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広がっていく空

 いつもと変わらない気持ちのいい冬空だった。雲がゆっくりと動いていた。


 気温は少し肌寒い1月下旬の時期だったが、太陽が出ていて、その周りにうっすら雲がかかっていた。広川は、こんな空が小さな頃から好きだった。小さい頃の実家にはベランダがあって、そこから暇があれば、空をみつめているような少年だった。


 ただ、その割には、空の事を勉強して、雲がなぜ発生するのか等を学ぼうということもなく、ただその自然が作った幾何学的な模様が少しずつ時間をかけて法則性もなく変化しているのを見るのが好きだった。


 真っ青で透き通るような青空よりも、キャンバスに少しずつ色を足したように、雲がうっすらかかっていて、雲が流れているのを見るのが好きだった。毎日空を見上げると、無限に広がるキャンバスに、様々な色で絵が描かれているみたいで、気持ちが乗らない日も気持ちが晴れるような気がした。一日として同じ空の模様はない、そんなことを子供心に感じるような少年時代だった。


 その日も、広川は大阪駅を降りると、赤信号を待っている間にしばらく空を見上げながら、そこに広がっている雲を見つめていた。この果てしなく広がる空の向こうの下で、色んな人たちが生活している情景を思い浮かべていた。”みんなどうしてるのかな”とぽつり呟いた。


 そして、青信号になり、横断歩道を忙しく急ぐ足並みのコート姿に紛れて、その昨日の夜に、大学時代に知り合ったT大学の後輩の木佐貫望から連絡があった事を、歩きながらふと思い出していた。


 木佐貫は、卒業後に一年間アメリカに留学してから、大手新聞会社のS新聞に就職していた。広川が卒業して中国に駐在してからも、彼女の仕事関係で時折現地の情報を教えてほしいということで、連絡をすることもあった。


 好奇心が多い彼女は、広川にも分からないことを質問して、広川をよく困らせていた。ただ、何も答えられないのも恥ずかしいと思い、その都度自分で調査したり、その分野で有名な方にヒアリングしたりして彼女の質問に回答していたが、広川にとっても、それによって様々な見識を広げる機会にもなった。


 ただ、広川が中国から離れ、日本のSKゴム会社に配属され、グループ会社のSK商事に転属してからは、彼女と連絡を取ることもなくなっていた。


 時折木佐貫のことを思い出すこともあったが、特に連絡するきっかけもなかったので、10年位が過ぎていた2019年の春のある日に広川は、久しぶりにFACE BOOKで木佐貫が上海の支店に配属されたことを知った。広川は、”自分のことを覚えているかな”と思いながらもメッセージで連絡をすると、予想外に“お久しぶりです。広川さん。連絡くれて嬉しいです”という心地いいメッセージが返ってきたので、内心ほっとしたのを思い出した。


 しかしその後、何回かメッセージを交換したりすることもがあったが、話題もなくなり、また連絡を取らなくなっていた。 


 そんな間柄の彼女が、昨日SNSのメッセージアプリで突然連絡が入っていた。


 “久しぶりです。広川さん。知っていると思いますが、今の中国の武漢で発生している流行肺炎の件で現地の方に聞きたいことがあります。できれば、電話でお話ししたいことが有るので、また都合のいい日を教えてください。宜しくお願いします。”


 広川は、また難しいことを言われるのかと思うと、少し身構えた。しかし中国の武漢は広川が学生時代に短期留学で一年間滞在していた都市でもあり、仕事の関係上、現地の日本人会や現地の中国人とも交友があり、いざとなれば、その人たちとも連絡をとればいいと思った。


 そして”お久しぶりです。また難しい問題ではなかったらいいですけど”とメッセージを返すと、直ぐに“広川さんなら簡単なことだと思います”と後ろに笑っている絵文字を付けてメッセージを送り返してきていた。


 そんなことを考えていると、知らぬ間に会社のビルの前まで歩いていた。広川は、ビルを見上げて、その上にある雲を見つめながら、“よし、今日も頑張ろう”と軽くつぶやいてビルの中に入っていった。


 空には、雲が激しく動いていた。無数に散らばっている雲が集まり、途端に雨雲に変わりぽつ、ぽつっと雨が降り始めていた。


この小説は、以前書いた"チーム語劇"の続きになります。

登場人物も以前書いた主人公の広川浩司を含め前作の登場人物も出てきますが

主に新しい登場人物がメインです。


現在で起きていることをメインに書くので、まだ現代においては解明されていないことを

自分の解釈できる範囲で想像している部分もあります。特に中国と日本や外交等の

記述もあり、前回の小説のタッチとは違うものになります。


また、中国という大国家の政策にも記載がある為、不快に思われる方もいるかもしれませんが

それを書かないとこの小説自体が成り立たなくなるので、敢えて書こうと思います。


正直なところ、こんな現代小説を書こうと思ったのは、昨年2020年にあった出来事をどのように

表現したら一番伝わるのかと考えた結果です。一年間、この時代に振り回されながらも、沢山の人たちと出会い、また別れて、初めてめぐり逢いの意味が理解できるようなこともありました。


人生には、どうしようもないこともあったり、訳も分からずに、その出来事を受け入れるしかない時もあります。人間の巡り合わせなんて、偶然でコントロールなんてできないし、意味のないものだと感じる瞬間もあります。ただ、それでも人は、明日を向いて生きていく。その見えない一歩が、めぐり逢いを生み、離れ離れになった人たちを一つにしていく。そんな小説を書いてみたいと思いました。


また、前回の小説の後書きにもかきましたが、逝去した大学時代の後輩のためにも、今生きている自分が生きる意味を見いだし、またコロナ禍で亡くなった沢山の全世界の思いを含めて、それでも一生懸命に生きる広川浩司の姿を通じて、今まで知り合ったすべての方々に感謝の思いを届けるために、この小説を書く決心をしました。


拙い表現のところもありますが、精一杯書いていこうと思いますので、最後までお付き合いいただければと思いますのでどうぞ宜しくお願いします。

更新は2週間に一度のペースを考えております。

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