(86)行商人との出会い②
~紗彩目線~
「…………相変わらず、すごいな」
「凄いです…………」
私たちがやって来たのは、商人街。
そこには、色々なお店が並んでいた。
とは言っても、建物のお店かと言えばそういうわけではない。
なんというか、建物型のテントのようなものの中に入って商品を広げているような感じだ。
食べ物、料理などを出している店もあれば、あまり見たことがないアクセサリーや服を売っている店もある。
お客さんは獣人が多いけど、店の人はそうでもない。
耳がとがっていたり、角が生えていたりと色々な種族がいる。
「サーヤ、欲しいものあったら言えよ?俺が買ってやるから」
キョロキョロと周りを見ていると、ジャックさんにそう言われた。
彼の方を見れば、キラキラと瞳を輝かせながら私の方を見ていた。
「え、でも……」
「問題ないって!それに、俺年下って初めてなんだ!だから、世話させてくれ!………………ダメか?」
さすがにそれは、と思いながら言えば、ジャックさんはしょんぼりと耳を垂れさせながら言う。
…………遊んでもらえずしょんぼりとしている犬に見えてしまったのは、きっと幻覚だろう。
「…………こいつはこういうときは聞かないぞ。諦めろ」
「…………お願いします」
「おう!」
ラーグさんがぼそりと言った言葉を聞いて諦めながらそう言えば、その途端ジャックさんはさっきまでのしょんぼりとした雰囲気から一変してパァッと花が周りに飛んでいそうなぐらい明るい雰囲気に変化した。
…………久しぶりの散歩にはしゃぐ大型犬に見えたのは、やっぱり幻覚なんだと思いたい。
ジャックさんたちの案内から、かなり時間がたった。
その間私はラーグさんに抱き上げられたまま、竜人の国から来た行商人の本屋を見たり、大きな骨付き肉を丸ごとを焼いているお店に行って食べ歩きをしたり。
本屋は種族が違うせいか、獣人の国では見られないタイプの本が並んでいた。
恋愛系が多いようだったけど、元の世界で言うライトノベル系ではなく純文系の恋愛小説だった。
骨付き肉は…………うん、非常に大きかった。
私は少しだけ食べて、後はすべてジャックさんが食べてくれた。
…………よくそんなに食べれるなって思ってしまったのは、二人には秘密だ。
しばらくして商人街の奥の方に行くと、少し小さな黒色のテントが見えてくる。
どうやら、売られている商品からして雑貨店のようだった。
「おや、ジャックさんじゃないですか」
「あ、ハイドさん!」
店主はいないのかなと思っていれば、後ろから声をかけられて振り向けば黒髪の男性が立っていた。
うなじまでの黒髪に、つり目の黒い瞳に尖った耳。
身長は、セレスさんよりも高くてアルさんよりは少し低めだろう。
ゆったりとした白いワイシャツにグレーのベスト、黒いズボンをはいていた。
テントの色的にも、もしかしたら黒系統の色が好きなのかもしれない。
初めて見るタイプの人だなと思っていれば、ジャックさんが尻尾を振りながら『ハイド』と呼ばれた人の元に走っていた。
「また、来ちゃった!」
「嬉しいですねぇ。ジャックさんは、元気がいいのでこちらも元気になれます」
「えへへ、そうかな?」
「そうですよ」
ジャックさんは嬉しそうに笑いながら、ハイドさんは優しげに笑いながら話している。
ジャックさんの言葉から、彼はこの店の常連のようだった。
そういえば、ジャックさん曰くこの商人街は結構な頻度で開かれているらしいし、もしかしたらあの『ハイド』という人の店が来るたびに来ているのかもしれない。
そう思っていると、『ハイド』さんはこっちの方を向いた。
「おや、こちらは?」
「あ、こっちはラーグさんで、この子はサーヤだよ」
『ハイド』さんと目が合った瞬間、ゾクリと寒気が背筋を走った気がした。
「おや、そうですか。どうも、ハイドと言います。商人街は、初めてですか?」
「はい」
「そうですか。それなら、いろいろなものを見てください。店によって、売っているものが違うので面白いですよ」
でも寒気が走ってのは一瞬で、にこりと笑ったハイドさんは私に近づいて私の頭を撫でながら言った。
…………なんだったんだろう、今の寒気。
そう思っていると、ジャックさんがハイドさんに近づいてきた。
「なあ、ハイドさん」
「おや、どうしましたジャックさん?」
「また、話聞かせてくれよ!ハイドさんの話、聞いててすごく面白いんだ!」
興奮したように言うジャックさんに、楽しそうに話すハイドさん。
なんだか、商人と客にしてはかなり親しいなと思っていれば、ラーグさんがジャックさんの腕を掴んだ。
「…………ジャック、相手は仕事中だ。邪魔するな」
「えー、でも」
「ふふ、大丈夫ですよ。今日は、お客さんは少ないですから」
どこか硬い声でそう注意するラーグさんに、口をとがらせて文句を言うジャックさん。
ハイドさんはと言えば、そんな二人が微笑ましいのか優し気な笑みを浮かべている。
なんだか優しい風景だなっと思っていれば、後ろから刺々しい雰囲気を感じて見ればラーグさんがハイドさん達をどこか刺々しさを含んだ視線を向けていた。
いったい、どうしたのだろうか?
「どうしたんですか、ラーグさん」
「…………違和感がある。あいつには、あまり近づくな」
「…………わかりました」
…………あいつ、というのはハイドさんの事なのだろうか?
なぜラーグさんがそう言うのかはわからないけど、今までの経験から彼はふざけてそう言うタイプではないというのはなんとなく理解している。
もしかしたら、彼だからこそわかる何かがあったのかもしれない。
次回予告:ジャック目線で語られるサーヤの変化




