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第17話 先の話をしよう

 あの戦争から戻ったらすぐにみんなが出迎えてくれた。

 街の連中は外で戦って戻ってくるとは思ってなかったらしい。

 ただし、ビスカだけは別格なので絶対に戻ってくると思って、誰も心配なんてなかったらしい。

 今回は倒れるくらいの無茶もなかったなので、みんなホッとしてくれた。


 ここに連れてこられたマキナ自身はどう思ってるか分からない。

 だが、みんなからの第一印象はかなり良いようだ。

 先にビスカがみんなを救っていたというのが魔族であるマキナの評価に影響を与えたらしい。


 そのマキナとケイト、クロム、この3人を家に招いて今後について話すことにした。

 家に入るとすぐにマキナが言う。


「ビスカ、先ニ2人デ話シタイデス。ヨロシイデスカ?」


「別にいいよ。ケイト、リーダー、上に行っといて」


「あいよ。ごゆっくりな」


 ケイトはリーダーを連れて上に上がって行った。

 その足音がちゃんと小さくなったのを確認してマキナは話し始める。


「何故、私ヲ助ケタノデスカ?」


 その目は戦場の時と違って真剣だ。

 この目にはビスカも真剣に話さないといけないと思う。


「あれだけのことが出来るやつをさ。死刑にするのがもったいと思ったんだよ。それに、こんなにも綺麗なやつを死なせるなんて、なんか嫌でしょ?だから、助けたの」


 マキナは生まれて初めて『綺麗』と言われた。

 それが嬉しくて泣きそうになった。それを堪えた尋ねる。


「デハ、魔族ノ規則ニハ詳シイノデスカ?」


「いや、全然」


「エッ?デハ、魔王ニ乗セラレタンデスカ?」


「そうだけど、ちょっと違う。ルールは必要そうな所だけど記憶してるんだよ。それを使ってあんたをもらったの。『身柄を得る』ってことは好きにしていいんでしょ?逃してやっても、働かせてやっても、私の友達にしてもさ」


 2人の空間が不思議な空気に包まれた。

 マキナは初めて普通を手に入れられる気がしている。それはビスカも同じだ。

 この世界で同じ種族の友達が2人とも居ない。

 だから、ここで友達になれば互いが初めての友達になるわけだ。

 それをビスカは望んでいる。だから、握手を求めながら言う。


「あそこでいい戦いをしたんだ。もう友達と思ってもいいんじゃない?だから、そっちがいいと思うなら握ってほしい。そしたら、友達だよ!」


 爽やかな笑みから出た言葉は涙が出ないはずの人形の目から雫を落とした。

 それがどんな物から出来てるとしても、涙であるという事実は変わらない。

 機械人形は生まれて初めのことが重なりすぎて困惑した。

 でも、頭働いている。だから、そのまま手だけを飛ばして握手した。


「戦争ヲ始メタ愚カ者デスガ、ヨロシクオ願イシマス」


「よろしくね。そっちも魔王を目指すつもりなら頑張ろうね!」


 そこまではいい雰囲気だった。

 それがすぐに壊れた。


「エッ?『も』ッテ言イマシタ?モシカシナクテモ、アナタモ魔王ニ?」


「そうだよ。私も魔王を目指してる。この世界で平和に生きるならそれくらいの力が必要だろうからね。そうじゃなくても魔王はかっこいいから目指す価値があるんだよ!」


 握手をやめたビスカはガンガン近づいていく。

 マキナは地下が過ぎることと、変に熱いところに困ってしまった。

 でも、2人の肉体が光ったことで熱は一気に冷めた。

 どうやらこの世界のルールで、親友レベルまで仲良くなると魂に刻まれるらしい。


 つまり、これはあの時のマーチと似た状態になったということだ。

 この場合は対等な仲なので、神様が認める友達同士ということになるらしい。


「不思議だね。この世界は何かある(たび)に魂に刻むんだから。私は変だと思うな」


「私モ変ダト思ッタコトガアリマス。デスガ、私ハコレガ普通ダト思ウヨウニナッタノデ何モ感ジマセン」


「そっか。じゃ、今は難しく考えずに先に進もう。上で話し合うよ!」


「ソウデスネ。ソウシマショウ。役割ガアルナラコナシマス」


「それじゃあ、色々任せるね!」


 そんな楽しそうな会話をしながら2人は上に上がって行った。




 ---------------




 ビスカの部屋に入ると、ケイトとリーダーが話し合いの準備を終えていた。

 テーブルの上には、少し前にリーダーの所に集まった街の意見や、不満を書いた紙が雑に置かれている。

 それを囲むように4人がイスに座る。

 いや、マキナは座れそうに無いので1人だけ立ってもらうことになった。


「それじゃ、私が議長を務めるから今後について話そう。もちろんマキナも仲間として扱うよ」


 マキナの扱いについてこの街のリーダーとビスカの補佐役は何の文句もない。

 だから、声を合わせて言う。


「「異議なし」」


 これでこの街の上にいる連中が味方になった。

 だから、戦闘中から考えていたことを提案する。


「では、森の一部を開拓して道にしたいんだけど、文句ある奴はバンバン言って」


 この提案に真っ先に反応したのはマキナだ。

 だから、リーダーとケイトは意外だという顔をする。

 それを無視してハキハキと話す。あの戦闘が無かったかのようだ。


「ソレハドコト繋ゲルツモリナノデスカ?」


「まずは妖精国だよ。その後は話がつけられてからにする。あそこは今後付き合うことになる予感がするからやっておいた方がいいと思うんだよ」


「何故ソンナコトヲシヨウト?」


「ここの加護は弱りつつある。それは住んでみたら私でも分かった。だから、私かマキナのどっちかが魔王になったら神様の代わりにしようと考えてるの。それまでに出来るだけここを大きくしたいし、周りに文句を言わせたくないの」


「ツマリ、道ハタダノ足掛カリデアッテ目的デハナイ。本命ハソレヲ利用シタ他国トノ交流デスネ」


「そういうこと!ここが大陸の南部から中央までの森にあることは知ってる。その森が邪魔になってるみたいだから、妖精や魔獣に迷惑をかけすぎないように開拓するんだ。それで評価を稼ぐ。そして、いつかは独立から脱して国にしたい」


 この壮大過ぎる計画はマキナにはイメージできたらしい。

 だから、にこやかに「イイデスネ」と言っている。

 でも、こんなことを考えて来なかった人間達は戸惑ってしまっている。

 それを察してビスカは2人と話すことにした。


「リーダー、ケイト、この街の人間に聞きたい。ここは魔王の下につきたくないの?その魔王が私でも?」


「そういうわけじゃねえ!俺達はな。王様や魔王様について行けなくなって逃げた連中の集まりだ。だからな。気に入った魔王の下なら喜んでつくだろうよ。でも、問題は…」


 チラッとリーダーの方を見る。


「わしのことなど気にするな。元勇者だから魔王と仲良く出来ても、下につくのは抵抗がありすぎるだけじゃ。じゃから、友人としてなら守られてやる。それならビスカも問題なかろう!」


「うん。問題ないよ。でも、勇者ってそんなに特別なの?」


 何言ってんだこいつって顔だ3人がビスカを見た。

 どうやらこの世界では常識らしい。神様はたしか教えてくれなかった。

 神様が忘れてたのか、教えたくなかったのか、あるいは嫌でも知ることになるのか。

 これはおそらく3番目だろう。

 そう思ってるビスカにパパッと用意してクロムのステータスを見せてくれた。


 そこにはあり得ない戦闘能力が、あり得ない量のスキルと一緒に並べられている。

 てか、一画面に入らなくてスマホみたいにページが増えている。しかも、スマホみたいにスワイプ出来る仕様になっている。

 それで見ると勇者は色々と盛ることで魔王と対等に渡り合えるようだ。

 つまり、勇者はそれに耐えられるだけの肉体と加護を持った特別な存在ということか。

 その上、魔王とは真逆の存在だから制約で下につけないらしい。


「なるほど…これは確かに特別だわ…スキルだけ見ても戦ったら負けそう」


「そうあるべくわしら勇者は必ず『学習略奪者(スキルイーター)』のスキルを得るのじゃ。これのおかげで人間なのに手数で相手を圧倒できるというわけじゃ。わしも若い頃は魔王のスキルを奪ったりしたな。今では出来そうにないが」


 わっはっはッ!と元勇者は笑ってみせた。

 いや、笑い事じゃないから。

 魔王を目指す者にとって勇者が天敵になり続ける理由が強すぎる。

 とりあえず、今は勇者が影響を出さないので無視して進める。


「いつかは障害になるかも知れないけど、今は問題無さそうだね。それじゃあ、あの件の償いをマキナにさせないといけないから道の工事をやってくれる?」


「分カリマシタ。友達二ナッタコトデ手二入ッタ能力ヲ試シナガラ働キマショウ」


「よろしく。他にもやらないといけないこともあるけど、その他は小さいお願いとかだから私がやっとくよ。魔獣を減らして欲しいとかね」


「2人ともよろしくな。僕も出来ることは手伝うよ」


「それじゃ、わしも何かするかな。では、解散ってことで」


 リーダーが勝手に今回の話し合いを終わらせた。

 それからすぐにそれぞれのやることを終わらせるために部屋を出て行く。

 ビスカとマキナはそこに残って自分のスキル等を確認する。

 今後の仕事に使えそうな物が増えてないか確認しているのだ。

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