第1話 転生したらどうしてこうなった!
深く落ちていく。どこまでも深く落ちていく。落ちているのに空中でも水中でもない不思議な感じ。
元地球人のスバルは転生の最中に眠りついた。その眠りは魂を異世界へと連れていく。
魂は神様の手によって、どんな形にでも変われるようにドロドロにされていた。その魂が書き換えられて世界に適応できるようにさせられる。
もしかしたら、他の転生系がすぐに適応できるのは改造されたからかもしれない。地球人としての感性を壊されたから、すぐに異世界の暮らしを出来るかのかもしれない。その方がそれっぽい。
そういえば、深く落ちるのは地球から遠くの世界に移動するからなのかも。てことは、底に着いた時には到着したということだろう。
あっ、スバルの背中に何かが当たった。
起きなくちゃ。
目を開けるとスバルは森の中に居た。最初は寝ぼけたような感じで頭が働かなかった。
でも、スバルは地球にいた頃にルーティーンとして毎朝顔を叩いて起こしていた。だから、その癖で異世界での初起床をした。
パチンッ!といい音をさせるとNEWスバルは意識がはっきりした。それで現状がおかしいことに気づいた。
「えっ?何で森?」
困惑しながら出た声に違和感を感じで喉をペタペタと触る。
その手にも違和感を感じた。だから、その手に目を向ける。
森の次に見た物はとても小さい自分の手だった。それはまるで幼女の手だった。
待てよ。マジで幼女なんじゃね?
「森なんかより自分の姿の方が気になる。どっかに鏡とか無いの?」
キョロキョロして辺りを見回す。
普通なら鏡なんて落ちてるわけがない。
でも、スバルの裏には神様がいる。あの神様なら何かしてくれてるだろうと思って探し続ける。
しばらくして上を見ると、木の枝に袋が引っ掛けてあるのが見えた。普通なら届くわけがない。
でも、今のスバルには取れるような気がした。
「あのおしゃれな感じ。神様からのプレゼントかも。取らないと」
そう言った次の瞬間に思いっきり高くジャンプした。でも、普通の大人でも届かない高さにジャンプで届くとは思えない。
なら、今のスバルは普通じゃないんだろう。
スバルの背中で何かが動いてさらに高く飛ばしてくれた。それによって袋をGET出来てしまった。
着地する時も背中の何かが勢いを緩めてくれた。そのおかげでそっと降りることができた。
「えっ?マジでどうなってるの?えっ?確認しないと」
なんか使命感みたいなのにスバルは取り憑かれた。だから、袋をバッと開けて中身をポイポイと投げて取り出す。
中から出てきたのは説明書、何かの石、お金の入った小さな袋、服、水筒、そして手鏡だ。
鏡を見つけたスバルはそれを何故かパッと伏せて見えないようにしてしまった。すぐに見ればいいのに何で見ないのだろうか。
いや、どんな姿になってるか分からないから緊張したのだろう。だから、本能的に伏せて見えなくしてしまったのだ。
「いや、確認してもしも予想が外れてたら怖いじゃん。でも、声と手と背中の感覚で予想できるんだよね。あとはどれが当たってるかって話」
そう言った時のスバルの手は震えていた。
見たいのに見たくないという気持ちになるくらいには緊張している。
でも、見ないことには先に進まない。
だから、深呼吸して落ち着かせてから覚悟が鈍らないうちにバッと鏡を自分に向けた。
「わぁ…すごい…」
そこに映った姿にスバルはため息のような声を漏らしてしまった。
何故ならそこには元の自分よりも可愛らしい女の子が映っていたからだ。
髪は優しい夕日のようなオレンジ色。瞳は広い大海のような青色。肌は汚れ一つない白っぽい色。顔立ちはよく分からなかった。
他は手鏡だと見づらい。だから、離れたところにわざわざ置いて小さく映る自分を見た。それ見て初めて自分が何も着てないことに気づいた。
「あぁ…だから服が入ってたのかぁ…」
少々焦った。ついでに恥ずかしくなった。
だから、急いでワンピースのような服を着て下着も身につけた。
これでマシになったので、しばらく落ち着くのを待ってから鏡を再度見た。
全体的には幼女って印象だ。背中には不釣り合いなくらいに大きな鳥の翼のような物が生えている。それ以外は人間に見える。
「見た目はいいね。問題は性別がどうなってるかってこと」
さっき下着を身につけた時にある程度予想できた。
でも、確認しなければ予想を確定に変えられない。
なので、自分の体だから恥ずかしく無いだろと念じながら下着の中を覗いた。
あぁ、外から見たらなんて滑稽な姿をしてるのだろう。
そう思ってる間に鼻で笑いながら確認を終えた。真顔になったスバルは下着をパチンと鳴らしながら元の位置に戻した。
そして、すぐにうずくまって絶望する。
「前より酷くなってるじゃん!神様に任せたけど!でも!何も無いのは無しでしょ!見た目も声も完璧なのに何で無性の天使にするかなぁ!」
ガチめにへこんでしばらく立てなかった。
だって、前はかっこいい系の女装男子だったんだよ?なのに今度は理想の幼女の姿をした無性天使なんて、あっちゃいけないでしょうが!
考えれば考えるほど傷は深くなって悲しむ時間が長くなる。
でもさ。誰でも100点満点かと思ってたら99点だったらこうなるでしょ。へこまないと言うならそれはサッパリしてる人なんだろう。スバルはそこまで出来ないんだよ。
だから、10分間もうずくまって軽く泣いた。
まぁ、これだけの時間があれば多少の諦めはつくだろう。
スバルも諦めきれたから目を赤くしながら立ち上がった。
そして、何も言わずに最初に自分が居た辺りを見た。
そこには卵の殻のような物が落ちていた。おそらくその中から天使として産まれたのだろう。
だとすると、親が絡んでくる可能性は低い。孤独な天使としてNEWライフを送れそうだ。
「あっ、そういえばあれを見てみよ」
思い出したスバルはポイポイと投げてしまった物の中から説明書を拾い上げた。
それを開くと最初のページに挟んであった手紙が落ちた。それをよく見ると差出人があの神様になっていた。
なので、説明書を一旦置いて手紙を手に取った。封筒の感じは地球の物とほとんど変わらないように見えた。
その封を開けて中身を取り出して見てみる。すると、そこには見たことのない文字が並んでいた。
「はっ?読めるわけないじゃん」
そう言いながら手紙を睨んでいると、急にその内容が理解できるようになった。
もしかしたらこれは神様が魂に何かをした影響なのかもしれない。でも、読めるならそれでいいだろう。
分かるようになった文面をよく見る。そこには「くじ引きに任せたらそうなちゃった。テヘッ」みたいなことが書かれていた。
「いや!本当にくじ引きにしたんかい!しかも謝る気ないんかい!」
そうツッコミながら手紙を地面に叩きつけた。
ちょっと怒ってしまったので肩で息をする。そうしていると、急に手紙が光り出した。かと思えば手紙がバラバラと光の粒になって消えてしまった。
それを見ていたスバルは神様だから下手に物を残さないんじゃないかと思った。
「神様は気まぐれって聞くもんね。仕方ないから許すか」
口では許した。だから、それ以上は考えずに再び説明書を手に取った。
それは重厚な本のような印象で、1日で読み終えられるとはとてもではないが思えなかった。
スバルは正直本を読める方じゃない。でも、この世界で生きるなら読むべきだと本能が訴えてきた。なので、ため息をついてからパラパラと数ページを読んだ。
5ページくらい進んだところで魔法陣のような物に触れてしまった。それは触れられた瞬間に弱くピカッと光った。
「何だろ?」
スバルがそう呟いた次の瞬間に説明書が強く光って手から離れた。宙に静止した説明書は向きを調整してページがスバルに見えるようになった。
それからすぐに説明書がパラパラとページを勝手に進めた。それと同時に内容が魔力か何かを帯びた文字になって頭に直接入ってきた。
最初は驚いて抵抗しようとしたが、手を振っても触れられなかったのですぐに諦めた。じっとしていると分厚い説明書の全ての内容が勝手に刷り込まれていく。
まるで最初から知ってたかのように。当たり前の知識のようにスバルの頭に書き込まれていった。
それは1分ほどで終わった。仕事を終えた説明書は勝手に閉じて手紙と同じように消えた。
「マジで異世界じゃん」
初めて異世界をその身で完体験したスバルは目を輝かせている。
驚いたがこんな経験は日本じゃ絶対に出来ない。だから、初めてここに来てよかったと思った。
「さて、次は石だね。説明書でこれも不思議アイテムだって知ったから、確かめて遊んでみないと」
そう言いながら何かの石を拾った。それを手の中でコロコロ転がして遊んだ。それだけじゃ何も起きないのは説明書で知っているが、好奇心でついついやってしまった。
それからひとしきり遊んだところで石に魔力を込めてみた。そのやり方は知識でしか知らないが、本能がやり方を実践させた。
体内のエネルギーを練って放出するイメージ。それだけで石に魔力が注がれた。魔力が必要量に達すると石からゲームのステータス画面のようなものが出現した。
「やっぱり便利。自分の情報を目で確認できるなんて最高!」
その目に映るのは人間の頃を完全に捨てた内容だった。
名前は空欄で、その他も抜けだらけだった。今は種族と年齢と称号とスキルくらいしか埋まってない。
「うーん。まだ人生(?)は始まったばかりだからね。これから埋めればいいね」
そう言うとろくに細かいところを確認せずにステータスデータを閉じてしまった。
それを映し出していた石は他の物と一緒に袋に入れられた。その袋を大事そうに持って幼女天使は新しい人生の第一歩を踏み出す。
「さぁ!異世界を冒険するぞ!先のことなんて後で決まるよ!それまで冒険だ!」
適当なこいつは先を考えずに歩きだしてしまった。自分がどうやって戦うかも考えずに。
その様子を見守っていた神様は先が思いやれると思った。
でも、心配が絶えない子ほど成長が楽しみになるものだ。だから、これからも見守り続ける。