(75)とある犯罪者の最後
~目線なし~
異世界から来た女性__佐々木紗彩が騎士団本部から離れたその頃、目を抑えた男が自身の目に治癒魔法をかけていた。
その男は、騎士たちから【C級】と呼ばれた犯罪者であり追われていた。
人質となるはずだった子供が逃げ出し、探しに行った先でその子供と思わしき子供を見つけたことで騎士団の本部内に侵入したのだった。
だが、その子供と一緒にいた紗彩の反撃により目を潰されてしまったのだった。
「ちくしょう!あのクソガキ、見つけたら絶対にただじゃおかねぇ」
ブツブツと文句を言う男は、まさに世間一般から言われている【C級】と呼ばれている存在そのものだった。
弱い者に対しては自分が上のように振舞い、強い者には媚を売る。
どうやら、この男の中では紗彩は弱者に分類されたようだった。
…………年齢に関しては紗彩の倍以上生きているが、頭の良さや判断力に関しては完全に紗彩の方が上ではあるが。
もし彼が紗彩よりも頭が良ければ、【C級】などと言う立場でもないし彼女を捕まえることも簡単である。
結局は紗彩の方が下だと考えているが、実際にはいろいろと紗彩の方が上である。
さて、ここらへんで一つだけ知識を披露する。
この世界では二百歳が成人の年齢である。
紗彩の年齢を、彼女の元の世界で換算すれば二歳と三か月ほど。
対して、この男の年齢はとうに二百歳を超えている。
…………簡単に言えば、【C級】の彼は大人なのに二歳児に負けていることになる。
そんな残念過ぎる男は、【会議室】と呼ばれた部屋の中に入っていった。
…………だが、そんな男を心底愉快そうに待っていた者がいた。
「なんで」
その者を見た瞬間、男はそう震えた声で呟いた。
男の顔には、何故?という疑問と恐怖の色が浮かんでいた。
彼の中には紗彩に対する怒りはすでになく、目の前の人物に対する恐怖心しか浮かんでいなかった。
「なんで、あんたがここにいるんだよ!!」
「あっは、うっざー」
この世の終わりだとばかりに叫ぶ男に対して、目の前の人物はケタケタと笑いながら男を見ている。
心底愉快。
男の目の前にいる人物の表情は、面白いものを観察しているようにも見えた。
だが、その対象は人物の視線からC級の男ではないことは明らかだった。
そのことには、さすがに頭の悪い男も本能でわかったようだった。
「ま、待ってくれよ!ここにはな、ガキが二人いるんだ。泣き虫なガキと、ちいせぇくせに小賢しいガキがいるんだ。なあ、あんたも俺よりそっちのガキの方が楽しめるだろ?」
目の前の人物のことを噂で聞いていた男は、紗彩と犬耳の少年を売ることにした。
これもまた【C級】ならではの思考である。
自分が助かれば、他はどうでもいい。
逆に考えれば自分が助かることしか考えていない割に状況を理解することができないため、ランクがC級止まりなのである。
ただ、そんなアホで愚かな男の言葉は目の前の人物の機嫌を損ねるだけだった。
「はあ?」
心底楽しそうな声音が一転して低くなる。
それと同時に先ほどまで笑顔だった表情は、抜け落ちたように一瞬で無表情になった。
あまりにも低い声に、男があまりない頭で考える。
何故?
いったい、自分の言葉の何が悪かった?
そんな答えの見つからない疑問を必死に考えていると、目の前の人物がまたニコリと笑っていることに気づき安堵する。
「俺がここに来たのは~遊ぶために来たの~」
まるで子供がキャッキャと笑っているような声音だった。
男は、その声音になおさら安心した。
自分が、彼の怒りから外れたのだと信じて。
でも、それは違った。
「でも、お前はいらな~い」
まるで、幼い子供が飽きたおもちゃを捨てるような。
そんな軽い声音で、その人物は目の前の男に対して言った。
それと同時に、男は絶望の底へと突き落とされた。
いらないということは、遠回しに男の死を告げられていたからだ。
「な、なんで……」
「なんでって、だってお前大人のくせにチビちゃんの罠に引っかかってばっかりなんだもん。面白いけど、途中からあきた~」
絶望したように呟く男を無視して、その人物は言う。
その声音は、完全に言葉通りの音を含んでいた。
『チビちゃん』というのが、誰を指しているのかを男はその時理解出来ていなかった。
ただただ、目の前にいる死神のような人物からどう逃げ切るかをずっと考えていた。
「その点、チビちゃんはいいよね!見てて、全然あきないんだ~。お前と違って、しっかりといろいろと計算したうえで動いてる。いいよね~、あの子。見てて、ほんと興味が尽きない」
楽し気にそういう目の前の人物から目を離し、しきりに周りを見回して逃げる場所を探す男。
だからこそ、気づかなかった。
「それに俺はね、遊びに来たけどしっかりとお片付けもできる良い子なんだよ~」
パンッ!!
そんな音が響いたと同時に、男の手足から血が噴き出した。
「?!?!!**?**!?!?!?」
「あーもう、お前うるさい!でも、その泣いている顔は面白いから泣くのは許してあげるね!俺、やっさしい!」
倒れこむ男の口から、言葉にすらなっていない悲鳴が部屋の中に響き渡る。
そんな男の姿を見て、魔法で傷つけた本人は傷つけたことにはなんとも思っていないのか、不快そうに眉を顰めた後愉快そうにケラケラと笑っている。
あまりの痛みに動くことすら満足にできない男は、少しずつ失われていく温度を感じながら痛みに苦しむことしかできなかった。
しばらくして男が死ぬと、男を殺した人物は彼の顔を覗き込んだ。
「あ、もう死んじゃった?…………まあ、いいか。こんな汚いの触りたくないし、どうせなら嫌がらせにもなるでしょ」
男の頭を足で潰しながらつぶやくと、その人物は窓の外を見た。
どうやら、逃がした紗彩のことが気になる様だった。
「でも、チビちゃんはいいなぁ。あの子、発想も視点も面白い。何より、あんなふうに手を引っ張られて守られるなんて俺初めて」
ポウッと頬を赤くさせながら呟くその人物は、まるで誰かに想いを寄せる乙女のようだった。
血で真っ赤に染まった部屋と、血がこびりついて赤く染まったその人物の靴と死体さえなければ。
「いいなぁ、あの子」
まるで夢を見るように、トロンとした目をしながらその人物は想う。
「大嫌いなあいつの元にいたから嫌がらせに殺そうかと思ったけど、サーヤは面白そうだし欲しいなぁ」
まるで、幼い子供が気になるおもちゃを欲しがるような。
でも、どこか夢見る乙女のような。
そんな表情を浮かべて、その人物はつぶやいた。
「…………奪っちゃえばいっか。あいつは、いつだっていろいろなものを持っていた。俺達にはないものを。なら、一個ぐらい奪っちゃってもいいよね?」
そう笑った人物には、先ほどまでのトロンとしたどこか夢を見るような表情ではなく、肉食獣を思わせるような獰猛な笑みを浮かべていた。
次回予告:ノーヴァにお菓子作りを誘われた紗彩
その先で、ノーヴァからとある疑問をぶつけられる
紗彩、ノーヴァに激怒する!!




