(269)廃墟探索➀
~紗彩目線~
「…………ん?」
目を開ければ、すすけてボロボロになった天井が見えた。
どこなんだろう、ここは?
そう思いながら起き上がり、周囲を見回す。
全く見覚えのない部屋だった。
埃で真っ白になったソファ。
足が折れたイスにテーブル。
古くなったせいか、ところどころ穴の開いた床。
人がいなくなって何十年も経ったような有様だった。
「ここは…………」
どこだろうと言いかけると、奥の方でもぞりと何かが動くのが見えた。
急いでバックの中から懐中電灯もどきを取り出して、明かりをつけて向ける。
「ジャック君?」
そこにいたのは、ジャック君だった。
急いで駆け寄って見れば、特に怪我もないように見える。
見た感じ、気を失っているみたいだった。
「起きてください、ジャック君」
「…………んん??」
倒れている彼の体を揺すれば、眉間にしわを寄せながらもジャック君は目を覚ました。
「さっ!! むぐっ」
「しっ、静かにしてください」
体を起こし叫びそうになったジャック君の口元を慌てて抑える。
周囲に何があるかも、ここがどこなのかもわからない。
なんなら、敵がいるかもしれない。
そんな場所で大声を出すのは得策じゃない。
そう思いながらそう言えば、ジャック君は驚きながらもコクコクと頷いた。
「…………ここは?」
「わかりません。でも、見た感じだとどこか古い建物の中だと思います」
冷静さを取り戻したのか、ジャック君は小さな声で聞いてくる。
それに答えれば、彼は立ち上がって周囲を見回しながら歩き始めた。
私も慌てて立ち上がって追えば、ジャック君は廊下に出て左右を見ていた。
「うわっ、ぼろっぼろじゃん…………」
「ところどころ、床に穴があいているところもあるので気を付けてください」
ジャック君の見る左右の廊下には、ところどころ床に穴があいているものの特に物が置いてあるわけでもなく障害物になりそうなものもなかった。
ところどころドアのような物があるところを見ると、この建物自体が学校とか見たいに部屋数の多い建物なんだろう。
窓から複数の木が見えるところを見ると、この建物は森とか木々がたくさん生えている場所に建っているみたいだ。
木々が日光を遮っているせいか、まだお昼ぐらいなはずなのに薄暗い。
「…………どうします?」
「とりあえず、周囲の探索しよう。どこからわからないけど、もしかしたらここがどこなのか何かわかるかも」
隣に立っていたジャック君に話しかければ、そんな答えが返ってきた。
まあ確かにここがどこかさえわかれば、騎士団本部との距離もわかるかも。
「…………俺、こういうところ苦手なんだよな~」
「そうなんですか?」
「うん。なんていうの?なんか、出てきそうな雰囲気でさ。いくら夜目が効いても、物理攻撃が通じねー相手とかマジで怖い」
ジャック君の話を聞きながらも、警戒しながら近くのドアを開けて行く。
埃が積もった家具がある部屋もあれば、何もない部屋もある。
本当に、この建物はいったい何なんだろうか?
学校というには無駄に家具があるし、家というには部屋数が多すぎる気がする。
部屋の中の家具も、ソファやテーブルやいすの三種類ぐらいでそれ以外の家具は全く見つからない。
なんて言うか、引っ越しをしている途中で放置されているような感じだ。
しかも私がいた部屋の床は埃があまりなかったけど、それ以外の部屋のほとんどが床や残された家具に埃が積もっていた。
…………私がいた部屋だけ、何故床が綺麗だったのか疑問に思ってしまうほどの差だ。
あのクジラの化け物といい…………この廃墟はロイドさん達『霧夜の民』が隠れている拠点の一つなのだろうか?
「…………あれ?」
「この部屋だけ、物に埃がかぶってません」
そう思いながらつ後の部屋を開ければ、中の様子にジャック君と一緒に首を傾げてしまった。
その部屋の中心には今までの部屋とは違い家具はないものの、タオルや剣といった物が乱雑に置かれていた。
部屋の中に入り近づいてみれば、真新しい物から使い古しているものまでいろいろある。
ただ共通しているのが、武器類や装備品と物資といったところだろう。
「あれ?」
「どうしたんですか?」
武器類を見ていれば、一枚のタオルを手に取っていたジャック君が困惑の声をあげた。
「このタオル、先輩が使ってたのと同じ奴だ」
「先輩?」
「副団長が率いていた隊にいた人でさ。すげー強い犬の獣人なんだよ。まあ、大型種だけど」
ジャック君の手の中には、一枚の茶色のタオルがあった。
副団長__アルさんの隊に所属している獣人さん。連絡が途絶えたアルさんの隊の人が使っているものと同じ物が、なぜかここにある。
これって偶然なの?
そう思っていれば、ジャック君の表情が困惑から共学の表情に変わっていった。
「…………これ、先輩のだ」
「え?」
「ほら、ここにちょっと不格好な名前の刺繍があるだろ?」
ジャック君が真剣な表情で言いながら、くしゃくしゃの状態だったタオルを広げた。
タオルの端には、この世界の言葉で『ムドー』という名前が縫われていた。
「前に、先輩が見せてくれたんだよ。裁縫が苦手な恋人さんが、頑張って縫ってくれたって。先輩、すごく嬉しそうにしてて仕事に行くとか時もお守り代わりにいつも持って行ってたんだよ。…………なんでこんな場所に、先輩のタオルがあるんだよ」
泣きそうな表情を浮かべながら、ジャック君は乱雑に積まれていた他の品々を見ていく。
でも、これで確定したかもしれない。
「…………これもこれも。全部、他の先輩たちが身に着けていた奴だ」
「…………もしかして、ここってアルさんが調査しに行った廃墟じゃないですか?」
 




