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第16話 転生天使VS機械人形 決着

 ビスカは戦闘を再開する前に過去のことを思い出した。

 まだ日本にいた頃にアニメ好きな親友とした会話に気になることがある。


『ねぇ、エンチャントってそういうアニメにあるじゃん?あれって結局強化するだけなの?』


『アニメにおけるエンチャントはそうだよ。でも、私は弱体化も出来ると思うんだよね』


『どうして?』


『エンチャントの意味が魔法をかけるってことだから。なら、理論上は相手にかけるエンチャントに弱体化を使えると思うの!』


『弱体化付与的な感じ?』


『そうそう!でも、それを出来ると確実に勝てちゃうからね。そんなのつまらないからみんな使わないんだと思うんだけどさ。出来たらそれってかっこよくない?』


 それを今からやるのだ。

 だから、ビスカは他の世界が許さなかったことに、禁忌に触れることに緊張した。

 でも、強がって見せる。だって、親友はそれが出来たらかっこいいと言ったから!




 戦場の中央付近で強者同士が笑みを浮かべながら睨み合う。

 お互いにこれ以上のことは出来そうにない。

 特にビスカはこれからやることでほとんどの力を使い切ることになる。

 だから、これが最大の賭けで最後のチャンスだ。

 それを手に仕込みながら剣を相手に向ける。


「こっちはもう限界だよ!だから、次からのやり合いで終わらせる!」


「コチラモ限界デス。体力ハ有ッテモ魔力ガ残リ少シデス。流石ニ、10万ノ支配ヲ維持シテイタラ戦イヅライデスネ。デモ、コレハ使エマス。自在ナ武器デ踊レ!」


 次の瞬間にビスカは一瞬で振り返りながらマキナの背後に回った。

 話が終わる瞬間に相手が動ける可能性は低い。その隙を狙って賭けを実行したのだ。

 これで相手に仕込んだ物をぶつけられた。後は相手の反応次第だ。


「ン?何ヲシタノデス…」


 ガクンッ!


「カァァァァ!」


 いい反応が出た。

 マキナは急に体が重くなって落ちかけた。

 そのせいで変な声を出してしまった。

 でも、その恥ずかしさ以上に困惑して、ビスカに疑いの目を向ける。


「勝つためなら賭けでもやるんでしょ?戦場でやったことのないことを試したのはお互い様だよ。愚か者同士、最後は全力でやろ」


 その言葉にフェアな要素は含まれていない。

 デバフの付与に成功したビスカに勝利の天秤(てんびん)は完全に傾いている。

 こうなればマキナ側は上のアレでどうにかするしかない。

 アレが通用しなければ勝ち目はもう来ない。諦めるしかないのだ。


 マキナは現在複数のデバフを与えられている。

 重量増加、鈍足、攻撃力低下、鈍化の4つを付与されてしまった。

 負けたくないマキナはこれらがあっても何の問題もない攻撃を発動する。

 金属の塊を動かずに操作してたくさんの武器を生み出した。


「負ケルト分カッテカラノ戦闘ハ辛イモノガアリマスネ。ソレデモ意地デ最後マデ戦イマス!」


「いいね!諦めが悪いのって私は嫌いじゃないよ!でもね。もう終わってるんだよ」


 そう言ったビスカは瞬天で全ての武器を切りつけた。

 1秒で動きを止めたビスカは全部に傷があることを確認してから指を鳴らす。


 その瞬間、全ての武器が爆発して粉々になった。

 しかも、魔力妨害を付与したからもう操れない。

 どんなに念を送っても動かない残骸を見てマキナは絶望する。


「ア…アァ…アァァァァァァァァァ!?」


 余裕がゼロになったマキナは叫び声を上げた。

 普通の敗北よりもあっさりと負けたこと。普通と違ってダメージがないこと。

 これらのせいで絶望から叫び声になったのだ。

 普通を求めた者に天使は残酷な仕打ちで勝利した。


「やっぱり相手がこれだとつまらないね。親友、君の言う通りだ…」


 かわいそうな敗者を見ながらそう呟いた。

 もう会うことのない親友がここに居たならきっと嬉しそうに話しただろう。

 その親友はここに居るわけがない。ビスカは勝手にむなしい気持ちになった。


「ビスカ、私ヲコノママ捕ラエナサイ…マダ戦エマスガ…モウ気持チガ折レマシタ…」


「だろうね。それじゃあ、捕まえるよ。その前に勝利宣言をさせてもらうけど」


「オ好キニドウゾ」


 完全にテンションが落ちきったマキナは地上を落ちていった。

 彼女の着地から目を離さずにビスカはさらに上空に上がる。

 100mほど上がって、マキナが動かないのを確認してからビスカは仲間達に大きな声で伝える。


「全員聞け!ドールは敗れた!私達の勝利だぁ!」


 その宣言から間を置いて人間と妖精が大きな歓声を上げた。

 それとは対極的に状況が理解できていないドール達は静かにその状況を見守る。




    ---------------




 しばらくして、その様子を見下ろしてるビスカの所に魔王がやってきた。

 彼女は優しく微笑む。


「勝利おめでとうございます」


「そっちこそ。戦争の勝利おめでとうございます。終戦記念に何かするんですか?」


「ドール達の処遇が決まってからですね」


 やはりマキナの身柄はあちらが捕らえるらしい。

 でも、ビスカは納得がいかなかった。

 魔王には申し訳ないが、マキナのことをもったいないと思ってしまったのだ。

 そう思ってることを隠さずに魔王に尋ねる。


「ドール達はこれからどうなるんですか?」


「魔族のルールに従って裁かれます。ですが、おそらく裁かれることになるのはテクノドールだけでしょう。他はどうやら操られていたようですから」


「なるほど。なら、口を挟ませてもらいます」


 そう言った途端に魔王ルーチェはそれにふさわしい不気味なオーラを放った。

 それを感じ取った全員が魔王ルーチェに目線を向けた。

 ビリビリと来る空気に耐えながらビスカは彼女の言葉を待つ。


「どうしてそのようなことをするのですか?大罪人ですよ。あなたの仲間だった傷付けられています。その張本人を許せるのですか?」


「許す許さないじゃない。どうせ死刑になるんでしょ?私はそれがダメだと言いたいの」


「どういう事ですか?」


「死刑なんて罪人を逃すことに他ならない。そうするくらいなら生かして罪の重さを思い知らせるんだよ。物理的に苦しめるよりも精神的に追い詰めた方が罪人には辛い刑になるよ」


「………………………」


 魔王はその言葉をとても興味深いと思った。

 だから、黙考してビスカの意見をどうするかを考えた。


 しばらくして魔王ルーチェは何かを思いついて悪そうな笑顔になった。

 それをビスカに提案してみることにした。


「ビスカさん、あなたの考え方は非常に良いと思います。なので、戦争の功労者に与えられる権利の1つを使用するなら、本件はあなたに委ねましょう」


 そう言われてすぐにビスカは何を言ってるのか理解した。

 この世界に来てすぐに教えられた知識の中にある【魔族百法(まぞくひゃっぽう)】のことを言ってるのだ。

 第52法6条の『一番の戦績を残した者が上記の全てを放棄した場合に敗者の身柄を得る』というルールを使わせようといるのだろう。

 上記の全てとは、お金、人員、食べ物、様々な権利、称号の五つのことだ。

 これらを捨てることで、今回の場合はスタール・マキナだけを得られるということだ。


 他のドールはお(とが)めなしで解放されるだろう。

 なら、普通に考えて6つ目の権利だけを使用する価値などない。

 だが、それは上に立つ者の考え方だ。

 まだ魔王になっていない。なんなら、転生者であるビスカには自分の利益しか頭にない。

 だから、相手の思惑に乗ることにした。


「では魔王様、マキナのことは私にお任せください。褒美を全て返上して身柄を預からせていただきます」


 魔王ルーチェは厄介者を押しつけられることになって満面の笑みを浮かべる。

 それから思ってもないことを口にする。


「そうですか。本当はこちらで罪人に処分をしなければいけないのに。本当に申し訳なく思います」


「いいんですよ。私が望んだことですから。てか、魔王様ってやっぱり頭がいいんですね」


 その発言に魔王はよく分からないという顔で返した。

 ビスカはそのことに関して何かを言おうとしてやめた。


 それよりも帰ることを優先した。

 だから、魔王様にペコリと頭を下げてマキナに声をかける。

 それから街の連中にも声をかけた。ついでに、目が合ったマーチにも挨拶した。

 その後、魔王城に寄って寝かされているリーダーを担いだ。

 こいつを運びながらみんなと合流して街を目指して歩いて行く。


 ビスカはもうここに来ることはないだろうと思った。

 しかし、この数日後に魔王ルーチェから手紙をもらってまた来ることになるが、今のビスカはそんなこと知るよしもない。

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