえって言葉にせずに伝えたいのだろう。おそらく。
だから、ビスカは鬼のヒスイに案内を頼む。
ホノカには重要な仕事を与えることにした。
「ヒスイ、魔王が行ってしまったから案内して」
「かしこまりました!特にどこかが見たいというのはございますか?」
「ヒスイに任せる。ホノカはどこかで情報整理をして。交渉に使えそうな情報ならテクノロジアの物でも使うからね」
「承知いたしました。では、私はすぐそこの茶屋におりますので、お戻りになられたら声をかけてください」
「分かった。それじゃ行ってくる」
ビスカはヒスイの跡をついて歩いていく。
別行動になったホノカは背中が見えなくなるまで頭を下げ続けた。
それを見てビスカはどちらもしっかり教育されているなと思った。
しばらくその辺を探索しているとヒスイは鬼のみんなから挨拶された。
どうしてみんなが挨拶するのかを一般の鬼に聞いてみた。
「あの方は有力の娘なんだ。将来有望だったんだが、親と殺し合いになるくらいの喧嘩をしたそうだ。その理由がこの国を離れることだ」
とおっさんが話してくれた。
志願してくれたそうだから申し訳なく思う。
家族と仲が悪いまま終わることになったら、こちらからしてもとても寂しいことだ。
「ヒスイ。あなたはこれでいいの?」
「『これ』とはなんでしょうか?」
「親と喧嘩したのにうちに来たんでしょ。さっき知らないおじさんに聞いた」
そのことを知られたヒスイは立ち止まった。
それから小さく偽装していたツノを元の立派な二本のツノに戻した。
それから降り注ぐ竹の葉の中で悲しそうな顔を見せた。
「知ってしまいましたか。えぇ、そうです。喧嘩しました。私達の中で唯一家族に認められずに出てきました」
「私は自分の問題を片付けられないような奴を認めない。私の言えたことじゃないかもしれないけど。でも、良い機会だから仲直りしなさい。それか…別の形で問題を解決しなさい」
その難題を与えられてヒスイは困った顔をした。
その様子を見てビスカは優しくする必要なんて無いと思った。
だから、命令する。
「私はこの国を楽しく見て回りたい。だから、重い空気を持ち込むな。仲直して胸を張って私の下につきなさい!これは命令だよ」
自分一人に与えられた最初の命令の難しさにヒスイは狼狽えてしまった。
でも、ビスカの期待に応えられなければ、もしかしたらこの国に送り返されるかもしれない。
ヒスイは最悪な未来を想像して強く『嫌だ!』と思った。
だから、ちょっと覚悟を決めた。
「かしこまりました。では、少々お待ちください」
そう言うとヒスイは普通の着物から高そうな着物に一瞬で着替えた。
その服装で実家に向かう。
それから一時間後にヒスイはスッキリした顔で戻って来た。
さっき着替えた着物はなぜか血で汚れていた。
よく見ると拳も血で汚れている。
その情報から想像できるのは親を殴ったということだろう。
鬼は穏便に話をするってことを知らないのか?
「えっと、早かったね」
「時間が掛かった方ですよ。なにせ親父の顔を見たら速攻で殴ってしまいましたから。それから回復を待って話つけましたので」
「えぇ……」
ビスカはヒスイの野蛮さに引いた。
てか、少し遠くから痛い視線を感じる。
おそらくヒスイの家族だろう。
一応は話が出来てるらしい。認め…られてるのか?
「一応は認めさせました。ビスカ様の強さを目の前で見せる方がもっと早いのですが、お手を煩わせるまでもないと判断して私の強さを見せつけました。これなら外でも死なないだろと言って押し倒しました」
「ちょっとぉ!仲直りしたんだよね!?」
「一応はしましたよ。母も途中からオヤジに話を聞こうって言ってくれたので。お陰でこの時間まで短縮されました」
「あっ、そっか」
これ以上は聞いてもダメそうだと思った。
だから、これで話を終わらせた。
てか、無理やり話を変えて案内の続きをしてもらうことした。
ねぇ、脳筋ってこうなの?




