第21話 1人の旅立ちから次へ
膨大な魔力が1つ消えて、もう1つは遠くへと去った。
これによってさっきまで近づけなかったケイト達が森の開けた所の奥にいる2人と合流できた。
そこですぐにクロムの遺体に気づいて全員が駆け寄った。
その中には泣き始める者が居た。怒りをあらわにする者が居た。戸惑って何も出来ない者が居た。何かが壊れて笑い始める者が居た。
みんながそれぞれの気持ちで彼の死を悼んだ。
少し離れていたビスカは彼らの感情の豊かさにまるでピエロのようだと思った。
彼らより自分の方が滑稽な存在なのに。
マキナは空気を読まない空を睨んでからビスカに近づいた。
マキナがビスカに話しかけようとした瞬間、ビスカはドス黒い魔力を発生させた。
それに落ち葉が触れると燃え尽きるかのように黒くなって砕け散った。
おそらくこれは堕天使に近い魔力なのだろう。天使でも悪魔でも無いもう1つの翼型の種族だ。
人数は少ないが全員がAランクの危険な種族だ。ビスカはそれに近づきつつあるのだろう。
その魔力の即死性をマキナは恐れたが、友達のために意を決して話しかける。
「ビスカ、今イイデスカ?」
それに反応したビスカは瞬時に魔力を抑え込んだ。
それからマキナの方を向いた。
この間1秒以下だ。
あまりにも早すぎたが、落ち着いたようなので今はそれに触れないことにした。
「どうしたの?」
「先程ノ話ニ乗ルノカ確認シタイノデスガ」
「それについては決まってるよ。リーダーを弔ったらすぐにでも魔王マリスに相談する。もしもの時のために魔王ルーチェとも話す。どちらも心で動いてくれそうに無いけど、借りは返すんじゃない?」
そんな不安要素に頼るしかないことにマキナは頭を抱えた。
そうしているマキナをそっとしておこうとビスカは離れた。
それからビスカはケイトの元に向かう。
「ケイト!いつまでもここに遺体は置いておかないよ!一度彼の家に運ぼう!」
「そ、そうだな。分かった。俺らで運ぶから先に行っててくれ」
「早くしてよ。いくら人間の遺体が消えないからって腐らないわけじゃないんだから」
急かす言葉にケイトは反応してくれなかった。
でも、仕方ないことを理解してるからビスカはそっと立ち去った。
マキナはすぐにその後を追って街に向かう。
残ったケイト達はしばらくして運ぶために上着を脱いだ。
それを結んで遺体を乗せられるようにした。
彼らは手を合わせてからリーダーを上着で作った担架のようなものに乗せた。
そのまま持ち上げてゆっくりと運ぶ。結び目が解けないように願いながらゆっくりと。
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この世界では王族や魔王などの葬式をするが、一般人やAランク以下の魔物は葬式をしないらしい。
でも、それなら勇者はSランクで当てはまる。だから、ビスカが裏で説得して葬式が行われることになった。
時間がないので死んだその日に行うことになった。彼の葬式が行われる噂はすぐに大陸中に広がった。
そうしたらほとんどの魔王が出席したいという内容の手紙を送ってきた。
その中にはマリスとルーチェも含まれている。だから、チャンスと思って魔王達に許可する内容を書いてもらって送り返した。
これで葬式は1日で終わらなくたった。魔王が暇なわけないだろうから。
と思ったら、葬式の準備ができてから2時間以内に出席者が揃った。
魔王って暇なの?
「魔王は簡単に勇者の葬式などに出られない。しかし、1人だけなら入っても良いそうだ。故に我が代表して献花させていただく」
魔王マリスは葬式会場になったクロムの家に入る前に受付のビスカにそう言った。
ビスカからすれば断る理由がない。だから、バラのような花を人数分渡した。
「どうぞ。故人やこの街の方々に迷惑をかけないようにしてくださいね」
「分かっている。その後に話したいことがある。貴様の家に魔王達を入れてもらいたい」
そう言われて一瞬ビビった。
1人でも同じ空間に長時間居ると苦しくなるのに、魔王が10人も揃ったらすぐに苦しくなるだろう。
でも、なんとなく今なら平気な気がした。
だから、自分で伝えに行くことにした。
「分かりました。では、先に行っていますので献花を終えたら我が家の二階にお越しください。問題があればお声かけしてください。すぐに対応いたします」
「承知した。では、そろそろ行かせてもらう」
そう言うと魔王マリスは12本の花を持って中に入った。
それを見届けたビスカはすぐに近くに居る女性に代わりを頼んだ。
それから魔王達に近づいて挨拶した。
向こうも律儀に挨拶を返してくれた。そのおかげで家に招くことをスムーズに伝えられた。
家に入ると全員を二階に通した。
この家はあまり広くないので二階で一番大きな部屋でも魔王が揃うと狭そうに見えた。
それを見かねて魔王の1人がビスカに尋ねる。
「確かビスカさんですよね。魔王マギアです。この空間を広げたいのですがいいでしょうか」
「構いませんよ。元々壊れてもいいように建ててますから」
「では、失礼して」
そう言って立ち上がると無詠唱で空間魔法を発動した。
人にしか見えない魔王マギアは短い杖を振るだけで自在に魔法を使ってみせる。
彼は頼りない見た目をしているが、実際にその魔法を目の当たりにすると魔王であることを疑えなくなった。しかも、早い。
拡張を終えると座り直してビスカに報告する。
「ビスカさん、拡張終わりました。ご協力感謝します」
彼は魔王らしくない態度で頭を下げた。
その様子が他の魔王と違いすぎて驚いてしまった。
「い、いえいえ。この程度で協力と言えませんよ」
「謙虚なんですね。それならそういうことにしましょう」
対応を完璧に察してくれた魔王様はそれ以上何も言わなかった。
すると、暇になった魔王達が話し始めた。
最初に口を開いたのは魔王ルーチェだ。
「謙虚なら戦争で私から敵を横取りしないと思いますけど。まぁ、あれで楽が出来たからいいんですけどね」
彼女はやはり取られた思っていた。しかし、楽が出来たことに感謝してる様子だ。
その話が気になった鬼の魔王フィアンマが動いた。
「なんだぁ?こいつガキのくせして魔王に恩を売ったのかぁ?やるじゃねぇか!」
「ちょっと違います。私が面倒な相手を任せるために協力をお願いしたんです。でも、きっかけが私なだけで実際に恩は売ってますね。そういえば」
そこまで考えてなかったが、魔王の中での評価が勝手に上がった。
それで魔王マギアがビスカを褒めてくれた。
「すごいですね。僕があなたの立場だったなら横取りなんて出来ませんよ」
「あはは…ただの命知らずですよ…」
本当に命知らずだ。
あれのせいで今こんな怖い目にあっている。
今ちょうど過去の自分を呪っているところだ。
そんなビスカを気にせずに今度は人魚の魔王ウェルが話に参加する。
「命知らずなのは彼に似ちゃったのかな?クロちゃんも勇者らしく命知らずな戦い方してたもんね」
「あり得る!あいつの悪いところは短い間でも他人に影響を与えるところだぁ!生まれたての天使にそういう影響を与えたかもなぁ!」
人魚の言うことを魔王フィアンマは肯定した。
さらにスライムの魔王ミューカスも肯定意見を追加した。そのためだけにリラックスしたスライム状態から人型に素早く変化してくれた。
「魔王にも影響を与えたもんね。産まれる前から近くに居たらそうなるんじゃない?ミューはクロに育てられたからね。悪影響で悪食になったよ」
「違いないねぇ!妾も何度か酒を一緒に飲んでたら同じくらい飲めるようになったからのぉ!確実にあやつは何か持っとるぞ!近くに居る奴に自分の悪癖を移す何かを!」
エルフの魔王ブルームが冗談交じりに言ってくれた。
そのおかげで魔王達から大きな笑い声が湧いた。
ビスカのおもてなしではこうはいかないだろう。
しばらくして静かなかった。
そうしたら今度は悪魔の魔王デモニオがビスカに話しかけてきた。
「そういえばお前って堕天使か?」
彼は鋭い目つきでギザギザの歯を覗かせながらそう言った。
ビスカはその言葉の意味を理解できなかった。
なので真面目に聞き返す。
「だ、堕天使ですか?私が?」
「俺はそう思ったゾ。魔力の色が黒に近いからナ。もしかしたらと思ったんだが、違うのか?」
「違います違います!私は堕ちてませんよ!ほら!翼を見てください!」
そう言って見せた翼は確かに純白をkeepしていた。
それで悪魔は納得してくれたが、吸血鬼の魔王レイは納得していないらしい。
「それは見た目だけであろうが!中身が黒ならそれは擬態してるやも知れぬ!だが、そこまで気になるわけではない。いつか教えてくれれば良い。真実をな」
「その時は包み隠さず話しましょう。私自身も黒い魔力に覚えはあります。怒りが限界を超えたときに出ていた気がするのです」
「気がするだけか?ならばまだなのだろう。奴が戻る前にそれを知れてよかった」
魔王レイも納得してくれたらしい。
薄く笑うと彼は自前の血が入った瓶に口をつけた。
その直後に蜘蛛の魔王アラーニャが見張りに出していた蜘蛛から報告を受けた。
その蜘蛛を仕事に戻した後に全員に伝える。
「皆さん、魔王マリスが来たようです。ここからは真面目な話し合いの場となります。各々に考えがあるならその意見をまとめておいてください。時間はありません。10日後までに決着をつけます」
下半身が蜘蛛で上半身が人間の魔王がそう告げると、魔王達は静かになってそれぞれが覚悟を決めた様子になった。
そして、議題の中心となる人物を、ビスカを一番奥の席に座らせた。
それを終えたところに魔王マリスが入ってきた。
そこから全員の雰囲気が完全に変わった。




