(265)目撃情報➀
~目線なし~
「おかしな集団?」
「ええ、そうです」
あれから一週間が経ち、紗彩とジャックの二人は商人街の入り口に立っていた。
彼らが商人街にいる理由は、そもそもこの一週間の紗彩の生活が原因だった。
ジャックとの会話の後、紗彩は自分の個有スキルにどれほどの可能性があるのかを実験するため、食事以外のほとんどの時間を実験に当てていた。
ちなみに本当は食事の時間も削ろうとしたが、物凄くいい笑顔のジョゼフ(目は笑っていない)によって食堂に強制連行されていたが。
彼女が一週間もそんな状況だったため、ちょうど訓練を終えたばかりのジャックと共に『聞き込み』という名目でシヴァの手によって部屋から出されたのである。
シヴァ直々の命令にジャックは気合いを入れ、紗彩はなんとなく彼の本心を察して一緒に行動することにした。
そのためにやって来たのが、商人街であった。
商人街はいろいろな国から訪れる商人たちが集い、なおかつ獣人の国に存在するありとあらゆるルートを通っている。
情報収集を行うのに最も重要視されるポイントだ。
そう言うジャックからの説明を受けた紗彩たちがやって来たころ、ちょうど商人街の入り口で見覚えのある後姿を見つけたのだった。
それが、冒頭でとある情報を教えてくれたハイドだった。
「一週間ほど前でしょうか? 獣人の国の外れを通ったところ、複数の黒衣の集団と一緒に廃墟に入っていく所を見たのですよ」
首を傾げながら、当時のことを説明するハイド。
そんな彼の言葉を、メモする紗彩。
ハイドの証言は、非常に有益なものだった。
獣人の国の外れにある廃墟に、【黒衣の集団】が入っていくところを目撃した。
だが、商人仲間の話ではその廃墟はもう何十年も無人だったとのこと。
騎士団ほど身を守るしっかりとした装備を持っていない商人にとっては、明らかに危険だと思うものには近づかないという暗黙の掟がある。
そのため、ハイドは明らかに不審だと思っても「触らぬ神に祟りなし」の精神で関わらないと判断したのだった。
この情報が有益だと紗彩とジャックが判断したのは、何も明らかに怪しげな【黒衣の集団】の存在ではない。
その集団の中に、【黒髪に一部が白銀の髪の男がいた】という情報があったからだ。
いろいろな髪の色を持つ者がいるが、二色の髪を持つ者は多くない。
その珍しさもあって、ハイドの記憶の中ではその人物の姿をはっきりと覚えていたらしい。
「ハイドさん、ありがとうございます!!」
「いえいえ、これぐらいしかわからなくてすみません」
「大丈夫です!! 助かりましたから!!」
ハイドから情報を聞き終えたジャックは、紗彩と共にその場を後にした。
「じゃ、ジャック君…………」
騎士団本部に向かって足早に進むジャックに、声をかける紗彩。
そんな彼女に、ジャックは興奮した表情で音量を落とした声で言った。
「サーヤ、聞いた?? 黒髪に一部が銀色の男だって」
「ええ、聞きました」
「見た目からして、あのロイドって奴の事じゃないか?」
やはり、ジャックも紗彩と同じことを考えていた。
ハイドが見たという【黒髪に一部が銀色の男】の正体。
『ロイド』と名乗った、『霧夜の民』の頭領でありたびたび起こっている怪物襲撃事件の主犯容疑で負われている青年。
あの青年も、ハイドの情報の中の男と同じ容姿をしていた。
あの『怪物一斉襲撃事件』からまるで霧のように消えてしまった男の情報が入ったかもしれない。
やっと、情報がつかめた。
二人は、心の中でそう思った。
次回予告:ジャックと紗彩からの報告を聞いたシヴァとアル




