(274)鬼ごっこ②
~紗彩目線~
「いさなげに」
「なっ、人形!?」
ロイドさんたちに差し向けられたのか、カラフルな毛糸とボタンの目のぬいぐるみの集団が私達の背後に迫っていた。
騎士団の制服に似た、簡略化されたぬいぐるみの服。
頭と腰に動物の耳や尻尾があるから、たぶん獣人の人形なんだろうけど…………すごく見覚えがありすぎる。
「このぬいぐるみ…………どこかで」
「…………もしかして、副団長たち?」
「なるほど…………確かにぬいぐるみを怪物に変化させられるなら、その逆もできるということですか」
「くそっ……副団長たちじゃ、下手に攻撃できねぇじゃんか!!」
私の言葉に、私の手を引きながら言うジャック君。
ジャック君の言葉に私は理解した。
ぬいぐるみを怪物に変化させることができるなら、その逆で生き物をぬいぐるみに変化させることができるということ。
しかも相手が騎士団の仲間とくれば、ジャック君も攻撃できない。
…………なんとなく、ロイドさんが考えそうだと思う。
憤慨するジャック君の横でどうするかと考えていれば、ドンドン近づいてくるぬいぐるみたちから声が聞こえてきた。
「いさなげに」
「ろげに」
「だんるげに」
「にうょぎんにをのもきいはどいろ」
「にのもきいをうょぎんにはどいは」
「るれらえからたれらわさ」
どこか悲しくて、何かを懇願しているような声だった。
でも何を言っているのかわからなくて首を傾げていれば、ジャック君に抱きかかえられてそのままぬいぐるみたちから逃げた。
どうでもいいだろうけど、抱き上げられたままダッシュされてもあんまり揺れないもんなんだね。
そう思っていればグングン距離が遠くなって、とうとうぬいぐるみたちが見えなくなった頃に森の中の開けた広場みたいな場所でジャック君は止まった。
「なんなんだよ…………副団長たちは何が言いたいんだよ」
「わかりませんよ…………でも、なんとなく違和感を感じますね」
ジャック君に下ろされて彼の方を見れば、彼は制服の内ポケットから聞き込み時に使う用の手帖とペンを取り出している途中だった。
「…………もしかして、逆なんじゃ」
「逆?」
「逆さ言葉って言うんだっけ?語の順序や、単語の音の順序を逆にして言う言葉のこと。例えば、『ろげに』って言葉も意味わかんねーけど逆から読むと『にげろ』になるだろ?」
ガリガリと手帖に何かを書いていたジャック君の言葉に思わず聞き返せば、ジャック君は手帳を見せてくれた。
手帳には、「ろげに→にげろ」と書かれていてその下にはあの人形たちが話していた単語が書かれていた。
…………なるほど、感じていた違和感の正体はこれか。
でも逆さ言葉だって言うなら、あのぬいぐるみに変えられたアルさん達の言葉にも何か意味があるのかもしれない。
そう思い、ジャック君の手帖を見ながら一文字ずつ単語を逆にしながら地面に枝で書き込んでみればその意味が分かった。
『はいどはいきものをにんぎょうに』
『ろいどはにんぎょうをいきものに』
『さわられたらかえられる』
ハイドさんは、生き物を人形にする。
ロイドさんは、人形を生き物にする。
個有スキルの発動の条件は、彼らに触れられること。
人形を生き物にってことは、あの怪物たちはハイドさんの手によって生み出された怪物ってことだ。
「…………ハイドさんは生き物を人形に変える個有スキルで、ロイドさんはその逆ってことですか」
「触れられたらアウトってことかよ」
「…………アルさん達も、触ってしまったから人形に変えられてしまったってことですね」
私の言葉にジャック君が呟いた。もしかしたら、ロイドさん達と建物の中で遭遇して捕縛しようとして触っちゃったのかも。
でも、触ったらアウトってことは本当にゲーム通り逃げ切ることでしか助かる方法はなさそう。
…………できれば、アルさん達を元に戻したいけど方法がわからないな。ハイドさんが教えてくれると思えないし。
でも、鬼ごっこっていうのもあっていると言えばあっているかも。
鬼ごっこって、ゲームによっては『鬼に触られたら鬼の仲間になる』っていうルールもあるし。
そう暢気に考えている時だった。
「!?サーヤ!!」
「!?…………じゃ……っくくん?」
ジャック君に力強く押されたかと思えば、ポンッと言う音と共に見覚えのあるぬいぐるみがジャック君がいたはずの場所に転がっていたのが見えた。




