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第13話 決戦開始の時が来た!

 夜が明けた。

 この20分前に街の連中が到着してどうにか作戦を伝えられた。

 それでケイト率いる50人と妖精2000名を敵の後方に、クロム率いる50人と妖精3000名を最前線に、残りの天使1名と魔王含む妖精およそ5000名が上空から狙う戦略になった。


 夜が明けてからしばらくはケイト達の移動時間ができた。

 しかし、すぐに奴らが武器を持って動き始めた。

 それを見ながら元勇者クロムが呟く。


「この高揚感…久しぶりじゃ」


「リーダーはやっぱりこんな戦いを何度もしたの?」


「軍の出じゃからな。わしはこれ以上の戦争に何度も行ったことがある。じゃから、この程度は怖くもなんとも無いわ!」


「それじゃ、もう行ってくれる?ここ、森の一部だから壁も何も無いんで」


 本当に何の守りもない国をクロムは鼻で笑った。

 それから杖に擬態している勇者の剣を解放して最前線に向かった。

 その後を街の男達と武装した妖精達が追っていく。

 まだ残っている妖精魔王にビスカは尋ねる。彼女はスキルで敵の頭がどこにいるのか探ってくれているようだ。


「魔王様、どんな感じですか?」


「うーん。そうですねぇ。敵のトップはどうやら、すでにこちらの動きの変化に気づいているようです」


 やっぱりか。そう思ったビスカは早速飛んで対空戦の準備を行う。


「全員にエンチャントをします!全ステータスが上昇しますが、無理をすれば普通に負けるので慢心しないようにお願いします!」


 その言葉に妖精達はうるさいくらいに強く応えてくれた。

 そんないい反応されても困る。ビスカのスキルは強力だが、自分以外には多重で掛けることが出来ないデメリットがある。

 連続で掛けられれば強力な軍勢になったが、今回は仕方ないと諦めてこれで行くしかない。

 まぁ、魔王は別格なようだ。彼女にだけはエンチャントを3回連続で掛けることができた。これなら鬼に金棒だ。負ける気がしない。


「さて、そろそろ上から攻撃しましょうか」


「そうしましょう。では、行きますよ!妖精空中戦部隊、出撃!」


 その号令によって妖精達は一斉に戦線の上空に散らばった。

 そこから妖精達は得意な属性の魔法で一方的に攻撃する。移動しながらの攻撃なので遠距離武器を持ったドールでも応戦できない様子だ。

 それを見てビスカはニヤリと笑った。なぜかと言えば、敵の大将が魔力を放って居場所を伝え始めたからだ。

 来いってことだろう。罠だとしても行ってみる価値はある。

 それに、ビスカもあの街に住んだことで加護を受けている。多重加護で余計に死ねなくなっている。だから、負けても死ぬことはない。


「作戦は続行して!私はちょっと遊んできます!」


「どうぞ。魔王たる私もそろそろ出陣しますので」


 2人はお互いに一ヶ所を睨んでいる。

 そのことからビスカは早い者勝ちと思った。だから、瞬天で一気に敵大将の上空に移動した。


 そこには真っ黒な姿をした人形が立っていた。しかし、それはこの世界に似合わない異様な姿をしている。

 他のドール達は見た目だけなら人間に似ているのだ。関節が球体という違いはあるが、それを隠せば人にしか見えない。

 だが、こいつだけは関節さえない。それこそ手も足も浮いている。

 これが【多彩人形(テクノドール)】の由来の一端なのだろう。

 そいつはアンドロイドっぽい顔でこちらを見てきた。


「アナタハ魔王ノ援軍デスネ。天使ガ手ヲ貸ストハ思イマセンデシタ。イヤ、魔王ノ下ニ付イテイナイナラアリ得マシタネ」


 その声は完全に機械の音声だった。いや、そう聞こえるだけかもしれないが、他のドール以上に生きているとは思えなかった。

 まるで誰かが作ったアンドロイドが勝手に動いてかのようだ。こんなのを作った奴など居るはずがないのに。

 ビスカは息を呑んで警戒した。ここまで異様だとどう攻撃していいかも分からない。


「あんたは…生きてるのか…?」


「モチロンデス。私達ハドンナ姿形ヲシテイテモ生キテイマス。ソレヲ尋ネラレルノハ、コチラカラスレバ少シ腹が立チマス。デモ、アナタノ方ガ不思議デ不気味ナノデ許シマショウ」


 不思議で不気味?どういうこと?

 理解できなかったビスカはすぐに気づけなかった。でも、少し経てば可能性が浮かんだ。

 スキルか何かで覗かれたのだろう。それなら説明がつく。

 本当にそんなことが出来るなら勝てないかもしれない。手の内もバレてるなら対策くらい出来そうだから。

 ビスカが焦った顔を見せると、テクノドールは無機質な笑みを浮かべて見せた。


「気ヅキマシタネ。ソウデス。私ハ相手ノ情報ヲ覗ケマス。ソレガ『閲覧者(ノゾクモノ)』ノ力デス。統率モトレテ情報モ手ニ入レラレル。私ハ戦闘モ出来ルノデ、完璧デス。死角ナドアリマセンヨ」


「はんっ!それでも隙があればポンコツ決定ね!機械っぽいし実験相手にももってこい!本気で相手してやる!」


「ソレハ諸刃ノ剣デスカ?マタ、大キナ怪我ヲシテ心配サセマスカ?」


 こいつには何でも丸見えらしい。あの時のことは魔王じゃないこいつに知る手段が無いはずなのだ。

 誰かが教えたわけじゃなければ自分以外はあり得ない。こいつ自身が覗いて知ったのだろう。

 プライバシーもあったもんじゃない。そう思ったビスカは魔力にエンチャントした。

 それによって魔力は形を得て、剣として腕から生えるような形で装備させれた。それを試しに振ってから敵に向ける。


「これはシナリオにあった?無いなら想像通りか聞かせてよ」


「成長ノ可能性ハ台本通リデス。デスガ、ソノヨウナ可能性ノ検討ハアリマセン。トテモ面白イ子供ダ。コレナラ本気を出シテモ良イカモ知レマセン」


 楽しくなってきた様子のテクノドールは無機質にニヤニヤとしている。

 気味が悪い。でも、こういうのは結構好物だったりする。

 ビスカは日本にいた頃にこういうのが出るアニメや映画をよく見ていた。だから、戦うのが楽しみになってきた。生きたアンドロイドと戦える機会なんて日本じゃあり得ないから。

 テンションが上がってきたビスカはもう片方の腕にもエンチャントして剣を装備する。

 双剣を身につけたビスカは素振りをしてから見下ろし続ける。


「さっさとそんな姿をやめなよ。人に似た姿で浮いてるのはやりにくい」


 そう言われて初めてテクノドールは驚いた顔をした。

 それから人間の髪や肌や顔といった物の擬態を解除した。残ったのは金属のような物で出来た人形だ。

 頭には髪がない代わりに天使の輪に似た何かが浮いている。それ以外には、腕や脚と同じように背中に輪っかと12枚の羽のようなものが浮いている。

 本当に未来から来たような姿をしている。これが本性で間違いない。

 これを見破られたテクノドールは少しずつ笑い始める。最初は小さかった笑い声が段々と大きくなって、最後は「ギヒャハハハハ!」と奇妙な笑い声を上げた。

 その笑いが止まると嬉しそうにビスカに向けて言う。


「産マレテ初メテデスヨ!本当ノ姿ヲ見破ルナンテ!下手デシタカネ?私ノ擬態。他ノミンナニ近ヅケタンデスケド」


「いや、上手だったよ。私がちょっと特殊なだけだから。他の連中は事情を想像したりしないだろうから気付けないと思う」


「マスマス面白イデスネ!気ニ入リマシタ!魔王ノ前座ト思ッテイマシタガ、本気デ攻撃シマショウ!コレデ死ナナケレバ更ニ多クノ攻撃ヲシテアゲマス!」


 そう言ったテクノドールは背中の付属物を12本の手に変えた。それでビスカを殴ろうとしている。

 ビスカもここから先は戦闘開始だと気づいている。だから、この機会に名前を聞くことにした。


「あんた、名前は?私は野良の天使をしてるシエラ・ビスカって言うんだけど」


「私ハ多彩人形(テクノドール)、スタール・マキナ。魔王ヲ目指ス愚カナ機械人形デス」


 2人は互いにどちらかを倒すかも知れない相手の名前を覚えた。

 だから、周囲の妖精とドールを吹き飛ばす勢いで戦闘を開始した。

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