(266)目撃情報②
~目線なし~
騎士団本部に帰還した紗彩とジャックは、急いでシヴァがいる第一執務室に向かった。
ノックをし返事を聞いた瞬間、バンッと大きな音を立ててドアを開けるジャック。
急いで飛び込んできた二人の反応に、シヴァとアルやちょうど報告に来ていたセレスやノーヴァは驚きを隠せなかった。
それもそのはず。
ジャックはともかく、紗彩は基本どんなに慌てていても冷静で無表情を保っていた。
そして、二人ともしっかりとルールを守っているからだ。
だが、今回の二人は違う。
ドアを大きな音を立てて開けるジャックに、無表情ながらもどこか興奮の表情が見え隠れしている紗彩である。
シヴァとアルは動揺を隠しながらも、何があったのだろうと心の中で首を傾げた。
「どうしたのですか、二人とも。ドアは静かに開けなさいと、前に教えたでしょう?」
「えっと、あのな団長、えっと…………」
「落ち着け、ジャック。深呼吸をしろ」
アルのなだめるような言葉を聞きながらも、驚きが勝っているのか身振り手振りで報告しようとしながらも考えがまとまらず報告できないジャック。
そんなジャックに、フォローなのかため息を吐きながら言うシヴァ。
なおそんな彼らの会話を聞いて、ちゃかしなのか本気なのかわからないことを話す者が一人。
「そう、深呼吸…………ヒッヒッフーってすればいい」
「え? は? ヒッヒッフー??」
そう、ノーヴァである。
彼の性格からすると、本気なのか場の空気を和ませるためなのか全くわからない。
なお、そんな彼の横に立っていたセレスはため息を吐きながら彼の頭をはたいた。
「おバカ。それは、出産の時の呼吸法よ。何を産ませる気なのよ、ノーヴァ」
「ええ!? 俺、男なんで無理ですよ!!」
「あなた方、茶番はそこまでにしなさい。二人が、報告できないでしょう」
セレスの言葉に、ジャックは目を見開いて反論する。
もう、場は混沌と化していた。
ノーヴァは意味が解らないと首を傾げ、セレスは頭を抱え、ジャックは自分が子供を産むのかと自分の腹を気にし、紗彩はどう反応するのが正解なのかと不安気にシヴァの方を見る。
シヴァはと言うと、疲れたように眉間の皴を揉んでいた。
明らかに、報告をする空気ではなかった。
頭を抱えながら、報告の空気に戻すようアルが話す。
「報告を聞いていいか?」
「はい。団長からの命令で商人街に聞き込みに向かったのですが、そこでの結果をご報告します」
シヴァの言葉に、ジャックは得た情報を報告する。
商人街で知り合いの商人であるハイドに出会った事。
彼が、不審な人物を目撃した事。
その人物の容姿が、ロイドの見た目と幾つか共通点がある事。
従って、ハイドが見た人物がロイドの可能性が高い事。
ジャックの報告を聞いたシヴァは考え込む。
「…………」
「えっと、報告は以上です」
「ああ、よくやってくれた二人とも。今日は、戻って良いぞ」
シヴァの言葉を聞いたジャックはぱあっと顔を明るくさせ、うれしそうな声音で頭を下げて部屋から紗彩と共に出て行った。
次回予告:本当にロイドなのか??




