(273)鬼ごっこ➀
~紗彩目線~
「チビちゃんワンちゃん、俺らと一緒に遊ぼう?」
「は?」
「何を言って…………」
ロイドさんの言葉に、私や隣にいるジャック君から戸惑いの声が上がった。
正直、ジャック君の気持ちはとても分かる。
なんで、「一緒に遊ぼう」発言になったんだ?
それとも、あれかな?
サッカーしようぜ、お前ボールな的なあれかな??
そんな私達の反応が面白くなかったのか、ロイドさんはブス―と頬を膨らませた。
「え~、だって俺チビちゃんと遊びたかったのにチビちゃん遊んでくれなかったじゃん」
「おやおや…………ロイド、ちゃんと説明をしないから彼女たちが困っていますよ」
「ありゃ、わかんなかった?鬼事、しようよ」
「鬼事?」
「鬼から逃げて、捕まったら鬼の仲間になるって言う子供の遊び…………だよな?」
「そうだよ~」
拗ねたように言うロイドさんに、彼の隣にいたハイドさんが宥めるように言う。
そんな彼に、ロイドさんは不思議そうに首を傾げながら幼い子供のように二パっと笑って私達を誘ってきた。
鬼事??
急に言われて思わず彼の言葉を繰り返して言えば、ジャック君が戸惑った声音で言った。
「…………意味がわからん。なんで、そんなことをする必要があるんだよ?」
「え、俺がしたいからだけど?」
「は?」
「俺は、チビちゃんと遊びたかったのに遊べなかったの。だから、今遊ぶの。ワンちゃんも一緒に遊んであげても良いよ?チビちゃんの友達だし」
首を傾げながら言うロイドさんに、私とジャック君は何も言えなかった。
と言うか、ハイドさん。
隣で微笑ましいと言いたげに笑ってないで、オタクの片割れさんをなんとかして欲しい。
話が突拍子もなさ過ぎてどう反応すればいいのかわからなくなりそうだから。
「…………そもそも、その鬼事って奴に俺達がするメリットがないだろ」
「おや、ありますよ。あなた方が負ければ、僕達の仲間になってもらいます。僕達が負ければ、捕らえている騎士団の者達を解放しましょう」
ジャック君が苛立った声音で言えば、ハイドさんがにこやかに答える。
鬼ごっこをして、負ければ彼らに捕まり、勝てば人質の解放。
身体能力は高いのはジャック君だけで、私の方は持っている道具は少ない。
対して、彼らの方は個有スキルの詳しい情報もないし身体能力も未知数。
しかも、あちらは私達の個有スキルの内容を知っている可能性が高い。
そんな状況で、体力勝負の鬼ごっこ。
あまりにも大博打すぎる。
…………でも土地勘のない私達が、S級の犯罪者である彼らから逃げきることは不可能に近い。
「どうします?ここで僕とロイドに潰されるか、まだ勝てる可能性のある鬼事にのるか」
「…………やってやる」
「ふふ、さすがです。では、僕たちは僕たちのスタート地点に立ちますので」
「場所は、この建物と森の中だよ~。二人が捕まれば負けで、どっちかが時間制限の一時間以内逃げ切ればそっちの勝ち」
考えていれば、ハイドさんの言葉にジャック君が答えた。
彼の答えに満足したのか、ロイドさんは笑いながら言った後にハイドさんと一緒に姿を消した。
途端の、シンッと周囲が一気に静かになる。
「…………ごめん」
「ジャック君?」
「サーヤの意見を聞かずに勝手に決めた」
「いえ、私もあの案には乗るしかないと思っていたので…………」
さて、どうするかと考えていればジャック君がしょんぼりとしながら私に謝って来た。
そんなジャック君に気にしないで欲しいと思いながらもフォローし、これからどうするべきかと話し合う。
ジャック君の案は、この建物を出て森の中を逃げ回ろうという案だった。
建物ではどこに何があるかわからない以上、追い詰められてしまうだろうから。
「あの二人について、どう思う?」
幸い近くに階段があり、二階まで下りた後に窓からジャック君に抱き上げられたまま出ることに成功した。
暗い森の中、ジャック君と手をつなぎ彼に先導してもらう形で歩いていればそんな言葉が飛んできた。
あの二人について。
正直、情報があまりにも少なすぎてどうこう言えない気がする。
ロイドさんとハイドさんは双子の兄弟。
ロイドさんは、霧夜の民のボス。
ロイドさんは、恐らくぬいぐるみを自由自在に動く化け物に変える個有スキルの持ち主。
この情報については、ロイドさんの自己申告だから信憑性は低いけど。
「なんらかの個有スキルなのか、もしくは」
「ああ、個有スキルっていうのもあるか」
「ジャック君は違うんですか?」
「俺的には、あの二人は吸血鬼とリザードマンのハーフじゃないかなって思う」
ジャック君の言葉に、どこか納得してしまった。
アルさんから習ったけど、生まれてくるハーフには二種類いる。
親の血が反発して体の一部分や機能が欠けているか。
親の血がうまく混ざったことで親の種族の能力を二つとも継承しているか。
あの二人が吸血鬼とリザードマンのハーフだと仮定して後者の場合なら、二つの能力を合わせたような能力を使いこなすこともできるはず。
何より…………片方の親が吸血鬼なら、ロイドさんに感じた違和感も納得できる部分がある。
「…………なるほど、あの違和感に納得できます」
「違和感?」
「ジャック君も感じませんでしたか?ロイドさんって、見た目と中身がちぐはぐなんです。言動と言うよりは…………中身が体に合っていないような気がするんです」
「…………ああ、確かに」
「シヴァさんの話では、吸血鬼ってハーフに対してかなり厳しいようですし…………もしかしたら幼少期によろしくない環境下に置かれていたのかもしれません」
子どもをそのまま大人にしたような人。
わからなかったけど、ロイドさんの言動はそう表してしまえば納得できる。
子供は叱られなければ、何が悪いのかわからない。
誰にだって経験はあると思う。
意味もなく、地面を歩いているアリなどの虫を踏みつぶしたりして殺した経験が。
平気で犯罪行為や破壊行為を行えるのも、子供が悪意なく虫を殺すのと同じく、彼らも同じ感覚でしているんじゃないか。
そう話せば、ジャック君は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「…………結局、どんな種族だろうと子供は親に振り回されるんだな」
「…………ジャック君」
母親の自分勝手な愛に振り回され、実の父親から存在否定の言葉を吐かれた彼だからこその言葉なのだろう。
そう思っていれば、ジャック君は何かを考えこんだ後に首を傾げた。
「…………でもさ、吸血鬼がわざわざハーフを作るとも思えないんだよな。あいつら、吸血鬼以外との子供を作ること自体を恥って思ってる奴ら多いらしいし…………そんな物好きって今の魔族の国の王様ぐらいだよ」
「魔族の国の王??」
ジャック君の言葉に思わず聞き返した時だった。
建物があった方から、カチャカチャと言う音が聞こえてきたのは。
「…………いさなげに」
そこには、どこか見覚えのある見た目と服を着せられたぬいぐるみたちが立っていた。




