プロローグ 転生前の話
私は物語を書くということを魔法だと思っている。
作中に神様などが出ることがある。
あれって結局は世界を創造した作者より下の存在になる。
私を最上位の神とした場合、作中の神はどうして存在するのだろうか。
そういうテーマも含まれる。
私の描く世界をどうぞご堪能ください。文句は受け付けております。
日本のある場所でリア充を嫌う青年がいた。
彼の名前は梶原昴と言う。
19年間恋人がいたことの無い美青年だ。
「女装が出来てもモテないんだなぁ…」
彼が言った通りに女装が完璧な青年なのだ。逆に女性にしか見えないからモテないのだが、本人はそのせいだと思っていない。バカかな?
そのバカが親友の女性を連れて街に出た。毎年見に行ってるクリスマスツリーを一緒に見るためだ。
青年は親友と歩きながら話している。
「そりゃそうよ。そんな鋭い目をした奴なんて男も女も遠くから見るので精一杯よ」
「マジで?そんなに怖い?」
「怖いよ。あんた周りから“美人狼”って呼ばれてるんだからね」
「マジか〜。それ今初めて知ったからショックだわ〜」
「自分のことなのに逆に何で知らないのか不思議だわ」
「だって、この姿でそこらのヤンキーどもをぶっ倒したことしか身に覚えが無いからね」
「えっ…それ初知りなんだけど…てか、その華奢な見た目のどこにそんな力があるのよ…」
「普段から鍛えてる成果だね」
「………………」
そんな親友との会話を楽しみながら歩いていると、スバルの目に信号待ちのところで背中を押される女性の姿が見えた。
普通なら咄嗟に動くことはできない。たった10mの距離でも普通なら間に合うこともないのだ。
しかし、スバルは火事場の馬鹿力ってやつと助けたいって気持ちだけで動いた。
「待てコラァ!!!!!」
素早く走り出して人混みを掻き分けたスバルは、止まるのが間に合いそうにない車より先に女性に向かう。
親友はその姿を見守ることしかできない。
スバルはこの女性を助けたら自分がどうなるか予想できている。だから、最後くらいはかっこよくキメることにした。
「生きてっ!!!!」
そう言いながらスバルは倒れた女性の腕を掴んで引っ張った。すると、2人の体は場所を入れ替えて遠くに放り出された。
つまり、女性は人混みに戻されて、スバルはさらに轢かれやすい場所に倒れ込んだ。
さぁ、これで人生終了だ。本当に最悪な人生だった。
車に轢かれたスバルの体は3mくらい突き飛ばされた。倒れた時の状態が良くなかったせいで頭を強打されて即死している。
もう意識も命もないが、その亡骸の横で親友の葵は泣きながら叫んだ。
「スバルのバカァァァァ!カッコつけてんじゃないわよォォォォ!あんたに来世があんなら無茶するんじゃないわよぉぉぉ!」
その叫びも願いもスバルには届かなかった。しかし、別の存在には何かが響いたらしい。
だから、スバルとアオイにクリスマスプレゼントが送られる。葵は受け取る権利を得ただけだが、スバルは権利を行使しなければ完全に消滅してしまう。なので、何者かが勝手にそれを使った。
本来ならこの世界のあの世に行かなければならい。しかし、この何者かはそのルールを捻じ曲げて魂を移動させることが出来る。
何者かはその力を使って霊体となったスバルを呼び寄せたのだ。
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死んだスバルは長い時間が経った後に目を覚ました。
それからすぐに自分は車に轢かれたはずだと思い出した。
「ここはどこ?あの世?」
暗い闇が広がる空間は何も見えない。聞こえない。
自分の声は聞こえても、自分の姿も見えない。まるで自分の体が闇に溶けて、その闇から声が出てるようだ。
いや、本当にそうなのかもしれない。
「ははっ…ここが地獄でも天国でも無いのだけは分かる。何でこんな虚無に居るんだ…」
困惑しながら思考を口に出す。
それは誰にも聞かれないと思っていた。しかし、残念ながらその発言は神々しい存在に聞かれていた。
そいつが虚無の闇に突然パッと現れた。その神々しさで照らても闇は晴れなかった。それどころかスバルを消してしまいそうなくらいに強い光を放っているだけだ。
「あら、もっと混乱するかと思いました。少し驚きましたね」
その声の主はスバルが眩しそうにしている光そのものだ。
神々しい光はスバルに自分の姿が見えていないことに気づいて光を弱めた。
スバルは肉体がないから何もしてないが、神様らしきこいつには何かを感じ取れたらしい。手の動きとか。
スバルは光が弱くなってその姿を完全に見ることができた。
そいつはギリシャ神話に出てくるような胸の大きな女性の姿をしていた。顔立ちもまるでギリシャ神話の神様のようだ。
「ふふっ。どうやらなんとなくは私の正体を理解できたみたいですね。そうです。私はあなたから見れば異世界に当たる世界の神です」
そう言われてスバルは違和感を感じた。
今『異世界』って言わなかった?
「困らせてしまってごめんなさい。そんなに時間はかけられないけれど、今あなたが選べる未来について話しましょう」
神様は咳払いをして長い話をする覚悟を決めた。
「では最初に、あなたは勇敢にも人を救って亡くなりました。なので、あの世界で生き返ることはできません。魂もあの形に戻すことはできません。異世界の神様だからそこはどうにも出来ませんでした」
神様はまるで人のように表情を変えた。
その顔を見てスバルは神様も人なのかなとか考えた。
「他の者達が何もできなかったのに、あなただけが命を捨ててまで救ったのです。それは私の中でも高評価に値しました。ですから、私が救えなかった代わりに異世界ライフをプレゼントしようと思っているのです」
にこやかに言ってくれたが、スバルはちょっと理解できなかった。
でも、続きを聞けば理解できるかもしれない。多分。
「この申し出を受け入れていただければ、あなたは私の管理する世界で第二の生を送れます。そして、私の加護を与えることで、最初から2つの強力な力を授けますよ。不死でも絶対防御でも状態異常無効でも、何でも選んだものを授けます」
えぇ…神様だからってそこまでしていいのかな。職権濫用じゃん。
スバルは少し引いた。でも、神様はそれを理解できなかった。
「申し出を断るなら仕方ありません。元の世界に帰してあの世に行ってもらいます。どちらにしてもあの世界の現世からは離れることになります。なので、私はこの世界で生きることをオススメします。あっ!ちなみに、あなたは今霧みたいな状態なので選択までの猶予は5分しかありません。早く決めてくださいね!」
えっ?ふざけてるの。
スバルは少しキレそうになった。しかし、今のスバルには何も出来ない。
それに、転生する選択をするなら神様は恩人になるわけだ。恩人を傷つけるなんてあっちゃいけない。
スバルはほんの一瞬だけ迷って、すぐに選択を決めた。
他人に生きろと言ったのに自分がそのチャンスを捨てるなんてあっちゃいけない。だから、選択する方はこれしかない。
「神様。転生させてください」
その言葉が届いた神様は驚くことなく優しい笑みを浮かべた。そして、確認を行う。
「本当に良いのですか?異世界に行くということは来世に友達と再開する奇跡も望めないのですよ?それでもよく分からない世界に行くのですか?」
そんなことを言われてもスバルの気持ちは変わらなかった。
「構いません。生きれるだけで十分です。だから、神様からいただける物も種族も勝手に選んでください。でも、人型にはしてくださいよ?」
「ふふっ。分かりました。では、早速行きましょう。スキルや種族はくじ引きで選んでおきます」
「えっ?ちょい待ち…」
最後に聞き捨てならないことを言われたが、言葉を返しきる前に転生が始まって虚無空間から追い出されてしまった。
肉体がないはずのスバルが落ちていくように感じた。あそこから落とされたのだろうか。
なら、どこに居たんだろう。いや、もう気にしても無駄か。
スバルは諦めて運命をルーレットに委ねた。どんな姿のどんな性別のどんな種族になっても受け入れよう。
そう思えたスバルは新たな命を得るまで寝ることにした。今度目を開けたらNEWライフの始まりだ!