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12/22

12、会えない間2


 新学期開始まで約一週間となった頃。バイトが休みの日、俺はフットサル場にやってきた。

 裕也からの「あそぼーぜー」の誘いに乗ったのである。


 一緒に来たのは元のクラスが同じ、計男五人。

 このフットサル場には同じメンバーで何度か来たことがある。施設が主催した時間帯にやってくれば、集まっている数チームと総当たりで練習試合が出来るのだ。


 今日来ていたのは俺たち含め三チームだけ。他二つは大学生のチームだった。

 二つとも結構ガチめのチームで、俺たちはあっさり負けた。


「さすがに大学生には勝てん」

「そだな……」


 俺たち五人はたまに遊びでフットサルをやっているだけで、サッカー部はいない。

 ほんのわずかしか年は違わないはずなのに、やっぱり大学生の方が体格がよい。しかも容赦なかった。 



 大学生チーム同士がバチバチ試合している中、俺たちはのんびり荷物を片付けた。

 このフットサル場はビルの屋上に人工芝を張って作られており、フェンスとネットに囲まれている。天気は良いが、ビル風が肌寒い。


 皆で「さみいさみい」と言いながら汗を拭き、ジャージを着こんでいると、裕也のスマホがぴろんと鳴った。「おっ」と嬉しそうな声。そのまま画面をこちらに向ける。


「見ろ、彼女。今日遊園地行ってるんだって。かわいーだろー」


 四角い画面には、二つの丸い耳を頭に付けた女の子が写っていた。にこにこ笑顔。

 惚気た裕也は、俺含めた彼女ナシ四人に、頭を順繰り叩かれた。


「いてっ、いてっ! なんだよ、紫苑まで!」

「なんかすごいイラっとした」

「紫苑なんてまたどうせすぐ彼女出来るだろ!」

「いや、当分はいいかなって……」

「生意気!」


 今度は俺に矛先が向いて、彼女ナシ三人から叩かれた。


「紫苑、いつもだったら彼女と別れたってすぐ次の子作るじゃん」

「うーん」


 好きな子が出来ただなんて馬鹿正直に言ったら、それが誰か白状するまで締められそうだ。それっぽいことを言ってはぐらかすことにする。


「だってもうほら、受験生になったら忙しくて遊ぶ暇なくなりそうだし」

「あー、やなこと思い出したー」

「別に彼女がいたっていいじゃん。俺は彼女いる方が励みになるね」


 裕也のドヤ顔サムズアップ。また叩かれている。

 それから五人で写真を自撮りして、彼女にうきうき送信。きっと「かっこいいね」と返事が来るのを期待しているのだ。

 ハッピーに当てられて、俺は若干胸焼けしつつ、委員長のことを思い出した。


 委員長はどうしているだろう。部活に出たり、それとも友達と遊びに行ったりしているのだろうか。

 連絡先は知っているわけだからメッセージを送ってみればいいのかもしれないが、用事はない。勇気もない。



「腹減ったなー、なんか食べにいこーぜ」

「ラーメン行こう、ラーメン食いたい」


 フットサル場のビルを出たところで、裕也からラーメンコールが上がった。確かに、二試合やって腹が減った。


 ぶらぶらしながら見つけたラーメン屋に男五人で入った。

 普段はサラリーマンで混んでいるエリアなので店も並ぶのだろうが、もう昼時を過ぎている。待たずに入れた。


 店内はカウンター席とテーブル席。

 テーブル席は四人掛けだったので、椅子を一つ借りて、俺だけお誕生日席に座った。

 カウンターの上部の壁にはメニューがびっしり。夜は居酒屋になるようで、おつまみ系の種類も豊富だ。


 俺は一番安い醤油ラーメンを選んだ。

 金がなかったわけじゃない。委員長が、一番シンプルな醤油ラーメンが好きだと言ってたのを思い出したためだ。


 運ばれてきたのは、いたって普通の醤油ラーメンだった。

 つやつやの煮卵が橙色の断面をこちらに向け、その隣には照りのあるチャーシュー。瑞々しいネギが大きな海苔と一緒に添えられている。スープは淡めで、透明だ。

 空腹もあり、めちゃくちゃ美味しそうに見える。ごくりと喉を鳴らしてスマホで撮影してみた。


「おっ、写真撮るなんて珍しいじゃん」

「んー」


 そうだ、と思い立ち、撮った写真をそのままメッセージに貼り付け、委員長に送付した。

 「いただきます」して割り箸を割り、麺をスープの中でほぐす。ふーふーして一気に麺をすすれば、鼻から醤油の香りが抜けた。少し硬めの麺。でも口の中にはしっかりスープの味が残る。うん、美味い。


 半分も食べないうちに、スマホがぶぶぶと振動した。

 タップすると、委員長から返信。さすがラーメン。彼女を釣れた。予想通りで俺は大変嬉しく思います。


 まだ食べている途中だけど、箸を置いてメッセージを開く。気が急いていた。

 すると、メッセージに文章はなく、リンクのみ。若干怪しげに思いながらもリンクを踏む。


 飛んだのは写真投稿アプリで、それは委員長のアカウントだった。


 投稿写真はというと、すべて、ラーメン。

 様々な具材が乗った丸いどんぶりがこちらを向き、三枚ずつ並んだ写真が下に続く。

 すべて、ラーメンなのだ。


 引いた。

 スクロールするが終わりが見えない。

 その深淵に半ば狂気を感じていると、当のラーメン狂から追加メッセージ。



『そのお店、行ったことあるよ!(ラーメンの絵文字)』



 いやお前、こんだけあったらどのラーメンか分かんねえよ。

 心の中で、口汚く突っ込んだ。



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