(260)二人の黒歴史②
~紗彩目線~
「あとレオン様も…………いや、レオン様は今もぶっ飛んでるか。昔は、今以上にぶっ飛んで思考を持ってたぞ?」
私の隣に座ったまま何かを考えこむように、頭をかきながら言うオズワルドさん。
彼の声音は、ブラック時代に二日ほど徹夜していた先輩と同じような疲れ切った声音だった。
彼の声で、どれだけレオンさんが彼に苦労を掛けているのかがよくわかる。
まあ正直に言えば、あのホラーな異空間に閉じ込められた時にオズワルドさんもレオンさんと同じようなぶっ飛んだ行動を行っていたけど。
なるほど、これが似たもの主従。
そう思いながらも、それを表情に出さないように顔に力を入れる。
そんな私の表情に気づいていないのか、ベッドの上で静かに項垂れるオズワルドさん。
「襲ってきた刺客の顔にあの黒い害虫入りの【ゴ〇ブリホイホイ】をわざわざ解体して投げつけたり、床を石鹼でツルツルに滑るようにして嫌いな教師を転ばせたり、教科書に書いてある過去の偉人の写真に落書きしたり…………その苦情はなぜか俺に来るし」
俯いたまま、ブツブツと文句を言うオズワルドさん。
そんな彼を見て、私は悟った。
あ、これ一緒にいたことで関係ないのに怒られたパターンだ。
ちなみにオズワルドさん曰く、【真っ黒な害虫入りのゴ〇ブリホイホイ】の屋根を開けたことで、刺客の顔にべったりと害虫ごとくっついたらしい。
そしてその後片付けをレオンさんではなく、オズワルドさんがしたらしい。
そのことを話す彼は、挫折しきり、ジサツを考えていそうな疲れ切った同僚の顔をしていた。
もしもオズワルドさんが同僚だったら、私は静かに胃薬を渡していただろう。
「俺は、レオン様のお世話係じゃないんだが。苦情を言うんなら、レオナルド様に言えっと大きな声で言ってやりたい」
疲れ切った表情で頭を抱えながら言うオズワルドさんに、私は何も言えなかった。
そもそも、王子様のことについて王様に苦情を言うことなんてできるはずもない。
そんなことを言ってしまうほど、ストレスを感じていたのだろう。
…………というか、レオンさんって昔からあんなふうにいろいろとあれな行動をしていたのね。
そう思っていれば、オズワルドさんが天井を睨んだ後に明後日の方向を見て遠い目をした。
「まあ、一番大変だったのはレオーネ様が自覚無しに武器を量産したことだが」
「武器を量産?」
「ああ、レオーネ様というのはレオン様の姉上様だ。…………まあ、ちょっと過激すぎる料理を作る方だが、根はとてもいい方だ」
「過激な料理って何ですか…………」
疲れ切った声音で言うオズワルドさんに、私は思わずそうツッコミを入れてしまった。
過激な料理って何?と思った私は、きっと悪くないだろう。
元の世界でもテレビとかで、凄く辛い料理を大食いで食べるって言うのがあったけどそんな感じなのだろうか?
そう思った私の予想は、オズワルドさんの言葉であっけなく外れた。
「そうだな。材料は、毒性のある物など使ってはいないんだが、何故かパンを焼けば盾や武器以上の強度を持ち、スープを作れば鍋の底が溶け鍋に穴が開く。そしてそのスープからは時折奇声が聞こえてくるという、まあちょっとクレイジーな料理を作る方だな」
「クレイジーどころか、ホラーでは?」
自身の胸をさすりながら、顔色を悪くさせて言うオズワルドさん。
その言葉は、あまりにも予想外過ぎた。
なんで、パンが盾や武器以上の強度を持つの?
なんで、スープを作っただけで鍋が溶けるような物ができるの?
なんで、スープが入った鍋から奇声が聞こえてくるの?
そう思っていれば、オズワルドさんがなぜか視線を右往左往させた後に私の方をジッと見た。
「…………まあ、あれだ。出来る事をすればいい。お前の個有スキルは、俺が見てきた中でもかなり強力な部類に入る。それをうまく使って、シヴァたちをサポートすればいいだろ」
「…………そうですね」
「あと、迷惑をかけるという点ではレオン様の方が何倍もかけているしな」
「それって、言っていい言葉なんですか?」
次回予告:モフモフは、癒し




