(275)双子の真実➀
~紗彩目線~
「ありゃ~、惜しかった」
「ジャック君!!」
「おやおや…………一人ぼっちになってしまいましたね」
ポフンという音と共に地面に転がるジャック君だったぬいぐるみ。
思わず手を伸ばそうとすれば、横からそんな声が聞こえてきた。
「やーっと追い詰めたよ、おチビちゃん。…………これで、おチビちゃんも俺の物」
「くっ」
ジャック君のぬいぐるみを持ち上げたまま、こちらを愉快そうに笑うロイドさんとハイドさん。
追いつかれてしまったんだと、嫌でも理解できた。
どうする?
いったい、どうすればいい?
この鬼ごっこで頼みの綱であるジャック君は、ロイドさんの腕の中。
ジャック君は、人質のようなものだ。
下手に動くことができない。
この状況が嬉しいのか、ロイドさんはジャック君の手を握ってブンブンと振り回している。
浮かんだ笑顔は、まるで手に入らないおもちゃをやっと手に入れた幼い子供のようだ。
お願いだから、そんなに振り回さないで。
もしも、手とかが取れてしまったらどうするのよ。
「ふふふ…………おチビちゃんをゲットできたら、俺はよーやくあいつの物を初めて取ったことになるんだ」
「…………あいつ?」
「ん、そうだよ~」
この状況に機嫌をよくしたのか、ロイドさんは私が呟いた言葉にペラペラと話し始めた。
あいつは、いつだって俺達の欲しいものを持ってた。
俺らはどんなに頑張ってもいっつもあいつばっかり独り占め。
どんなに欲しがっても、手に入れられないものをあいつは持っていた。
母親からの愛情も。
あの人からの視線も。
救いの手も。
あの糞共の嫌がらせから守ってくれる大人も。
全部全部俺等にはなかった。
ムカつくムカつく。
なんで、あいつばっかり持っているんだ。
ロイドさんは、言葉を吐いているうちに幼げな笑顔から「妬ましい、憎たらしい」という負の感情がこもった真っ黒で絶望した表情を浮かべていた。
話を聞いている限り、ロイドさんは「あいつ」と呼ばれた人と兄弟のような関係だったのだろう。
そして、恐らく両親からの愛情もかなり偏った環境下にいた。
「俺的には、吸血鬼とリザードマンのハーフじゃないかって思う」
ジャック君の言葉を思い出す。
彼らは、ジャック君の予想通り歪な環境で育ったのだろうか。
「だからさ~、最初はおチビちゃんのこと殺してやろーって思ってたの。だって、おチビちゃんはあいつの物だったし」
「…………は?」
ロイドさんの言葉に、私は思わずポカンと彼を凝視してしまった。
正直、意味が解らな過ぎて怖かった。
彼らの言う「あいつ」なんて、私は知らないし。
「あいつ」という人の物でもない。
そもそも、私に何の非もないのにまさかそんな理由だけで殺されそうになっていたこと自体が驚きだ。
だって、理不尽すぎるだろう。
…………そう言えば、この人は「面白そう」なんて言う理由で街中に怪物を解き放つような人だったか。
そもそもの考え方が、根本的にあわないと思った。
「物と言うよりは、保護と言えばいいのでしょうかね」
「…………あなた達の言うあいつって、騎士団の関係者と言うことでよろしいでしょうか?」
「ん~?おチビちゃんは、あいつのこと知らなかったっけ?」
「あの人は、僕達のことを知らないでしょうからね。恐らく、聞いていなかったのでしょう」
「…………は~、ほんとあいつムカつくな~」
今まで黙っていたハイドさんの言葉に驚く。
彼らの言う「あいつ」は、騎士団の中にいるって事?
…………ちょっとまって?
「まあ、いいや~。んでね~。最初は殺すつもりだったんだけど、おチビちゃんとのおしゃべりでおチビちゃんおもしれ―ってなったの。だから欲しいな~って思ってたのに、おチビちゃんはあいつやワンちゃん達ばっかりと遊ぶんだもん」
ロイドさんが愉快そうに言っているけど、私はそれどころじゃなかった。
ロイドさん達は、吸血鬼とリザードマンのハーフだと仮定する。
私を保護したのは、獣人騎士団だ。
「だ・か・ら」
でも、実際に私を保護したのはシヴァさんとアルさんだ。
アルさんは違う。
彼は、実際は精霊族だったから。
でも、シヴァさんは?
「全部、あいつから取っちゃえって思ったの。あいつが俺らから取ったんだから、俺等もあいつから取っていいでしょう?」
シヴァさんの親は、確か__
そう考え込んでいた時だった。
目の前にいたロイドさんの片腕が切り落とされたのは。
ぽとりと、ジャック君のぬいぐるみが地面に落ちる。
私の目の前には、見慣れた軍服の人が立っていた。
「おチビちゃん、貰っちゃっていいよね~~…………お・に・い・ちゃ・ん??」
「シヴァ……さん?」




