(253)来訪王子様②
~目線なし~
「じゃあ、取り合えず要件を言うね。簡単に言えば、ちょっと手伝って欲しいんだよね」
「お断りします」
にこやかに言うゴーダンの言葉に、間をおかずに即答するシヴァ。
そんなシヴァに、笑ったまま首を傾げるゴーダン。
笑顔を浮かべているだけだが、ゴーダンのシヴァに対する威圧がより重くなっていることをアルは感じる。
「へぇ、なんで?」
「俺は、貴方方とはすでに縁を切った身です。何より、俺はこの国に忠誠を誓った身。他国の王子である貴方方に手を貸すほど、安い忠誠を誓ってはいませんから」
「へぇ…………そうなんだ。初めて知ったよ。僕はてっきり、あの人が嫌でこの国に逃げたんだと思ってた」
冷静にそう切り返したシヴァの言葉に対して言ったゴーダンの言葉に、第一執務室の中の空気が凍った。
シヴァにとって、【あの人】の話題が地雷であることをアルは気付いた。
何しろピルピりとした怒気が、アルの横に座っているシヴァから漏れ出ているからだ。
それでも怒りに流されゴーダンに対して怒鳴らないところを見ると、シヴァの精神面がどれだけ強いのかがよくわかる。
誰だって、自身の地雷の上でタップダンスをされれば怒りで我を失うことぐらいあるだろう。
「…………そう思われているのなら、別にそれでもいいですよ。とにかく、俺は貴方方に手を貸すつもりはありません。この国の王族方からの命令ならともかく、貴方方の命令を聞く義務はありませんから」
「…………そう。まあ、いいよ」
シヴァの答えを聞いて納得がいったのか、ゴーダンはソファから立ち上がって隣にいたゴードンを連れて部屋から出て行く。
そんな二人の青年の姿に、アルは心の中でホッとため息を吐いた。
いくら場数を踏んでいるあるとはいえ、前から威圧を受け、隣から怒気を感じていれば精神的に辛くもなるのだ。
そんな時間がやっと終われば、表には出せなくともほっと安心してしまう。
ただ、シヴァにとってはまだ安心するには早すぎた。
「おや、こんにちは」
「こんにちは」
ゴーダンとゴードンが第一執務室を出た時、ちょうど紗彩とラーグが報告を兼ねて執務室の前に来ている頃だった。
つまり、シヴァにとっては会わせたくない三人がちょうど会ってしまったのだった。
紗彩は初めて見る青年たちに固まりながらも挨拶をし、ゴーダンは目を細め、ゴードンは彼女の顔をジッと見るだけだった。
その場にいた、シヴァ・アル・ラーグは静かに心の中で頭を抱えた。
なぜラーグもなのかというと、シヴァからの頼みで紗彩を森の中に連れて行ったのだ。
つまりレオンの時と同じく、顔を会わせないようにするためにという理由が裏にあったのだ。
そんなことを知らない紗彩はと言えば、突然自分の前にしゃがみ込み、自分の顔をジロジロと観察するゴーダンの存在に表には出さないものの不気味さと不快感を感じていた。
「…………へぇ、真っ白な肌だね」
「え?」
「噛み痕とか、真っ赤な首輪が似合いそう」
「…………は?」
紗彩に対して、ニッコリと笑いながら平然とヤバいことを言うゴーダン。
そんな彼に対して、どんな反応を返せばいいのかわからない紗彩。
本来の彼女であれば不審者を見るような目で見るだろうが、あいにく彼女はゴーダンたちが第一執務室から出てきたところを見ていた。
だが見覚えのない顔の青年で獣人にも見えなかったため、彼女はゴーダンたちを獣人騎士団の関係者ではなく、キキョウのような他国からの客人ではと考えたのだ。
そのため、失礼にならないように表情を表に出さないようにしたのである。
だが、そんな紗彩の気遣いは無駄となってしまった。
ゴーダンの言葉に、さすがの彼女も驚きで声を発してしまった。
その瞬間、紗彩はシヴァの腕の中にいた。
目で追えない一瞬の速さで、シヴァが彼女を抱き上げてゴーダンから距離を取ったのだ。
「なんの真似だ」
「いいや? ただ、本当に大切なら首輪して閉じ込めるなり監禁するなりしとかないと、スルリと盗られてしまうよって話」
「…………」
警戒するシヴァと、にこやかに言うゴーダン。
彼の連れであるはずのゴードンは、シヴァに抱き上げられている紗彩のことをジッと見ているだけだった。
ピリピリとした空気がシヴァに漏れ出ているせいか、それとも今の状況の気まずさからか紗彩の顔色も悪い。
だが、この空気は意外な人物の登場によって終わりを告げた。
「おや…………レオン殿じゃないか」
「やあ、ゴーダン殿。昨日ぶりだな…………俺の物に何の用かな?」
その人物とは、まるでシヴァと紗彩を隠すようにして現れたレオンだった。
次回予告:レオンの助太刀により、一応解決する場
だが、ゴーダンは去り際に気になる言葉を残す




