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第2話 先を見ないからこうなる

 幼女天使は転生してから2日が経過してしまった。

 ここまでの間にこの天使は野宿しながら広大な森を出ようとさまよっていた。

 ただ、このバカは異世界の動物が強いと思っていなかったので、普通にボコされてしまった。そのせいで2日間も食料にありつけていない。

 普通に木の実やキノコはそこら辺にあるが、ボコボコにされてしまったせいで体力や魔力を回復に回してしまい動けなくなってしまったのだ。


「転生2日でまたあの世とか冗談じゃない。てか、ウサギごときに負けた……どんな世界だよ…」


 大きな傷はもう治っている。だが、思っていた以上に天使という種族はエネルギー消費が激しくて2日で限界を迎えたのだ。生きることと再生にすべて持ってかれてしまったから本当に何もできない。

 だから、奇跡でも起きない限り幼女天使のNEWライフはここで終わってしまう。


 しばらく寝ていると、横になって腹を鳴らす天使の近くに誰かが近づいて来た。

 それが敵なら戦うべきだが、幼女天使は空腹で死を待つ状態だ。諦めて運命をそいつに託すしかない。


「おい!これを食え!さぁ、目を開けてこれを食うんだ!」


 声の主は男性のようだ。目を開ける元気もないのでその姿は確認できない。でも、その温かい手が天使を支えて口に食べ物を運んでくれたのは分かった。

 いい匂いがする。匂いからしてこれはパンだ。これを食えば死ななくて済む。完全な善意とは限らないが、このチャンスを逃せば餓死するしかない。

 天使は弱々しく口を開いた。その小ささに男性はショックを受けた。ここまで弱ってるのかと思ったからだ。

 彼はその口でも食べれるように小さくちぎった。そして、そのパンを口の中に押し込む。すかさず飲み物も天使に与える。

 天使はゆっくりと味わって命を繋ぐ食料をゆっくりと飲み込んだ。その一連の流れを見届けた男性は急いで次のパンをちぎって口に押し込む。

 それを約10分間繰り返した。


 天使は与えられた食事をすべて飲み込んだところで完全回復した。それからすぐに魔力が満ち始めて天使の小さな体を浮かせた。

 その魔力の回復が終わると天使は普通に地面に立てた。それから手をグッパグッパして生きてる実感を得た。


「もう大丈夫なのかい?」


 天使は男性の声を聞いてそれが恩人だと気づいた。

 薄れた意識でもその声はちゃんと届いていたのだ。だから、微笑んで応える。


「もう平気。ありがとう。恩人さん」


 それを聞けて男性は安堵の表情を見せた。

 でも、天使はこの奇跡に疑問が浮かんでいた。あの説明書には人間と人外が完全な良好な関係を得られていないと書いていたからだ。

 この天使は恩人に対してよくないと分かってても聞かずにはいられなかった。


「でも、なんで助けたの?私達と人間達は仲があまり良くないはずだよ?」


 天使は彼がこれに答えてくれないんじゃないかと思った。だから、それでもいいかと覚悟していた。

 でも期待は外れた。彼はにこやかな優しい表情で答えてくれた。


「種族の壁なんて大した問題じゃない。僕らのような考えは実際のところ少ないけど、ここで見捨てたら後味悪いだろ?だから、常識なんて捨てて助けたんだ。お陰で昼飯がなくなったけどな」


 彼は天使を前にして笑いながら話してくれた。

 神様が教えてくれたザ人間以外の奴もいることを知れて天使はほっとした。彼みたいな人が居るならやっていけそうだ。

 そう思っていると、彼が尋ねてきた。


「てか、何でスキルとか魔法とか使わなかったんだ?天使は最強の種族の一角だからそれくらい簡単だろ?それとも産まれて間もないのか?」


 それを言われて天使はドキッとしてしまった。図星を突かれたから冷や汗が一筋背中を落ちていった。

 天使は恥ずかしくなったので逃げようかとも思ったが、彼に聞けば理解できるかもと期待してしまう自分も居た。だから、口が恥ずかしいのを堪えて話した。


「実は2日前にこの森で産まれたばかりなの。だからまだ何も知らないんだ」


 全てを知らないわけじゃない。でも、嘘もついてない。

 彼は天使の目に嘘がないことを確認した。その青い目は全てを受け入れるかのように真っ直ぐに彼を見続けた。

 その目を信用した彼は天使に色々と教えることにした。時間はたっぷりある。でも、日が落ちるまでに終わらなくてはいけない。


「よし!なら、ステータスを見せてみろ。本来は身分を証明したりするのに使う物だが、この場合は別に使ってもいいだろ」


「分かった。見せるね」


 天使は例の袋から石を取り出した。正式名称は“情報石”というらしい。

 それに魔力を込めて彼に提示する。


「ほら、これが私だよ」


「ふーん。で、どんな感じかな?」


 そう言いながら彼は覗き込んだ。それからすぐに驚いて一歩引いた。何か言いたそうではあるが絶句してしまっている。その目はステータス画面の上の方で固まっている。

 天使は目線を追って見てる場所を確かめた。それは称号の部分らしい。


「これがどうしたの?」


「『どうしたの?』じゃねぇよ!お前神様のお気に入りじゃねぇか!こんなレアな状況初めてで驚きすぎちまったよ」


 彼は焦った様子だが、天使は何のことか分からなかった。

 その天使の顔を見た彼は呆れた様子に変わった。


「あのなぁ。ここに【神の加護】って称号があるだろ?これは産まれた時か魔王になった時にしか手に入らないんだよ。前者は天才が多いんだ。後者は実力者ばかりなんだ。で、お前は神様から才能を授ってる方ってことだ。分かるか?」


「おー、なるほど」


 天使は説明されてようやく理解した。

 いや、これも説明書に書いてあったはずだぞ。こいつ、もしかして本当のバカなのでは?


「まぁ、これがあるなら次は倒れないだろうな。上位スキルとレアなパッシブスキルがあるんだからな」


「それってこれのこと?」


 天使が指差す先には『聖力付与(ホーリーエンチャント)』と『瞬天』というものがあった。


「それのことだ。『聖力付与(ホーリーエンチャント)』がスキルで、『瞬天』がパッシブスキルだな。神様がくれたギフトってやつだろうな。内容を見なくても想像ができるぜ」


 彼の言うように名前で想像できた。このスキルは自分の力を相手につけるもので、このパッシブスキルは素早く動けるってことだろう。

 本当にそうなのかと天使は疑っている。


「使ったことないなら試してみた方がいいぞ。今後1人で生きていくつもりなら理解してないと戦えないからな。特にこういうところにはランクの高い魔物が居るから、使えないと不便どころか死ぬぜ」


 最後の脅しで天使はウサギに負けた時のことを思い出した。

 だから、深くうなずいて人生初のスキル発動を行うことにした。


「『聖力付与(ホーリーエンチャント)』発動!対象は自分!」


 そう言いながら体内から溢れ出た聖なる魔力を自分に付与した。すると、全ステータスが2倍になったことを画面で確認できた。

 つまり、ただの付与(エンチャント)では全強化になるようだ。これを対象を絞ればもっと上げられるのかもしれない。


「今度は『瞬天』で飛んでみよ」


 そう言いながら…いや、言い終えるよりも先に翼が動いて200mも上空に浮かんでいた。


「えっ?」


 天使はあまりの速さに思考が追いつかなかった。

 そのせいで翼をパタパタさせるのを忘れて真っ逆さまに地上に落ちた。

 その速度は速くないので下の人間はゆっくり狙いを定められた。だから、落ちてきた天使を優しくキャッチしてくれた。

 その状態で心配よりも先に別のことを尋ねる。


「どうだい?あり得ないを体験できた気分は」


 今それを聞かれたら天使の答えは一つに決まってる。


「最高だった!」


 天使は本当に無邪気な子供のように笑顔でそう答えた。

 彼はその笑顔に釣られて笑った。笑いながらあのままになっていた天使を地面に下ろしてあげた。


「そりゃよかった。じゃ、他にも色々と教えたりしたい。だから、俺の住んでる街に来ないか?あいつらも平気だと思うぜ?」


 これは天使にとって嬉しい申し出だ。

 今更で悪いが天使の服はだいぶボロボロで今にも無くなってしまいそうな状態だ。その上裸足で食料もない。水が入った水筒も渡されていたが、ウサギの蹴り一発で粉砕済みだ。

 だから、宝の持ち腐れ状態のお金が使えるチャンスが来るのは願ってもないことなのだ。


「ぜひ連れてって!」


 チャンスを逃すまいと目をキラキラさせながら申し出を受けた。

 その答えを聞けた彼は嬉しそうに言う。


「じゃあ行こう!お前のようなすごい奴をみんなに会わせないとな!もしかしたら将来の魔王かも知れないし!」


 今の興奮で勝手に出てしまったであろう言葉に天使は引っかかり感じた。

 自分が魔王になれる可能性があると言われのだ。よく分からなくてもかっこよさそうと思ってしまうのは元男の子だね。


「さぁ、僕について来いよ!はぐれたらこの森は出られないぜ!」


 彼はそう言いながらくるっと方向を変えて歩き始めた。

 天使はしばらく魔王に思いを馳せてポワポワしてしまった。なので、遅れて彼の後を追った。


「待ってよ!」


 天使は名も知らぬ恩人を追いかける。その恩人も天使の名前を気にしなかった。

 この世界はそういう世界なのだろうか。

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