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第29話 先進国テクノロジア

 翌日、ビスカは招待状を使った。

 この世界では契約した霊体を悪魔とかのように召喚できるらしい。

 招待状には魔王ミューカスが契約している霊魔を召喚できる魔法が仕掛けられていた。

 召喚された霊魔は挨拶もなしにビスカ達を直接【先進国家テクノロジア】に転送した。


 今回のお出かけはお供に魔獣2人と鬼2人を連れて来た。

 ケイトに相談したらこのメンツになった。

 ケイトは人間代表として忙しくしているから来てくれなかった。

 マキナは……テクノロジア出身だけど帰りにくいらしい。戦争起こしたから。


 4日の距離を数秒に縮めて到着したビスカは、着くなり警備兵に招待状の提示を求められた。

 それを見せると魔王の研究所に連れて行ってもらえた。

 そこに入ると魔王ミューカスが出迎えてくれた。


「ミューの研究所にようこそ。危険な所に街を作った変人さん」


「どうも。招待状を(いただ)いてから時間が経ってすみませんね」


「別にいいんだよ。ミューはそんなの気にしない!」


 可愛らしい顔でそんな可愛らしい言い方をするなんて反則でしょ!

 って思ってると遠くからの何かのうめき声が聞こえた。

 当然ながらビスカ側は凍り付くような思いになった。

 やっぱり魔王は魔王ってことだろう。

 怒らせたら自分まで何かされるんじゃないかと考えてしまう。


 その空気を読んで魔王ミューカスは街を案内することにした。

 その時の魔王ミューカスは幼い顔に似合わない不気味な雰囲気を持っていた。


「今からミューの国を案内してあげるよ!ミューに城なんて無いけど、ちゃんと魔王してるんだぞ!だから、キテクレルヨネ?」


「あっ、はい。よろしくお願いします」


 震えながらそう答えると魔王ミューカスはビスカの手を引っ張って外に連れ出した。

 ビスカの仲間達もその後をついて行く。


 町並みはこの世界にしてはおかしいくらい地球に似ているという感じだ。

 しかも、魔王が治める国なのに聖騎士らしき人間が普通に歩いている。

 どうなってるんだ?


 ビスカは町を連れ回される途中で聞いてみることにした。


「魔王ミューカス様。なぜこの国は聖騎士がいるのでしょうか」


「あの人達は悪人退治のために(やと)ってるんだ。この世界は人間も魔族も同列に扱われるけど、犯罪しちゃったらそれは変わるんだ。だから、ミューが直々(じきじき)(きた)えて耐えられた人達を聖騎士として警備に回してるんだよ」


「なるほど。聖騎士と呼ばれるのはイメージがいいからですか」


「そういうこと!魔王騎士団とか嫌だよね?魔王が手を出す気満々みたいでさ!」


「まぁ、確かに」


 イメージって本当に大切だ。

 聖騎士って呼び方なら人間の国も頼りやすいだろう。

 ビスカの街も聖騎士が名前の通りならお願いするかもしれない。

 ビスカ達強者はあの土地に何かがあることに気づいている。だから、もしもの時はみんなを守ってもらわないといけない。

 今のうちから考えておこう。




 魔王ミューカスは町を連れ回してるうちに色々見せてくれた。


「これがうちの飲食店が並ぶ道だよ!あっちには衣類の専門店が並んでて!向こうには冒険者のための店が並んでるんだ!」


 この町は本当に他と違いすぎる。

 なんと言うかまとまりがあるって感じ?

 種類ごとに分けて町を綺麗に並べる感じがある。

 それだけ魔王ミューカスに頭脳と権力があるということだろう。

 このやり方は結構参考になる。


 飲食店も高級な店から一般家庭レベルまで様々な店が並んでいる。

 どれも地球の物と差が無いように見える。

 食材は貿易してる相手国から新鮮なうちに転送してもらってるらしい。

 それで多彩な料理が並んでいる。


 衣類の方も高い所から低い所まで揃っている。

 そこにアクセサリーも含まれているが、この世界っぽくない技術力で宝石が(みが)かれていた。

 工房も覗かせてもらったが、機械があることにびっくりしすぎてそれ以外に興味が持てなかった。

 どうやらエネルギーは魔石から取ってるらしい。小さな魔石で小さな機械は1年間も使えるらしい。


 冒険者の方も一応見に行った。

 まず、冒険者が普通にいることに驚いた。話を聞くと昔の魔王が残した財宝が隠されてることがあるらしき。彼らはロマンを求めて冒険してるそうだ。

 店に並んでるアイテムはどれも一級品だ。

 さっきまでと同じように金のない人にも優しい店も並んでいる。

 どのアイテムも今のビスカ達では真似できそうにない。


 その他の店として玩具屋(おもちゃや)や大人のお店もある。

 オモチャもレベルが高い。この国の子供はとても贅沢な暮らしをしてるな。

 ただ、玩具屋の人形はマキナの作る人形に劣っている。それだけは魔王に勝てた。


 ついでにこの国のお酒も見せてもらった。

 鬼が言うにはテクノロジアのお酒は大陸一の出来らしい。

 魔王フィアンマは日本酒のような酒が好きだそうだが、この国の酒の方が美味いからショックを受けたことがあるらしい。

 そんなレベルのお酒なんて作れるか!いい加減にしろ!




 遊びに来ただけなのにすごいものを見てしまった。

 ビスカ自身は驚くことしか出来なかったが、魔獣と鬼がどうにか聞けるだけの情報をメモってくれていた。

 優秀でマジ助かる。


 今は疲れて公園のベンチに座っている。

 こういう場所にまでこだわってるのが見てわかる。

 花壇の花や周りの木々も品種改良した物らしい。

 元々は妖精とエルフから輸入した物だと言っていた。


 驚きすぎてもう口がぽかんと開いたままになってしまう。

 その口を閉じてくれるかのように魔王ミューカスに聞く。


「まだ2時間しか経ってないけど、ミューの国はどう?」


「もうすごいとしか言えません。遊びに行きただけなのに……こんな技術が流出したらやばいんじゃないですか…?」


「全く問題ない!すでに最高の人形が流出してるし!もう気にせずに技術力を高めることにしてる!」


 その顔には余裕と自信が映っている。

 ビスカはこれが魔王なのかと改めて感心した。

 どっかの魔獣魔王にも見習ってほしいものだ。

 それをビスカに言う資格は無いが。


「さて、落ち着いたらミューと真面目な話をしよう。ミューは期待してるんだ。期待通りになった時を考えたら今うちから仲良くしとくよ」


「期待されるのは嬉しいけどさ。ここと同等の広さがあってもこのレベルは厳しいですよ」


「ここまではやらなくてもいいんだよ?他の魔王も自分なりのやり方をしてるし。なんなら人の国も農業に特化してたり、魔術に特化してたり、漁業に特化してたりして多彩だよ」


「そっかぁ。そうですよね。私はまだ若いし何も分からないけど、もうトップに立ったから黙って見てるだけはダメなんですよね」


 ビスカは魔王ミューカスと話して少しだけ方向性が決まった。

 なんだか自信もついた気がする。

 そういえば、魔王に会ってもビビって無いような。


「その顔。もしかして今更気づいた?」


「えっ?」


 青い髪の魔王がビスカを覗き込みながらそう言ってきた。

 そのせいでビスカは困惑した。

 その顔が面白いと思った魔王ミューカスは笑いながら離れたら。

 それから楽しそうに話してくれる。


「ミューは普段から魔力を隠さないよ!やってもみんなが怯えない程度だよ!つまり!ビスカはそれくらい強くなってるんだよ!でも、連れきた人達も相当だね。これに怯えないなんて」


 確かにそうだ。

 ビスカ自身はこの短期間でかなり強くなった。竜の加護もあるし。

 ループ達は魔王ラビアラの元配下というのも怯えない要因だろう。彼女も相当な実力者だ。

 鬼の場合はそもそも強者に対して怯えることを知らない。戦闘種族なので相手が強者なら興奮してしまう。

 そんな連中だからビスカと同じように魔王ミューカスを前にしても平然としていられる。


 そんな連中も含めて印象はいいらしい。

 魔王に気に入られたのは大きい。

 これならすぐに敵対することは無いだろう。


「褒めていただいてありがとうございます。こいつらを連れて来た甲斐(かい)がありました」


「そんな気は無かったくせに」


 普通に偶然だったのがバレた。

 でも、怒ってないからいいだろう。


 ここに来て本当によかった。

 良い物は見れたし、魔王のあり方の1つを知ることも出来た。これは大収穫だ。

 あとはこの後に魔王ミューカスを怒らせないようにするだけだ。

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