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(70)誘拐事件のその後①

~シヴァ目線~



 本部の中に入れば、鉄臭く生臭い匂いが襲ってきた。

 あまりの匂いに口元に手を当てれば、他の者たちも同じ動作をしていることが衣服が擦れた音でわかった。

 あまりの濃い匂いに眉間にしわが寄ると同時に、肉食獣としての本能が騒がしくなるのを気合いで抑え込む。


 …………血の匂いだ。

 本能でわかった。

 むせかえるような濃い血の匂いが、本部の中に漂っている。


 周りには、血の痕なんてないつも通りの本部の景色が広がっている。

 だがそれは見た目だけで、明らかに今本部の中で何かが起こっていることがわかった。


 サーヤは、ここまで濃い血の匂いがするとは言っていなかった。

 ということは、彼女が本部を離れて俺たちがここに来るまでの短時間の間に、この本部の中で何かがあったということだ。


 …………他の騎士たちを本部の周りに配置しておいてよかったな。

 よほど精神が強くなければ、これは本能に流されてしまいそうだ。


 後ろにいるアルたちを見れば、三人とも同じことを考えているのか頷いている。



「セレスとアルはこっちから、俺とノーヴァはこっちから行く」



 二手に分かれて、反対側に歩いていく。

 二手に分かれれば、その分駐屯の者たちとC級を見つける時間を短縮できる。


 だが、この臭いからして駐屯の者が生きている可能性は非常に低い。

 あまりにも残虐な方法で殺され、人の形すら残っていないかもしれない。

 慣れているとはいえ、あまり気分は良くない。

 犯罪者やその身内から恨まれやすいとはいえ、好き好んで仲間の死体を見たいとは思わないからな。


 …………まだ決めつけるのは早いが、この状況ではその可能性が最も高い。



「第一の目標は、駐屯の者たちの保護。第二は、偽セレス及びC級の確保」

「早くした方がいいわよね?サーヤの話し的に」

「うん…………頭の怪我、危ない」



 俺がそう言えば、セレスとノーヴァが小さな声で言う。


 サーヤの話では、駐屯の者が負傷しているのは頭。

 頭の怪我は、出血しやすい。


 生きているのであれば、早く見つけて魔法で止血しなければいけない。



「行くぞ」



 そう言った瞬間、俺はノーヴァと共に、アルはセレスと共に反対方向へと走り出した。




 



 しばらく歩いていれば、血の匂いが少しずつ薄くなっていくのを感じる。

 ということは、血の匂いの元から離れて行っているのだろう。



「血の匂いが遠ざかってる……セレスの方にいるのかな?」



 ノーヴァのつぶやきに何も答えないが、心の中で同意する。


 血の匂いの元は、確実に駐屯の者たちだろう。

 それが薄まっているということは、確実に彼らから離れて行っている。


 だが、五感が鋭い獣人の俺達が本能的にキツイと思うぐらい濃い。

 ならば、C級の者にとってもある程度の影響は受けているはずだ。


 それならば、血の匂いの元から離れる__正反対の方向にいる可能性が高い。



「どちらにしても、交戦を覚悟していけ。相手は、C級ではない可能性が最も高い」

「うん」



 はっきり言って、相手が本当にC級なのかも怪しくなってきたが。

 とにかく、これ以上被害が広がる前に身柄を拘束しなければ。


 そう思っていると、フワリとほんのわずかに生臭い匂いが漂ってきた。

 その方向を向けば、そこは【清掃室】だった。


 主に、掃除用具や汚れた衣服を洗濯するための部屋だ。

 だが洗濯は基本は夕方で、衣服を取りに行くのは次の日の同じ時間帯だ。

 だから、血や土の匂いなどしない新品同様にきれいになった衣服が並んでいるはず。



「この部屋……わずかだが血の匂いが」



 不審に思ってそう口を開けば、サーヤの言葉を思い出した。


 確か彼女は、洗濯物がたくさんある部屋に騎士たちを運んだと言っていた。

 サーヤの言葉と、この部屋の使用条件的に合っている。


 そう思い、部屋の扉を開ければ__



「!?」



 後ろでノーヴァが息をのむ音が聞こえる。


 部屋の中には、意識を失って床で横になっている駐屯のメンバーがいた。


 頭の布を紐などで押さえている者。

 同じことを施され頭の下に衣服で作った枕を敷かれている者。

 頭を抑え、止血用に使われている衣服はところどころ白い部分を残して真っ赤に染まっていた。


 慌てて一番近い者の口元に手を当て、安心して脱力してしまった。



「顔色は悪いが、息はある」

「こっちも…………サーヤがやったのかな?」

「そうだろうな。部屋的にも、サーヤの説明に一致する」



 安心してそう言えば、ノーヴァも他のメンバーの口元や脈を確認して安心したように呟いている。


 確かに、彼女のおかげだ。

 魔法を使わない原始的な方法だが、彼女が止血をしていたおかげで出血を抑えることができた。


 いくら獣人が強靭とはいえ、出血は止めなければ命の危険性だって出てくる。


 あとで、サーヤにお礼を言わなければ__






「…………あれ?それじゃあ、あの濃い血の匂いって」



 応急処置用の治療魔法をかけていると、ノーヴァがポツリと言った言葉に俺はハッとした。


 それもそうだ。

 駐屯のメンバーの傷口の血は、ほとんどが固まりきっている。

 少なくとも、あれだけの濃い血の匂いを発することはない。


 ならば、あの血の匂いを発しているのは駐屯の者以外ということになる__







「団長!!」



 嫌な予感を感じた時、泣きそうな焦ったようなセレスの叫びが耳に飛び込んできた。

次回予告:アル目線で語られるこの事件の最後

     この誘拐事件は、最悪な形と謎を残して幕を閉じる

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