(272)ロイドとハイド
~紗彩目線~
「なーに、話してんの?」
「「!?!?」」
私達の背後__部屋の入り口に立っていたのは、ロイドさんだった。
「なっ…………気配を全く感じなかったのに」
私の隣でジャック君がポツリと呟いた。
今までの経験で、騎士団の獣人たちは普通の獣人よりも気配に敏感なのは私も知っていた。
そんな彼に気づかれないなんて…………。
「お前…………特徴からして、ロイドって奴か?」
「…………へ~、ワンちゃん生き残ったんだ?ジャックちゃんの追撃から生き残るとか、やるじゃん」
警戒しながら言ったジャック君に対して、ロイドさんは彼に対して興味もないのかどうでも良さそうな表情を浮かべた。
そう言えば、切り裂きジャックを捕まえるために騎士団本部に向かっていた時も、彼は私の目の前に現れた。
あの時は意味が分からないと思っていたけど、ジャック君と切り裂きジャックの背景を知っていたとなれば複雑だけれどあの時の言葉の意味もわかる。
…………おそらく、彼は知っていたのだろう。
ジャック君が生まれた背景に怒った悲劇のことを。
「…………貴方、切り裂きジャックと彼の関係を知っていたんですね」
「!?」
「そ~だよ~。だって、俺がジャックちゃんを切り裂きジャックにしたんだもん」
「…………は?」
「奪われてばっかりとか、チョー理不尽じゃん。俺もさ~、すーごっくわかるんだよね。取られてばかりいる側の気持ち」
「…………それ、怪物たちを操って騒ぎを裏で操っているあなたが言うんですね」
「だって、俺が今の俺になったのも【あいつ】を見返して俺を見てもらうためだもん」
「は?…………んな、理由で」
ロイドさんは、私の言葉にケラケラと笑いながらなんでもないように言った。
切り裂きジャックにした。
まさかと思うけど、彼のせいで切り裂きジャックはあの凶行を行ったのか?
いや、切り裂きジャックは母子の死亡を確認した後に狂った。
…………いや、そもそも彼が言っている【あいつ】っていったい誰のことなの?
前回もそうだけど…………ロイドさんの裏側にもその誰かが関わっているということ?
切り裂きジャックのように、彼もまた誰かに奪われた側なの?
「副団長たちをどこにやったんだよ!!」
「ん?俺の玩具になってもらったけど」
「はあ!?」
思考の渦にハマっていれば、イライラしたのかジャック君がロイドさんに向かってそう怒鳴った。
ヤバイ。
明らかに、ジャック君がロイドさんのペースに流されている。
「…………ジャック君、彼のペースに飲み込まれないでください」
「ほんとっ、なんなんだよこいつ」
「え~、こわーい。俺泣いちゃうよ、チビちゃん」
「勝手に泣いていてください」
「ありゃりゃ。チビちゃん、反抗期?」
「副団長たちは何処にいますか?」
「え、なになに?俺と遊んでくれんの、チビちゃん?」
ジャック君を宥めジロリとロイドさんを睨めば、彼はエーンエーンと子供が泣いたふりをしながら笑っている。
ああ、本当にイラっと来る。
アルさん達の行方や無事なのかも分からない以上、よけいに苛立ちが募っていく。
それはジャック君も同じなのか、隣で舌打ちしている。
「…………こいつ、耳ついてるのか?」
「私も会うたびに疑問に思いますね」
「あれ、酷くね?なんで、ハイドの奴こーんな可愛げもねぇワンちゃんが気になるのか意味わかんね。ガルガル言っちゃって可愛くねーのに」
「貴方だって、そちらの少女に夢中ではないじゃないですか」
「!?」
ジャック君の言葉に同意すれば、ロイドさんの背後から見慣れた姿が現れた。
「…………やっぱり、貴方も関係者だったんですねハイドさん」
「ふふ、御名答ですよサーヤさん」
「嘘だろ…………」
現れたのは、ハイドさんだった。
つまり、シヴァさんたちの予想__「ハイドさんがロイドさんの協力者説」は正解を引いていたみたいだった。
隣にいるジャック君がショックを受けているのが手に取るようにわかる。
せめてジャック君の代わりに…………。
そう思いながら警戒をして二人を凝視していれば、二人に変化が起こった。
ゴキッバキッという何かが折れるような音と共に、二人の見た目に変化が表れ始める。
ロイドさんの身長は私達の二倍ほど高くなり、ハイドさんの髪の色などが変わっていった。
完全に音が静まれば、ロイドさんとハイドさんはまるで鏡を間に置いたようにそっくりになった。
「…………っ、ふぅ」
「やっぱ、変身ってめんど~」
「…………瓜二つ?」
「…………いえ、まるで鏡みたいですね」
熱いのかパタパタと手で仰いで風を送るハイドさんと、心底面倒くさいと言いたげなロイドさん。
そんな二人を見て呟くジャック君。
瓜二つというわけではないように見える。
二人ともそっくりだけど、唯一見た目で違うのは髪の毛の銀色のメッシュがある場所と目の形だろうか?
ロイドさんはタレ目でメッシュが右側にあるのに対して、ハイドさんはツリ目でメッシュが左側にある。
それ以外は、全く違いが分からない。
声だって似ているし、恐らく口調を変える事でどちらがどちらなのかわかるようにしているんだろう。
「え~、すっごくそっくりって?ありがとね~」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれますね」
「変身に急成長…………どういうことだ?吸血鬼でもリザードマンでも不可能なはず…………個有スキルか?」
「え~、俺らの個有スキルはちげぇ~よ?」
「おや、いけませんよロイド。最初から手の内を明かすのは、これからするゲームに面白みが欠けてしまいます」
コテンと首を傾げながら言うロイドさんに、そんなロイドさんを宥めるように言うハイドさん。
確かに彼らの能力は、吸血鬼とリザードマンを合わせたような能力だ。
しかも、二人とも。
個有スキル…………だとしても、二人とも同じなんてことはあり得るのだろうか?
いや、そもそもロイドさんの個有スキルはあの怪物の元となったぬいぐるみを操る事。
彼の発言が嘘でなければ、ぬいぐるみを怪物に変化させて操る個有スキルのはず。
それなら、ハイドさんの個有スキルか?
私が作る道具のように、他人にも使えるような個有スキルとか?
「あと、僕たちがそっくりなのは仕方がないことなのですよ。何しろ、双子ですから」
「双子…………?」
「双子って、あんな似るもんなわけ?先輩に双子の騎士がいるけど、あそこまで似てなかったぞ」
「…………一卵性双生児であれば、恐らくは」
「んなもんは~、ど~でもいいの~」
ハイドさんの言葉に、首を傾げるジャック君。
この世界に一卵性双生児がいるのかはわからないけど、確か一卵性双生児はひとつの受精卵から発生した双胎児のこと。
遺伝子がほぼ同じであることから性別や外見、血液型などが同じもしくは似ているはず。
あれだけ瓜二つなら、一卵性双生児説が濃厚だ。
そう考えていれば、ロイドさんが飽きたと言いたげな声音で話した。
「チビちゃんワンちゃん、俺らと一緒に遊ぼう?」




