20話
♢
sideお嬢様s
「ね、ねぇ、何があってどうなってるの?」
「私も分からないっすけど、とりあえず一触即発の雰囲気だったっす」
「あの優しくてほのぼのしてる真司くんが怒ってるって一体何があったのかしら」
三人は驚きと困惑に包まれていた、それは他の野球部部員も同じだった。
「な、なんで部長はあの男の子と喧嘩してるの?」
「しかも一打席勝負って......部長に有利だし大人気なくない?」
「男相手に女が本気を出すかなぁ、いや、部長なら出すか」
「でもあの男の子、すごく自信がありそうだけど......」
「周りの男の子の中では凄いのかも?」
「でも、そもそも周りの男子が運動しないんじゃ」
♢
side暁 莉央
(あぁ、この景色、久しぶりだなぁ)
私は久しぶりに座る扇の要に感慨深くなっていた。
(あの日から私はここに座らなくなったからなぁ、1年ぶりくらいかな......)
サッと体を動かして反応を見てみるがそこまでパフォーマンスは落ちてないように思える。
もし、真司くんが野球部に入って、この野球部が、本気なら、私ももう一度ここに戻ってきてもいいかな、とは思う。
とりあえず位置について、マウンドに上がった真司くんを見る、たぶん何球か投げてから本番だろう、と思っていたが。
「もう始めていいですよ」
真司くんは部長さん?にそう声をかけた。
え、いきなり投げるの?
だが止める間もなく部長さんはバッターボックスに入ってしまった。
というかだ......どうしてこの二人は喧嘩してるんだ?
「あ、そうだ、一つだけ言い忘れてた」
「............なんだ?」
「俺が勝ったら野球部に入るのを認めて欲しいと言ったけどもう1つ追加してもいいか?」
真司くんが、部長さんにそう語り掛けた。
この勝負は真司くんの入部がかかっているのか、だけど、本当にそれだけで真司くんはここまで怒るだろうか?
聞いているのに対し、部長さんは何も言わない、それを沈黙の肯定と捉えたのか
「俺が勝ったら謝ってください」
「貴様にか?そんなこ」
「アンタについて来てくれる!仲間に!!そしてアンタ自身にだよ!!」
ビリビリと空気が揺れる、真司くんからの咆哮によって圧が放たれているかのように。
「アンタは自分で認めたはずだ、俺の覚悟は自分達の覚悟に並ぶそれだって、なら、なんで俺を否定したらそれに並ぶ自分達の事も否定していることに気づかない!」
「ッ!!!?いっ、いや、私は別に」
「そうは思ってなかったってか!?笑わせるなよ?だから俺はアンタに言ったんだよ、腑抜けだと、腰抜け野郎だと!」
真司くんは肩で息をしながらそう叫んだが、スっと真面目な顔に戻りグローブをつけてない右手の親指を人差し指の第二第三間接の間に当ててぐっと力を入れる。
あれは......ルーティーン?
「3球だ、3球で終わらせる」
その一言で部長さんは放心状態から戻り親の仇を見るかのように睨みつけ構える。
それを見た私もサインを出す、真司くんは、持ち玉をスライダーとフォークと言っていた。
いや、正確には他にも変化球を投げられるかもしれないけど、とりあえず、と言っていた。
よく分からなくて首を傾げたけど、分かったと返答してきた、一応縦スラはできるか聞いたら縦スラ、横スラ、斜めスラ、はいけるとのことなので組み立てはかなりできるはずだ。
とりあえず様子見と思いストレートのサインとインローにミットを構え、たのだが首を傾げられ目線がアウトハイの方向にいっている。
?
よく分からないけどサインはストレートのまんまど真ん中にミットを持ってくると頷いて投球モーションに入り始めた。
えっ、え?一打席勝負なんだよね?
だが投げられてしまった玉を取らなければならないのでしっかりとミットに収める。
どうやら部長さんは様子見をするためにバットを振らないようだった。
にしても体感120キロはいってるのでは?と思った。
男の体は女の体と違ってそう簡単に120キロを出せるような体ではなかったはずだ、恐らく男子の中で野球をやるなら上位に入るくらいなのではないだろうか。
だがそれだけだ、女子高生の中では平均的な速度、このままでは打たれてしまうだろう。
だからこそ変化球も入れていきたい。
3球って言ってたっけ?
なら、そうだなぁ。
次の投球はフォークをインコースに、ダメか、じゃあ縦スラをアウトハイに、ダメか、というか、さっきみたいに首を傾げすらしないんだけど。
............そういえば3球で終わらせるって言ってた?
喧嘩もしてる?
いや、まさかね......
まさかと思いながらど真ん中ストレートのサインを出すと頷いた。
いや、なんで?
別に野球部に入りたくないの?
勝とうとしてるのにそんなことするかなぁ。
真司くんの投球モーションを見てキャッチャーミットに寸分の狂いもなく吸い込まれる球をとる。
だけど、なんであの投球モーションでこの速度が......
先程と同じように120キロぐらいの球が飛んできたが部長さんはわざと見逃したようだ。
だけど今、私は、真司くんの投球モーションを見た上で身体の使い方に違和感を覚えた。
あの投げ方だと、しっかりと投げられないから速度はあまりでないはず......
でも、速度自体は出てる、なら、しっかりと投げれば??
............真司くんは、もしかしたら才能があるのかもしれない。
本当なら勝たせたい、もしかしたら野球部に入れば私とバッテリーを組んでくれるかもしれない。
でもこれは二人の、部長さんと真司くんの勝負だからね......
真司くんに合わせるよ。
ストレート、ど真ん中のサインを出す。
すぐに頷いて投球モーションに入った、のだが
え?なんで?最初から本気じゃ............
♢side長門 美希
元々2球様子を見ようとは思っていた。
だが、2球ともど真ん中ストレート。
しかも速度は120キロほど、だと思う。
3球で終わらせるって言っていたな、ならば次は変化球か。
予想の段階をこえないが、首を振る回数、あの余裕な態度、変化球が何種類かあるに違いない。
だが、ストレートがあの速度なら変化球の速度など目に見えている。
私は比較的目がいい方なのである程度早い段階でどの変化球かは分かる。
だから問題ないだろう。
絶対にあの男には負けたくないと思い気合を入れる。
すぐにあの男は頷いたので、来る!っと集中する。
腕を振り、あの男から放たれた球は......ストレートだった。
チッ、どうせど真ん中なのだろう。
舐められたものだ。
確かに3球で仕留めると宣言して3球全てがど真ん中ストレートだったら、それはもうカッコイイだろう。
でも、現実はそう簡単じゃない。
これは初心者相手では無いのだから。
120キロぐらいならそこそこ投げてくる人は居る。
だからそれぐらい当てることなど難しくない。
そう思いど真ん中にバットを振る。
コンパクトかつ力強く振り抜けば、本塁打も有り得る、と思い自信満々に振り......
なんの手応えもなく振りきった。
え............
私の判断は間違っていなかった。
しっかりとコースはど真ん中でストレートの球が飛んできていた。
だが振っている途中に気がついたのだ。
速いッ!!!!
さっきまで120キロほどの球が飛んできていた。
だが今のはどうだ?
今まで見たことがない速度だったのだ。
プロも狙える140キロは超えていたのではないか?
膝から崩れ落ちて呆然とする。
そもそもだ、私はあんだけ自信満々にバッターボックスに立ったのに、年下の、しかも男に3球全てがど真ん中ストレートを投げられたのに三球三振?
「どうして............」
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