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第15話 転生天使VS機械人形 全開

 無茶をしてみることにしたマキナは初めての楽しい相手を一度しっかり見た。

 今のビスカからはやる気満々な殺気が出ている。

 しかも、じっと見てる一瞬の間に腕が壊れたテクノドール達を一掃してしまった。


 ガラガラと落ちてくる仲間達の残骸を見ながらマキナは思い出す。他のドールと違うせいで生きづらかった日々を。


『あなた達は殺人人形だ!』『戦闘にしか使えない金属人形め!』『人の社会に紛れ込めない落ちこぼれ!』『自分の飯くらい自分でどうにかしろ!』『働けよ!戦場でもいいから!』『血がよく似合う人形だな!こっちとは大違い!』


 人のように見えて魔力も漏れ出ない普通人形(ヒューマンドール)達は強いだけのマキナ達を下に見ていた。

 誰も助けない。助けてもらっても最後は戦場送り。()()に生きることを許さなかった。

 だから、マキナはこんなことをした。戦闘人形にとっての()()を生きるために。


 マキナは生きたかった世界を諦めたつもりでいた。

 でも、無理をしなかったり、擬態をしていたりと諦めきれていなかった。

 それに今気づけた。だから、無茶する決心が固まってる間にやることにした。

 付与天使ビスカに勝てないと魔王を倒せないことが想像できたから。

 だから、自分に『操り人形劇(パペットロード)』を使用する。


「ビスカ、ソノ程度ノ硬サデ通ジナイナラ負ケヲ認メマショウ。デモ、コレカラ使ウ一手ハソレヲ超エルデショウ。ソノ剣ヲ通セルモノナラ通シテミセナサイ!」


 指を指してマキナは挑戦を叩きつけた。

 それを受けたビスカは両手の剣を構えて準備が終わるのを待つ。

 これは愚かな行いだと誰もが思うだろう。特にビスカはここで襲えば勝てたかもしれない。

 でも、それではいけない気がしたのだ。お互いに何かを捨てる覚悟をしないといけないと思ってしまったのだ。

 だから、お互いに悔いのないように戦う。魔王に口を挟まれない限りはこのスタイルでやり合う。


 マキナもそれを理解している。

 でも、これまでの戦い方が普通だと思っていたから、冒険は避けてきた。

 普通を望んだから逸脱を許さなかった。それが今回足枷(あしかせ)になって自分を苦しめてしまった。

 だから、それを捨てることにした。


 普段は絶対に出てこない台本を頭の中から実体化させて、そこにこれからやりたいことをざっくり書き記した。

 すると、マキナは背中の残り少ないあの手を変形させて2本の剣に変えた。

 それを背後から前に移動させてガッチリ握る。それと同時にくらいに頭の輪も変形させてツノのように頭にくっつける。

 これで完成だ。台本はすぅと消えて頭の中に戻っている。


「私ガコノ能力デ出来ルノハ人形ノ支配デス。自分モ人形ナノニ試サナカッタ。感謝シマス。ビスカ、モシ私ガ勝ッタラ未来永劫アナタノコトヲ語リ継イデアゲマス」


「それは嬉しくないね。てか、今を見てない奴に訪れる未来なんて無いね!」


「同感デス!ナノデ訂正シマス!アナタヲ倒シテ語リ継ギマス!ソノタメニ、参リマス!」


 そう言ったマキナが最初に動いた。

 まるで瞬間移動のような速度でビスカの上を取るとそのまま剣を振り下ろした。

 それをビスカは鋼の肉体で受け止めようとした。

 その刃が肌に触れそうになったところで、脳裏に死が浮かんだ。


 ビスカは当たる寸前でどうにか瞬天で地上に逃げられた。

 そこで一度は命が助かったが、今度は雑魚人形達が覆い被さろうと襲ってきた。

 これもさっき命令していたようだ。雑魚狩りをしてたら一方にやられるかも知れない。この命令は最善手となった。

 だが、これによって全ての人形がビスカに向かった。なので、他は襲われない状態で手が空いてしまった。

 よって、元勇者クロムが人形の上を走ってここに来てしまった。


 人間とは思えない速度で走ってきた元勇者はそのままジャンプしてマキナに襲いかかった。

 その剣は確実にマキナを切れる位置と速度に至っている。

 これなら切れる!


「これで終わりじゃぁぁっ!」


 勢いは良かった。しかし、手足と胴体が離れているマキナには老いぼれの剣など届かない。

 胴体だけがサッと避けて元勇者に空振りをさせた。

 それから素早く両手で頭をぶっ叩いてやった。

 それを喰らったクロムは意識を失ってまっすぐ落ちていく。


 クロムはこのまま落ちれば1ヵ所に向かうドール達にもみくちゃにされてやられてしまう。

 そんな未来が来るギリギリでビスカがバーンと蹴散らしながら脱出してキャッチした。

 そのまま上空に上がってマキナと向き合う。

 彼を持ったまま戦うことも可能だが、彼を死なせてしまう可能性が高い。

 だから、持ち直してから魔王の方に向けて力一杯に投げた。

 それを見て思いをくみ取った魔王は受け取るとすぐに逃げた。


「邪魔が入ったようだけど、続けようか!」


「ソレガイイデショウ!」


 その次の瞬間には再開されて真っ向から2人の剣がぶつかった。

 火花を散らしながらぶつかる剣は互いに全く折れる気配が無い。

 だから、何度か下がってぶつかってを繰り返す。


 ガキンッ!ガキンッ!ガキキキンッ!


 魔力の剣と金属の剣なのにいい音をさせた。

 いい音がするだけじゃ決着はつかない。

 だから、ビスカの方が距離を取って斬撃を飛ばした。

 それは簡単に避けられた。しかも、せっかく取った距離がすぐに縮められてしまった。


 今度はマキナの番。手足を離して動かせる特徴を活かして様々な角度、距離、位置から攻める。

 上、下、右、後、左、と素早く相手の動きを封じながら連続攻撃を繰り出す。

 しかし、ビスカにその程度のスピードでダメージは与えられない。

 両手両足の剣で全ての攻撃を防ぎきった。

 それで攻撃が通らないと判断したマキナは手足を自分の元に戻した。


「ヤリマスネ!」


「そっちこそ!」


 次はお互いに距離を取って、そこから全速力で真っ向勝負に向かう。


 バゴーンッ!!!!!


 ぶつかった剣はとんでもない音を戦場に(とどろ)かせた。

 最大速度の最大パワーに達した2人の剣はギシギシに鳴らしながらぶつかり続ける。

 それでも折れないのでビスカは大きな翼を使って加速を行なう。

 すると、瞬間的なパワーの上昇でマキナは押し切られてしまった。


 カシャンッ!


 マキナの剣は両方とも切れた。

 それが地面に落ちて回収できない状況になった。

 こうなれば勝ちだとビスカは確信した。

 勢い余って通り過ぎてしまったビスカは振り返りながら言う。


「これで終わり!もうあんたに武器はない!」


「何ヲ言ッテルンデスカァ?マダ終ワリマセンヨ!」


 マキナは振り返らずに、手の残骸と折れた剣と仲間のテクノドール達の残骸を自分より高い所に集めた。

 それはまるで水のように溶けて1つにまとまる。

 その黒い金属の塊をこね回しながら振り返る。


「ココマデ台本通リデス。アナタナラ切ッテクレルト思イマシタヨ」


 そう言いながらニヤリと笑う。

 やられて初めて120%に達したようだ。

 全ての武器を一度失うことで新しい力が使えるようになるこの感じ、まるでビスカのエンチャントを強力にしたような力だ。


 さすがに、あんなことをしたビスカでも限界間近で勝てる気がしない。

 それでも考えがないわけじゃない。ただ、それが賭けになるからやりたくないだけだ。

 それを渋っている時、少し前にマキナが無茶をしたと言ってたのを思い出した。

 自分も相当な無茶をしてたと思っていたが、今回はそういえばやってなかった。

 だから、敵に気付かされたことに感謝しながら賭けてみることにした。奇跡ってやつに。

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