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(26)土下座

~紗彩目線~



「ジョゼフさん」



 医務室に入ってきたジョゼフさんに声をかければ、優し気な笑みを浮かべながら近づいてきた。



『ああ、サーヤ君。具合はどうだい?』

「もう、大丈夫です。結構眠れたので、動けます」



 どれぐらい眠っていたのかはわからないけど、久しぶりにちゃんとしたところで寝たからか少しすっきりした気がする。


 最近は、仕事が多くて満足に眠れていなかった。

 でも少しとはいえしっかり寝たから、今なら集中して仕事できそう。


 そう思っていると、ジョゼフさんが怖い顔をしていることに気が付いた。



『無理はいけないよ。急に環境が変わって、サーヤ君が自覚していないところで体がストレスを感じて体調を崩しやすくなっているからね』



 ジョゼフ先生の助言を聞いて、私は考える。


 確かにこの世界に気候が日本と同じかもわからないし、今まで通りの生活を送っていたら体調を崩すかもしれないわね。

 でも、それだとどうやって日本に帰るかの方も調べなきゃいけないから、お金稼ぎと同時進行できるのかな?

 

 考えていると、ジョセフさんとジャックさんが何か話していることに気づいた。

 そう言えば、私ジョゼフさんにまだ謝罪していない。



「あの、ジョゼフさん」

『ん、どうしたんだいサーヤ君?』



 ジョゼフさんとジャックさんの会話が終わったことを確認してから、ジョゼフさんに話しかける。

 話しかければ、ジョゼフさんが私に目を合わせるためにかがんでくれる。

 ジョゼフさん、優しい。


 そして、改めて自分のチビ具合と彼らの身長の高さを実感する。

 自分の身長が平均にいっていないことは自覚しているとはいえ、やっぱりこんなに身長差があるとへこむ。


 ジョゼフさんとジャックさんが不思議そうな表情を浮かべて私を見ている。

 とりあえず、ずっとかがんでもらうわけにもいかないから早く謝罪しよう。


 床に正座の状態で座って、ガバリと土下座する。



「申し訳ございません」

『!?何をやっているんだい!』

『え?サーヤ!?』

「謝罪です」



 というか、土下座です。

 慌てた声音で言ってくる二人に、そう心の中でこぼす。


 もしかして、この世界には土下座がないとか?

 そういえば、土下座って日本ならではの謝罪方法みたいらしいし。


 そうなると、この謝罪方法ってジョゼフさんたちに伝わっているのかな?


 昔ネットとかで調べたら結構外国の人にも知られているけど、プライドとかそう言うのでやりたくないっていう意見をよく見たけど。

 私のプライド?

 あの会社に入ってからは仕事で何かミスるたびに土下座しろって強要されたから、はっきり言って特に何とも思わない。


 あえて言うのなら、これが一番相手に誠意が伝わる謝罪方法だとも思う。


 うーん、でも伝わっていないのならどうやって相手に伝わるようにすればいいのだろう?

 はっきり言って、私の知識がこっちで役に立つとは思えないし。



『…………土下座が、まあ謝罪なのは知っているよ。でも、なぜ急に?』



 あ、良かった。

 伝わっていたわ。



「迷惑を掛けましたから」

『迷惑?なぜ、そう思ったんだい?』

「ただでさえ、私の診察というやらなくても良かったことをやってもらって迷惑を掛けました。それなのに、泣いた私の言葉を聞いてもらって無駄な時間を使わせてしまいました。時間は大切です。何より、ジョゼフさんは医者なので、余計に時間は大切です。無駄な時間を使わせてしまい、申し訳ありませんでした」



 時は金なりッて、よく言うからね。


 実際、社会人になってからは、時間に追われる毎日だった。

 自分の仕事以外にも、おしつけられた仕事もやらなくちゃいけないから。

 文句を言っている暇もない。

 だって、そんな暇があるのならとにかく仕事の山を崩さなくちゃいけない。

 そんな、毎日だった。


 だからこそ、時間がどれだけ大切なのかわかる。


 何より、ジョゼフさんはOLの私とは違って医者なんだ。

 仕事を差別するつもりはないけど、彼が私に使った時間を他の人にも使えたはず。

 何より、彼はこの騎士団の医者。

 簡単に言えば、専属契約的なものをしているはず。


 なら、騎士団に所属していない私を助けることは彼にとっては契約内容にはない仕事だ。



『…………ジョゼフ先生、俺泣いていい?』

『耐えてくれ、ジャック君』



 そう思っていると、頭上でジョゼフさんとジャックさんの会話が耳に入った。


 なんで、ジャックさんが泣いているのだろう?

 そういえば、ジャックさんは医務室に来たのだ。

 それならば、体調不良か怪我で来たはず。

 もしかしたら、私に無駄な時間をかけたせいで痛み出したのかもしれない。



『頭をあげてくれ、サーヤ君』



 ジョゼフさんにそう言われて頭をあげれば、ジョゼフさんは泣きそうな表情を浮かべていた。



『サーヤ君、君は無駄な時間と言うが私はそう思ってはいない。診察は君の状態を知るためにも必要なものだ。決して、無駄なことではないよ。私は、私の職務を全うしただけだ。君が、迷惑をかけたと思い悩むことはない』

「…………でも、私は何も返せません。お金も持っていません。お金になるものも持っていません。できることは、書類整理などの労働だけです」



 いや職務を全うするって言っても、ジョゼフ先生の職務って騎士団の医者でしょ?

 それなら、本来契約外労働の対価として私がお金を払わなきゃいけない。

 そう、あの会社で教わった。


 でも、私にはお金どころかお金になりそうなものもない。

 私にできそうなことなんて、労働ぐらいだ。



『君は、そんなことをさせられていたのかい?』

「仕事はダメダメでしたけどね。でも、できるように頑張ります。言葉も、文字も頑張って覚えます。だから…………」



 怒りを帯びているジョゼフさんの声音におびえながらも、必死になりながら言う。


 そりゃあ、怒るだろう。

 だってジョゼフさんは、本来ならしなくてもいい仕事をしたんだから。



『それなら、君にお願いがある』

「なんですか?」

『この騎士団に、残ってくれないだろうか?私たち騎士団がいるとはいえ、この国は治安が良くて絶対に安全とは残念ながら断言できないからね。』



 …………それって、お願いになるのか?


 身寄りもなく、明日ですら危ういのは私だ。

 実際、騎士団に残ってくれと言われて得するのは私だけのはず。

 私がここにいることで、ジョセフさんが得することなんてあるのだろうか?


 治安の話が出てくるということは、やっぱりここで保護という形だろうか?

 でも、それをしてこの人たちに何か得になるのか?


 騎士団というところに部外者の私がいる。

 そのことで文句を言われて、組織内の秩序とかに悪影響が出るのでは?

 だって、誰だって自分の組織に信用できるかもわからない部外者がいるのは気に食わないだろう。



「いいんですか?」

『ここに残ってもらった方が、私達としても安心するからね』

「…………よろしくお願いします」



 よくわからないけれど、とにかくなんとかしてお金を稼ごう。

 もし、この騎士団を出ることになった時のためにも。




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