第31話 スライムの研究所で
あれからすぐにビスカ達は魔王ミューカスの研究所に連れて行かれた。
今度は奥にも通してもらった。
そこはやっぱりヤバいところだった。
たくさんの牢屋と珍しい魔族が捕らえられている。
そいつらは身体の一部が欠損している。どう考えても魔王ミューカスに食われたのだ。
そんな物を見せられてビスカは息を呑んだ。
魔王ミューカスは近くのイスに座ると対面の席をビスカに勧めた。
断らない方がいいだろうから大人しく座る。
それからすぐに魔王ミューカスが真面目な話を始める。
こんなイカれた場所で。
「ビスカちゃんは魔王になりたいんだよね?」
「そうですよ。いつかは魔王になりたいと思っています」
「それなら聞きたいんだけどさ。国を待つ気ってあるの?」
予定としてはある。
だが、それは何年も先だ。
それを言ってもいいのだろうか。
いや、魔王相手に変なことを考える方が危険だろう。
てことで、言っちゃうことにした。
「ありますよ。そのために魔王の国を見学しに来ました。今は安定していてちょうど暇でしたので」
その話を聞いて魔王ミューカスはピコンと何かを思いついた様子を見せた。
てか、頭の上に本物の電球出すとかどうなってるの?
「それいいかも。【魔都見学】って言うのかな?全魔王に話通しておくからやってみない?」
「その結果次第では他の連中にもやらしてみるんですか?」
「あっ、予想できちゃった?ごめんね!魔王ラビアラとかに利用できるかなって思っちゃった!」
確かに必要かもしれない。
ビスカと同じであの魔王も国作りは素人だ。
ティーア大森林の二分の一を話し合いで勝ち取ったらしいけど、魔獣100万体を完全支配するには至ってないらしい。
土地と民がたくさんあってもダメな時は本気でどうにもならないらしい。
でも、いい頭脳は持ってるから勉強させればすごいものを作るかもしれない。
ビスカはあいつに助ける義理なんて無い。
それどころかもっと仕返ししたいくらいだ。
でも、恩を売るのはいいかもしれない。
だから、魔王ミューカスの案を採用してみることにした。
「いいんじゃ無いですか?その代わりに未熟な魔王を育てるプログラムを用意してください。なんなら全魔王で仲良くしてくださいよ。政治抜きで」
「政治抜きならいいかも。実際に森とか仲良くしてるし。うちもどこかと仲良くしたいなぁ。チラッチラッ」
そんなにチラ見されても困る。
名前すら決まって場所を国にするのはもっと先だよ。
魔王になるのが早ければ国も早めるけど。
それまでは交易なんてまだ早い。
特産品もないのにこんな大陸一の富裕国と仲良くできるわけがない。
だから、キッパリと言ってやる。
「うちは絶対に無理です」
「魔王になって人が増えてからでもいいんだよ?」
「なんでそんなに期待するんですか?技術力の高いここに勝てるものなんて作れませんよ」
「それは分かってるよ。でも、異世界転生者って聞いてるから何かあるかなって思っちゃうんだよ」
異世界転生者って単語を聞いて魔獣と鬼は驚いてざわついた。
ビスカはそれを睨みつけてやめさせる。
今はお前らも魔王に集中しろってことだ。
当の本人はため息をついて魔王ミューカスに文句を言う。
「あそこの技術を真似るとしても色々と足りません。てか、それを適当に言わないください。混乱する人も居るんですよ」
「そうなんだ!言ってないとは思わなかったよ。お詫びにうちのクリエイターをスカウトする権利をあげるよ」
「はっ?えっ?いいんですか?」
「構わないよ。すでにマキナがそっちに行ってるからな。殺さないでいてくれたお礼でもあるんだよ。なにせ戦闘人形でありながらすごい技術を持ってて国宝認定されてたからね」
「えっ?あっ?マジ?あのマキナが?」
驚くようなことが多すぎてビスカは目が回り始めた。
それでもほっぺをベシベシ叩いて話を続ける。
「なんかすみません。そんな奴と知らずに私のところに置いちゃって」
「問題ないよ。とりあえず後ろの4人にスカウト頼んだら?連れて行けそうな人をピックアップするだけでもいいんだよ?」
「そうさせてもらいます。あんた達、行ってきて。無理な交渉は無しで頼むよ。こちらはまだ出せる物が無いんだから」
「承知しました。では、後ほど」
そう言うと4人はサッと素早く出て行った。
結構優秀な連中だから任せておけばいいだろう。
懸念しているのは魔族の多くが主を馬鹿にされるとすぐに手を出してしまうことだ。
少し前にダリア商会の奴が街に来た時に失礼なことを言われた。それにキレたループが半殺しにしたことがある。
嫌な…事件だったよ。
そんなことを今気にしても仕方ない。
だから、ビスカは上に立つ者として大先輩に聞いてみることにした。
「魔王ミューカス様。いくつか聞いてもよろしいですか?」
「別にいいよ。何を聞きたいの?」
「まずは魔王になるのに何が必要なんですか?」
魔王ミューカスはそれを聞くって感じで困った顔をした。
でも、今は機嫌がいいから自分の考えを伝える。
「何が必要かは分からないよ。でも、ミューの場合は戦場で悪食してたら神様に認められたんだ。それで300年をかけてこの国を大きくしたんだよ」
「つまり、魔王になる条件はそれぞれで異なる?」
「そうなるけど1番は神様に認められることだね。魔王になれるだけの実力と、神様にとって面白いものを見せるんだよ。それで魔王になれる」
それって勇者も適応されるのかね?
今の勇者もそうなら確実にビスカより強いってことだろう。
そうでもなければ神様を喜ばせることなんて出来ないだろう。
この話を魔王ミューカスから聞けてよかった。
本当に魔都見学するなら他の魔王にも聞こう。
確認と情報は大切だ。
さて、次の話に移行しよう。
「次に竜種と仲良くは出来ないんですか?」
「それは厳しいよ。ミューはドラゴンを2体も食べちゃったからダメだし。元々ドラゴン達は自分が頂点って思っちゃうからね。でも、時々仲良くできる人が居るらしいよ。元勇者のクロムさんも伝説の古竜と仲が良かったらしいからね」
ここに来てあの人の名前が出るとは思わなかった。
ちょっと嬉しくなったけど、聞くべきことを聞くために今は無視することにする。
「では、竜種に魔王は居ないのでしょうか?」
「居るけど別枠だね。生まれてすぐに最強として恐れられる竜種は魔族に含まれないんだよ」
「そうなんですか。その魔王の名前はわかりますか?」
「分かるよ。【魔竜帝スペラーレ】って名乗ってた。この国にも一度来たんだよ」
「へぇ。えっ?」
あまりにも驚きの発言なので思わず魔王ミューカスに変な顔を見せてしまった。
そんな顔になるくらい驚くことだ。
あのヴォルカナよりも強い奴が来て無事なんだから驚かないとおかしい。
「そんなに驚かないでよ!ビスカの所も竜が来たんでしょ?噂になってたよ」
「あぁ、確かにヴォルカナが来てましたね。仲良くなったから今でもよく来てますけど」
「やるねぇ。ミューは仲良くなりきれなくてダメだったよ。相手が最強なのもあるんだろうけどね」
まだ聞きたいことがあるのに情報量が多すぎて辛い。
今回はもう諦めて最後の質問をしよう。
「そろそろここ出たいんですけど、その前に最後に1つだけ聞いていいですか?」
「いいよ。なんでも聞いて!」
「じゃあ、私達が今暮らしてる土地に何かありますか?」
その質問をした瞬間に魔王ミューカスの笑みが完全に消えた。
とても静かで不気味な怖い顔をしている。
その顔で恐ろしく静かに尋ね返してきた。
「なんでそんなこと聞くの?」
「最近何かの魔力を感じるようになったんですよ。感じたことのない魔力だから少し心配してて」
「もっと警戒して。そこにいるのは普通じゃない」
「えっ?どういうことですか?」
「ミューの知る中で最も危険な奴が封印されてる。死ぬまで封印しよって300年前に決まったんだよ。もう平気だと思ったけど、生きてたんだ。火災竜ヴォルカナはそれを確かめに行ったのかも」
「それってそんなにやばいんですか?」
そう尋ねた瞬間に魔王ミューカスは嫌なことを思い出した顔になった。
そのせいで少し怒ったような口調になる。
「やばいなんてもんじゃないよ。あれのせいで周辺の6つの国が滅びたんだよ。ここも例外じゃない。一度滅びたのを再建したんだ」
「そんなにやばいのが近くに…!」
「もしもの時は手を貸すよ。そのためにこの場で約束して欲しい。あれが出たらミューにも戦わせるって」
「分かりました。その時はお願いします。で、それはいつ目覚めるのでしょうか?」
「分からないよ。そんなの。でも、すぐじゃない。だから、他の魔王の見学をしっかりとして仲良くなって。そしたらミュー以外も味方になるかも」
「分かりました。では、そろそろ失礼します」
そう言ってビスカはスタスタと出て行った。
残った魔王ミューカスはすぐに通信用の機械を取り出す。
携帯のようなものだが、ガラケーより古い感じだ。
それを使って全ての魔王達に魔都見学の話と、あの土地に封印されたモノについて話した。
どの魔王もあり得ないと言いながらすぐに協力要請を受け入れてくれた。
そのついでに魔都見学を催促する方針が決まった。




