第18話 成長したらまた強敵
誰にも聞かれなかったら言ってないが、あの戦いの前にビスカは新しいスキルを獲得していた。
それは『魔力鎧』というスキルで、魔力による頑丈な守りを作れるものだ。
これにエンチャントして剣をつくっていたのだ。
このスキルは魔王マリスに会った日に勝手に覚えたらしい。おそらくは生存戦略の一つだろう。
今回の戦いでもスキルや魔法を獲得した。ついでにマキナもかなり増えたらしい。
それをこの部屋で試す。
「マキナ、一緒に新しいスキルを確認しよう」
「イイデスケド、部屋ガ無事ナ保証ハ出来マセンヨ?」
「別にいいよ。もしもの時は立て直すし」
それならと、マキナは新しいスキルをここで使ってみることにした。
マキナが新しく得たのは『人形創造劇』『自在人形劇』『人形操作糸』『魔法人形舞台』の4つだ。
どれも強力で、あの戦争時には得るのが困難だったスキルと魔法だ。
その1つである人形創造劇を試してみる。
そのためにマキナは、背中の羽根のようなもので石を取りに行った。
12本の手に変形させて多めに石をテーブルに集める。
その作業中にビスカが話しかける。
「何しようとしてるの?」
「コレデ人形ヲ作リマス」
「そういうスキルなの?」
「見レバ分カリマス」
話してる間に十分な量の石が集まった。
マキナは素早く動く手を羽根に戻して定位置に移動させた。
それがチャキッと音をさせて止まった所でスキルを発動する。
「今ハ完璧ジャナクテイイ。最初カラ完璧ナンテアリ得ナイノデスカラ」
そう言いながらたくさんの石を細かくして組み直す。
それを30秒間も続けて完成させた。
石で出来た人形は命が無いだけでドール達とほぼ同じ姿をしている。
テーブルの上に座らされた人形は主人の命令を待つ。
その綺麗な人形に命令を与える前にマキナは友達に自慢する。
「サァ、コレガ新シク得タ能力デス。実二素晴ラシイデショウ?」
「確かにすごい。これって動かせないの?」
「出来マスヨ。新シク操作能力ト糸ト属性付与ヲ手二入レマシタカラ」
そう言うとマキナは人形操作後を付けてから自在人形劇で細かい動きまで完全操作して見せた。
それこそまるで人形劇だ。
人形による人形劇。笑っちゃ悪いが滑稽だ。
だが、糸なしでも完全に操れるなら笑えない。
それこそ大軍を自分で用意できてしまうということだ。
「ねぇ、それってたくさん出来るの?」
「材料サエ確保デキレバ作レマス。ソレニ属性ヲ付与デキルノデ、強力ナ軍勢ヲ作レルデショウ。何カ不満デモ?」
「いや、なんか急に強くなったなと思ってさ。もしかしたら私よりかなり強くなったんじゃとな思っちゃうんだよね」
「ソンナコトハ無イデショウ。ビスカ、アナタモ新シイ能力ヲ得テイルノデショウカラ」
「そうかな…」
ビスカは自分のステータス画面を覗きながら不満そうな顔を続ける。
それを見てから急に不満げになった。
そこに追加されたスキルをビスカも試してみる。
そのスキル名は『魔力操作』だ。
「元々出来てたことがスキルになっただけなんだよね。これを使ったことで増えた『重力操作』と『魔力弾』もエンチャントで出来たし、こんなんで強くなったと思えないんだよね」
膨大な魔力を縄のようにして自分の周りを回しておきながら贅沢なことを言っている。
このスキル自体は確かに強くない。しかし、エンチャントが得意なビスカには強力な武器になる。
重力操作も周囲の物を浮かせて落とせるのだから協力だ。
魔力弾もエンチャントでマシンガン並みに連射できる。
今までに無かった力を手に入れておきながらこんなことを言うのでマキナはため息をついた。
それから説明してくれた。
「ドノ能力モ強力デスネ。付与シテ動キ回ル盾ニシタリ、強化シタ物ヲ落トシタリ、貫通力ノアル弾ヲ連射シタリデキマス。アナタハドンナ能力ヲ得テモ強力ニ出来ルンデス。贅沢ハ言ワナイデクダサイ」
敵だった奴に叱られてビスカは思い直した。
確かにどれも強力だ。でも、敵を一瞬で消した魔王と比べると劣って見えるようになったのだ。
だから、贅沢にも強くないと言ってしまったのだ。
それを改める。比べる相手が悪すぎた。
「そうだね。確かに贅沢なことを言ったね。ほんと、あの魔王の力を見てからこうなんだよね…」
「魔王ハ大抵ガ理不尽デス。ソレダケノチカラヲ持ッテ魔王ト呼ブノデス。魔王ヲ目指スナラソノ域ニ達シナケレバイケマセン。分カリマスネ?」
「うっ…分かったよ。私も目標目指して今ある力を伸ばすよ」
「ソウシマショウ。デハ、私ハココデノ初仕事ニ行ッテ来マス。能力ヲ試スナラ実践ガ一番デスカラ」
そう言うとマキナは窓から出て行ってしまった。
石で出来た人形も仕事に使うために連れて行った。
残されたビスカは一度落ち着いて考えるために紅茶を淹れに行くことにした。
一階に降りてキッチンに向かう。
その途中で森の方から魔王級の魔力を感知した。
いや、本来なら感知系を持ってなければ分からないことだ。それがわかったということは、魔王級でもマキナやルーチェ以上は確定した。
マキナもあの戦争で感知できたが、あれは彼女の方から教えてくれたから分かったのだ。
その気がないのに分かるのはとんでもない実力者だ。
「こんな近くに魔王…?妖精、それともエルフ?まさか、極小確率が現実に…?」
ビスカは冷静に分析する。
この街が属している森は大陸の中央から南部まで広がっている。
そのため昔から妖精、エルフ、魔獣が暮らしていたのだ。
クロム達はそこに侵入して混ざった悪人に当たる。その件は妖精を守ったのでどうにかなるだろう。
だから、人間と天使とドールもここに住む種族に含まれる。
その中で魔王が居ないのはドールと魔獣だ。ドールはマキナが一番魔王に高いから有り得ない。
だとすると、急に覚醒したのは魔獣ということになる。
そんなことを考えていると、ズンッと重い感覚が来てから神様の声が聞こえた。
《魔獣のラビアラを魔王にすることを承認します。魔獣初の魔王に加護を与えます。これで完成です。魔王ラビアラに祝福あれ》
その短い言葉を残して神は去った。
それによって重圧が消えた。でも、魔王への承認というのが引っかかった。
それに頭を使おうとした瞬間、外でこのことが騒ぎになった。
うるさくて集中できないので魔力操作の応用で今使えるようになった『念話』を使った。
それでケイトを呼びつけた。
彼は家に入ってくるとまっすぐにビスカの部屋に入ってきた。
挨拶もせずに2人は今の件について会話を始める。
「ケイト、今のは何なの?」
「聞いたとおりだ。この【ティーア大森林】に住む魔獣から魔王が誕生したんだ。おかげでみんな焦ってんだよ。この森に3人目の魔王が誕生しちまったんだから!」
「確か魔獣の9割がこの森に居るんだよね。だとすると、逃げ場は無いね。神様ったらマキナを認めずにそっちを認めるなんて…!」
2人とも互いが考える状況を共有して焦りが強くなった。
もしも、その魔王に知性があるならまずい状況になることが予想できるから。
マキナ以上の脅威なら今戦って勝てるわけが無い。疲れてる上にあれでもギリギリだったから。
「ケイト!私は明日まで戦えないから!もしもの時はマキナを頼って!」
「分かった!もしもを想定するならリーダーにも声をかけよう!どうせ回復してるだろうからな!」
「説得に必要なら呼んで。話の出来る相手ならその方がいいから」
「そうならないことを願うよ。じゃ、今からみんなに方針を伝えてくる」
彼はビスカの考えてる細かいところまで汲み取ってくれた。
だから、疲れ過ぎているビスカに無理をさせずに代理として動いてくれた。
今は安心できそうなので、ビスカはベッドに横になって回復を待つことにした。
デジャブが怒らないことを願いながら眠りについた。




