(259)二人の黒歴史➀
~紗彩目線~
「騎士団長として怖いものなしと思われがちなシヴァだって、ホラー小説を読んで以来夜の廊下が怖いって言ってるんだぞ?」
「え?」
真剣な表情で言うオズワルドさんに、私はどう反応すればいいのかわからなかった。
とりあえず、思った事。
それって、私が聞いていい内容なのだろうか?
明らかに、シヴァさんにとっては黒歴史相当の話ではないのだろうか?
誰だって、自分の怖いものなんて知られたくないだろうに。
「ちなみにあいつの部屋の中にトイレがあるのは、夜中にトイレで起きた時に怖くて危うく漏れそうになったことを反省した結果だぞ?」
「…………それ、私が聞いても良いんですか?」
「良いんじゃないか?」
私の言葉に、オズワルドさんは首を傾げた後に言った。
というか、絶対にそれはシヴァさんの黒歴史だろ。
絶対に、言ったらシヴァさんが顔を真っ赤にさせて怒るだろう。
あとシヴァさん、ホラー小説を読んだ日の夜の家が怖くなる理由はわかる。
私も隙間からのぞいている系のホラー小説を読んだ後は、意識をして家具とかの隙間を見ないようにした。
一人暮らしをし始めた時は、ホラー小説を読めなかった。
だって、一人きりじゃ怖いもん。
そう思っている私を無視して、オズワルドさんは話し続ける。
弟分の黒歴史を晒すとか、鬼かこの人。
「あとはあいつの黒歴史としては、師匠__前任の騎士団長である義父と喧嘩したいという理由で義父を褒め殺していたな」
「何故、喧嘩をしたがるんですか?」
「喧嘩すると、仲直りした後により仲良くなれると言う本を読んだらしい」
「…………なるほど?」
オズワルドさんの言葉に、私は一頭納得したような言葉を言っておいた。
正直に言えば、どうして『喧嘩をする→仲直りをする=仲良くなる』という公式が成り立つのかがわからないけど。
…………まあ、シヴァさんにも純粋な頃があったのだろう。
私は、そう思うことにした。
「まあ純粋だったあいつは、必死に喧嘩しようと思ったらしい。でも幼少の頃に悪意のある言葉をかけられて嫌な思いをしたから、悪口なんて言えない。その結果、現王レオナルド様__レオン様の御父上の助言を得て、師匠の良い部分をとにかく言って言ったらしい。…………いや、あれはシヴァなりに頑張って悪口として言ったのかもな」
「悪口なんですか?」
その頃を思い出しているのか、オズワルドさんは笑いをこらえたままそう言った。
…………オズワルドさんの反応を見るに、シヴァさんが行った悪口というのは明らかに悪口ではなさそうな気がする。
「『なんで、親父はそんなにかっこいいんだ!!』『親父のイケメン!! 筋肉!! ヒーロー!!』って、必死に悪口を言ってたな」
オズワルドさんのリアリティ溢れる興奮した言葉に、私は微笑ましい気持ちになった。
完全に悪口にはなってないけど、そもそもシヴァさんの性格的と過去的に恩人に対して悪口とかを言えるタイプじゃないとは思っていた。
でも、かっこいいにイケメンに筋肉にヒーローか…………筋肉以外は完全に誉め言葉じゃん。
いや、筋肉は事実を言っただけなのかもしれないけど。
そう思いながらも、私は自分が思ったことをオズワルドさんに言う。
「それ、悪口じゃないと思うんですけど」
「だな。本人は悪口だと言い張っているが、俺にとっては『悪口』じゃなくて『悪口(笑)』なんだよな。…………あとあいつは成人するまで、ハイヒールは暗殺用の武器だと思っていたらしい」
「全世界の女性に謝るべきだと思います。いや、確かに武器にしたら殺傷能力は高そうですけど」
「ちなみに、それはレオナルド様の冗談を真に受けたらしい」
どこか遠い目をしながら言うオズワルドさん。
確かにハイヒールで踏まれたら痛いだろうけど、さすがに武器にできるほどの強度はないと思う。
いや、ないと思いたい。
あとさっきから思っていたけど、レオンさんのお父さんのレオナルドさん?
からかったのかもしれないけど、さすがに王様が冗談を言うとは思わないよ。
話を聞く限り、レオナルドさんという人はレオンさんの同類の匂いしかしない。
いや親子らしいから、もしかしたらレオンさんはレオナルドさんになのかもしれない。
「この国の王様って、失礼ですけど結構愉快犯の部分があると思うんですけど」
「いや、だってレオン様の御父上だぞ? 愉快なぶっ飛び野郎の御父上だぞ?」
「…………レオン様って、王様似の性格だったんですね」
「正直に言えば、あの御方付きの騎士たちは大変だぞ? 物理的にも胃痛的にも」
「…………うわぁ」
私の言葉に、苦虫を数万匹噛みつぶしたような表情を浮かべながら言うオズワルドさん。
レオナルドさん付きの騎士たちのことを思い出したのか、疲れた表情で眉間の皴を揉んでいた。
…………遺伝子って、性格まで似るんだね。
次回予告:続いて暴露されるレオンの黒歴史
 




