29話
長門先輩が向かっていった階段の方へと向かっていった。
なにやらぞろぞろと後ろから女子陣がついてきていた気配があったが、莉央達が止めてくれたみたいである程度のところからパタリと気配を感じなくなった。
階段のところまで来ると一個上の屋上へと続く階段の踊り場に先輩はいた。
「お待たせしました、先輩」
「いや、構わん、私がいきなり呼んだからな」
「それで、なんの用件ですか?」
「あぁ、それはな」
長門先輩は少しためると、バッと頭を下げた。
「赤城の覚悟や、私たちの覚悟を踏みにじるようなことを言ってしまい、すまなかった!そして、私が間違っていることを正してくれてありがとう、覚悟を決めたつもりでいた私を、勘違いしていた私を叱ってくれてありがとう!」
......そうか、そこまで理解することが出来ていたのか。
なら、俺から言うことは無い、きっと部員にも響先生にも謝ったのだろう。
そしてきっと、自分で自分を律し気合いを入れ直したはずだ。
そういえば今気づいたが、俺はあの勝負をする上で最初は俺が野球部に入ろうとしてやろうとした訳だが途中から間違っている先輩に怒って、正そうとしていた。
そう考えると俺は野球部に入りたいと思ったってことだよな、とか自分のことより野球部全体のことを気にしていたのか、と思ったのだ。
「いえ構いませんよ、先輩、顔をあげてください」
スっと先輩は顔を上げて俺の目をしっかりと見据えてきた。
「本当にすまなかった、それで一つだけ言っておきたいことがある」
その言葉と俺へと向けてくる目線を見て、しっかりと伝えたいことなのだろうと分かる。
「きっと今回のことがあって、赤城は野球部に入ろうとは思わなくなってしまったかもしれない、だが私からお願いしたいのだ」
ここまで言われれば分かる、だが話は最後まで聞かないといけない、きっと先輩が言い切ることに意味がある。
果たしてここで話を切って返事をしたとしてどうするのだろうか。
ここまで真摯に向き合いしっかり目を見据えて話してくれる彼女の言葉を聞かないなど話にならない。
だから
「頼む、私たちの野球部に入ってくれないか?私たちと共に甲子園という夢を追ってくれないだろうか、私達は、いや、私は、キミと一緒に夢へ歩いて行きたいんだ」
答えに迷う必要などないのだ。
既に彼女達のことを思って、野球部を思って。
仲間を正すのも仲間の役目だと思ったのだから。
「はい、もちろんです、長門部長」
きっと今の俺は彼女に向けた中で一番の笑顔を向けているだろう。
だって、嬉しいのだ、仲間になって欲しいと言われたのだ、夢を共に追いたいと言われたのだ、果たして誰が喜ばないのだろうか。
笑顔を向けると長門部長は固まってどんどん顔を赤くしていく。
あれ、大丈夫かな?
「〜〜〜〜!部長と呼ばなくていい、美希と呼び捨てで構わない、あとタメ口でな、共にぶつかった仲だ、気兼ねなくいこう」
スー、フー、と深呼吸しながらそう言ってきた。
そうは言っても部長だし、先輩だし、と思ったが、きっと遠慮しない方がいいだろう。
何より歳は違くても仲間、チームメイトなのだ。
だったら共に歩く仲間として構わないのであろう。
「分かった、美希、よろしくな」
「あ、あぁ」
そう言うと美希はフラフラと顔を赤くしながら教室の方へと歩いていった。
大丈夫かな?
男の俺に対しても最初から当たりが強かったことを考えるともしかしたら男が嫌いなのかもだな。
俺は男だけど認めて貰えたからこうやって話したけど、男が目の前で辛かったのかもしれないな。
次からは気をつけよう。
そう思って教室に戻るのであった。
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