12、会えない間2
新学期開始まで約一週間となった頃。バイトが休みの日、俺はフットサル場にやってきた。
裕也からの「あそぼーぜー」の誘いに乗ったのである。
一緒に来たのは元のクラスが同じ、計男五人。
このフットサル場には同じメンバーで何度か来たことがある。施設が主催した時間帯にやってくれば、集まっている数チームと総当たりで練習試合が出来るのだ。
今日来ていたのは俺たち含め三チームだけ。他二つは大学生のチームだった。
二つとも結構ガチめのチームで、俺たちはあっさり負けた。
「さすがに大学生には勝てん」
「そだな……」
俺たち五人はたまに遊びでフットサルをやっているだけで、サッカー部はいない。
ほんのわずかしか年は違わないはずなのに、やっぱり大学生の方が体格がよい。しかも容赦なかった。
大学生チーム同士がバチバチ試合している中、俺たちはのんびり荷物を片付けた。
このフットサル場はビルの屋上に人工芝を張って作られており、フェンスとネットに囲まれている。天気は良いが、ビル風が肌寒い。
皆で「さみいさみい」と言いながら汗を拭き、ジャージを着こんでいると、裕也のスマホがぴろんと鳴った。「おっ」と嬉しそうな声。そのまま画面をこちらに向ける。
「見ろ、彼女。今日遊園地行ってるんだって。かわいーだろー」
四角い画面には、二つの丸い耳を頭に付けた女の子が写っていた。にこにこ笑顔。
惚気た裕也は、俺含めた彼女ナシ四人に、頭を順繰り叩かれた。
「いてっ、いてっ! なんだよ、紫苑まで!」
「なんかすごいイラっとした」
「紫苑なんてまたどうせすぐ彼女出来るだろ!」
「いや、当分はいいかなって……」
「生意気!」
今度は俺に矛先が向いて、彼女ナシ三人から叩かれた。
「紫苑、いつもだったら彼女と別れたってすぐ次の子作るじゃん」
「うーん」
好きな子が出来ただなんて馬鹿正直に言ったら、それが誰か白状するまで締められそうだ。それっぽいことを言ってはぐらかすことにする。
「だってもうほら、受験生になったら忙しくて遊ぶ暇なくなりそうだし」
「あー、やなこと思い出したー」
「別に彼女がいたっていいじゃん。俺は彼女いる方が励みになるね」
裕也のドヤ顔サムズアップ。また叩かれている。
それから五人で写真を自撮りして、彼女にうきうき送信。きっと「かっこいいね」と返事が来るのを期待しているのだ。
ハッピーに当てられて、俺は若干胸焼けしつつ、委員長のことを思い出した。
委員長はどうしているだろう。部活に出たり、それとも友達と遊びに行ったりしているのだろうか。
連絡先は知っているわけだからメッセージを送ってみればいいのかもしれないが、用事はない。勇気もない。
「腹減ったなー、なんか食べにいこーぜ」
「ラーメン行こう、ラーメン食いたい」
フットサル場のビルを出たところで、裕也からラーメンコールが上がった。確かに、二試合やって腹が減った。
ぶらぶらしながら見つけたラーメン屋に男五人で入った。
普段はサラリーマンで混んでいるエリアなので店も並ぶのだろうが、もう昼時を過ぎている。待たずに入れた。
店内はカウンター席とテーブル席。
テーブル席は四人掛けだったので、椅子を一つ借りて、俺だけお誕生日席に座った。
カウンターの上部の壁にはメニューがびっしり。夜は居酒屋になるようで、おつまみ系の種類も豊富だ。
俺は一番安い醤油ラーメンを選んだ。
金がなかったわけじゃない。委員長が、一番シンプルな醤油ラーメンが好きだと言ってたのを思い出したためだ。
運ばれてきたのは、いたって普通の醤油ラーメンだった。
つやつやの煮卵が橙色の断面をこちらに向け、その隣には照りのあるチャーシュー。瑞々しいネギが大きな海苔と一緒に添えられている。スープは淡めで、透明だ。
空腹もあり、めちゃくちゃ美味しそうに見える。ごくりと喉を鳴らしてスマホで撮影してみた。
「おっ、写真撮るなんて珍しいじゃん」
「んー」
そうだ、と思い立ち、撮った写真をそのままメッセージに貼り付け、委員長に送付した。
「いただきます」して割り箸を割り、麺をスープの中でほぐす。ふーふーして一気に麺をすすれば、鼻から醤油の香りが抜けた。少し硬めの麺。でも口の中にはしっかりスープの味が残る。うん、美味い。
半分も食べないうちに、スマホがぶぶぶと振動した。
タップすると、委員長から返信。さすがラーメン。彼女を釣れた。予想通りで俺は大変嬉しく思います。
まだ食べている途中だけど、箸を置いてメッセージを開く。気が急いていた。
すると、メッセージに文章はなく、リンクのみ。若干怪しげに思いながらもリンクを踏む。
飛んだのは写真投稿アプリで、それは委員長のアカウントだった。
投稿写真はというと、すべて、ラーメン。
様々な具材が乗った丸いどんぶりがこちらを向き、三枚ずつ並んだ写真が下に続く。
すべて、ラーメンなのだ。
引いた。
スクロールするが終わりが見えない。
その深淵に半ば狂気を感じていると、当のラーメン狂から追加メッセージ。
『そのお店、行ったことあるよ!(ラーメンの絵文字)』
いやお前、こんだけあったらどのラーメンか分かんねえよ。
心の中で、口汚く突っ込んだ。




