第22話 魔王集会は天使と踊る
魔王マリスが部屋に入ると目の前にある空席に座った。
すると、魔王達が足りてないイスを自分達で用意して座った。
この11人の中心あるテーブルは普通サイズだったので、魔王マギアがまた魔法で大きくした。
これで会議の準備ができた。
全員の準備が終わってることを確認して魔王マリスが開催を宣言する。
「では、これより【魔王集会】の簡易会議を始める。今回は竜人族と獣人族は欠席だ。自国で手一杯らしい。彼らを気にせずに本気で話し合ってもらいたい」
これを終えた途端に魔王達が動き始めた。
でも、誰かが声を発する前に魔王マリスが片手で静止した。
「すまない。始める前に名乗る必要があったな。簡易でもそれくらいは守ろう」
そう言うと魔王達は熱くなってるのを抑えて黙った。
それを見て最初に魔王マリスが挨拶する。
魔王達は席が近い順に名乗ろうと待機している。
「我は魔王ロンド・マリスだ。【天翼国家ホワイス】を治めている」
「私は魔王リゲロ・ルーチェです。【妖精国家ルミエラ】を最近治めました。なので、一応お初にお目にかかります」
「妾は魔王フルーレ・ブルームである。【自然国家ナトラ】を治めておる」
「あたしは魔王フィーロ・アラーニャです。【異常国家ペサディヤ】を治めています」
「私は魔王ロッソ・レイである。【月下国家ヴァンピーロ】を治めておる」
「俺は魔王バージェス=フィアンマだ!【武士国アルマドラ】を支配している!」
「私は魔王オセオン・ウェルだよ。【海浜国家プライヤ】を治めさせてもらってるんだ」
「ミューの名前は魔王カンビオ・ミューカスだよ。【先進国家テクノロジア】の上に立ってるよ」
「僕は魔王デコード・マギアです。魔人だけの国【魔法国家メディシン】を治めさせていただいております」
「俺様は魔王ダンザ=デモニオだゼ!【黒翼国家ネイロ】の主だ!」
これで欠席者を除いた全魔王が名乗った。
それからしばらく沈黙が部屋を覆った。
最後まで行ったのに話が進まないなとビスカが思ってチラッと見た。
すると、全魔王が今回の中心人物であるビスカに視線を向けていた。
どうやらビスカのことを待ってるようだ。
本当はこんな奴らに覚えられたくないが、仕方ないと諦めてご挨拶する。
「初めまして、シエラ・ビスカと申します。一応この【独立街フェリチタ】の守護天使をしております」
挨拶を終えてそっと魔王マリスの方を見ると『上出来だな』という顔をしていた。
その顔を見てビスカはもう逃げられないと思った。
全魔王に目をつけられてしまっただろうから。
ビスカがため息を吐いてる間に魔王マリスが今度こそ開始を宣言する。
「では、会議を開始する。それぞれの意見をぶつけようではないか」
その宣言を持って会議は始まった。
《議題は森の話し合いについて》
全員がそれに参加するつもりでいる。もちろん妖精とエルフはこの森に住んでるから参加が決まっている。
ここに来たのはビスカを連れて参加するためだ。
それは他も同じだから譲る気はない。
「先に言わせてもらおうかの。そこの弱い天使は妾が連れて行く。この街は放置できぬからな。参加させねばなるまい」
「待ってください!それなら私が同伴させます!仮にも妖精国を救ったお方です!恩を返すならこれしかありません!」
「それなら我にだって連れて行ってやる理由はある。同じ天使だからな。同族を助けるのも魔王の仕事だ」
「それならミューが連れて行くよ。ミューの国にいるドール達が迷惑かけたもんね。さっきマキナが居たから脅しておいたよ」
話の流れで怖いのが聞こえた。
あのマキナがスライムに脅された?何それ魔王に近い実力でもダメってこと?
ていうか、マキナってあそこの出身なんだ。
ビスカがそんなことを考えていると、他の魔王達も名乗り上げた。
「お前ら勝手だなぁ。まぁ、俺も大概だがな。こいつは気に入った!だから、この魔王フィアンマが連れて行ってやる!」
「ダメです!ビスカさんは危ない人達ではなく僕が連れて行きます。元人間ですが、使える魔法は悪魔も超えています。役に立てますよ」
「それはどうかわかんないけどね。でも、私も立候補するよ。お姉ちゃんの剣が守れなかった結果だからね」
「クロムのことなら俺にも責任がある。妨害を封じる手を与えなかったからナ。悪魔は魔法開発もやってるんだ。この魔王デモニオが馬鹿じゃなけれりゃ間に合ってたんだ!責任を取らせてくれ!」
「そんなことを言うな。それなら私にもありますから。言ってしまえば、ここに居る全員に連れて行く資格があります。ですから、誰が連れて行くかを話し合いましょう。私にも責任はあります」
「魔王アラーニャに賛成だ。私も連れて行きたい気持ちはある。クロムに恩があるからな」
全員の意見は『ビスカを話し合いに参加させる』という点で一致している。
それを誰も譲る気がない。
全員が一貫して自分が連れて行くと言って、その意見を曲げようとしない。
でも、最後はビスカが決めてお願いしなければいけない。
だから、決まる時を待つことにした。
「妾達には明確な理由がある。魔王フィアンマよ。辞退してくれぬか?でなければ面倒が続くのでな」
「けっ!最年長の魔王に喧嘩は売れねえよ。まだ滅ぼされたくないんでな」
「では、辞退してくれるな?」
「あぁ、辞退する。こいつはお前らに任せる!」
「それで良い。ビスカが気に入ってるのは妾達も同じじゃ。いずれ仲間になるかも知れない者を酷い目には合わせんよ」
こうして魔王ブルームの手によって鬼が話から退場した。
残るは9人の魔王だ。
「一番現実的なのは私達が連れて行くことではありませんか?魔王ブルームさん」
「そうであるぞ。だかなぁ。それで納得がいかな者が居るから話し合いをするのだ」
「では、私達が辞退したらどうでしょうか?魔王ブルームさんと私が参加するのは決定してるんですから。他の方に花を持たせても良いと思います」
その提案に魔王ブルームは短く悩んだ。
すぐに答えを出して魔王ルーチェにも花を持たせることにした。
「新参の割には頭の使える奴のようだ。では、妾も手を引くとしよう。どうせまたここで会うことになるのだろう?魔王ラビアラからそういう情報が来ておる」
「そのようですね。私の方も魔王ラビアラが情報をもらっています。もしもの時のために魔王はもう数人くらい必要でしょうね」
それだけ言い残して2人は話し合いから距離を置いた。
これで残るは7人だ。
ここでビスカは口を挟むことにした。
このスピードで減ると選べそうにないからだ。
本来はこちらがお願いする立場なのだから、勝手に決められて助けてやると言われても困る。
だから、魔王に対して強気に出る。
「ちょっとよろしいですか?」
そう尋ねると魔王マリスが反応してくれた。
「どうした。何か不満なのか」
「いえ。そうではありません。いや、やっぱり不満です。これは森側の問題でもありますが、一番は我々の問題です。元勇者クロムや私達が負けなければこうなりませんでした。こう言ってはなんですが、我が街はダサい」
その衝撃的な発言にざわついた。
この天使は曲がりなりにもここの守護天使だと言ったのだ。
それが自分の街をダサいと言うなんて本来あり得ない。
それは魔王が自国に対してダサいと言ってるようなもの。
味方に命を狙われてもおかしくない発言だ。
「な、何を言ってるのだ。急に。貴様、頭でも打ったか?」
「頭など打ってません。イカれてもいません。至って真剣に考えて言いました。ここの人々は元勇者を失ったことで怯え始めました。強者が居ても心の拠り所がないとダメなのです」
魔王達は息を呑んで言葉に耳を傾ける。
魔王ブルームだけはニヤニヤしながら聞いている。
その魔王にこそ聞いてほしいという様子でビスカは続ける。
厳かな様子で。
「たった1人を失っただけでこの街は心の安定が崩れたのです。それがダサいと言わずなんとする。ついでに、元勇者が負けたのもダサい。私が戦えなかったのもダサい。マキナが動かなかったのもダサい。全てがダサい」
「そんなことは……」
魔王マリスは何かを言おうとしたが魔王ブルームに静止させられた。
しかも、いつもなら見せない顔で、興奮して弾けるようになった魔力を溢れさせながら聞くことに集中している。
それを邪魔すれば魔王と言えど命の保証はない。
そんな危険な状況に一切興味を示さずにビスカは続ける。
その様子をマキナがドアの所から見始めた。
盗み聞きしていたがこれは見届けるべきだと思ったのだろう。
ビスカは静かに張り詰めた空気で話を続ける。
「魔王様方は何のためにここに?手を貸すため?恩を返すため?それなら全員お断りします。私が求めるのはこの街を真に考えてくれる魔王のみ。それなら一番お願いしたいと思うのは魔王フィアンマ様です」
急に自分の名前が出て彼は一瞬戸惑った。
それでも相手の真意を想像して静かにすることにした。
心臓がバクバク鳴っているが、それを黙らすように努力しながらビスカの話に耳を傾け直す。
「しかし、彼は熱すぎます。この街の、未来の国の運命を託すには心許ない思いました。なら、誰にお願いするのが一番いいのか。それはもう決まってます。最初から我が街を疎ましいと思っている魔王ブルーム様です」
「ほう」
予想と違ったので思わず声が出てしまった。
いつものビスカなら何かしらの反応を見せたかも知れないが、今日は何かが違うようなので無視してくれた。
その魔王に近い態度に魔王ブルームは面白いと思った。
「ですが、彼女はこの街を追い出すだけでその先を考えてくれないでしょう。なので、私はあと2人の魔王様にお願いしたいと思いました。その魔王様も決まっています。魔王マリス様と魔王マギア様です」
魔王マリスはその理由を理解して深く頷いた。
彼と違って魔王マギアはわかっていない様子だ。
だが、黙って聞いてくれようとしている。
「この御二人は魔王フィアンマ様と同じで大した理由をお持ちではない。だから、信用できるのです。他の恩返しや罪滅ぼしなどは信用に足りません。目的を達成するために何をするか分かったもんじゃない。なので『同族だから』と『危険から守る』は信用できると思いました」
他の魔王達は意味がわからないという顔をする。
それに対してビスカに認められた4人は理解できた様子で静かに時が来るのを待つ。
その魔王達を見回してビスカは話すべきことを考えた。
「あなた達は一国を背負う魔王なのでしょう?なら、気持ちはわかるはずです。今後は私がこの街を背負うのです。外交のようなことをするならリスクは考えるべきです。あなた達もそうするでしょう?」
ここまで言われて理解した。
魔王達のようにビスカは1つの集団の上に立つ者としてここにいるのだ。
魔王達相手にこんなことを言いえたのは、最終決定権がこちら側にあるからだ。
魔王がどんなに駄々をこねようとそれが通用しないことを示したのだ。
王が意見を通すために他国に無理を押し通せるか?真っ正面からなら無理だろう。
そういうことだ。
「ご理解いただけたようなので、魔王マリス様、マギア様、ブルーム様、同伴者として私を選び参加させてください。そして、魔王ブルーム様とルーチェ様は本気で戦ってください。この街の運命は私の手腕で決めます」
その目は本気だ。
もう逃げる気も、引き下がる気も、諦める気も無い。
だから、魔王達はそのお願いを受け入れた。
さて、ビスカは魔王を目指すなら絶対に通る道を試練に選んだ。
これを越えたら次からは自分の好きにしようと思う。義理とか関係なく自分のLIFEを突き通す。
乗り越えられれば第二の人生再スタートだ。




