(250)森の中の鬼ごっこ➀
~紗彩目線~
「クソッ…………しつこいな」
私を抱き上げたまま、ラーグさんは森の中を全力疾走で駆け抜ける。
そんな私達の背後を、複数のボロボロな人形たちが追いかけてくる。
…………いや、どうしてこうなった?
街中で怪物が暴れた事件から二週間が経ち、私はラーグさんの手伝いで近くの森に入った。
なぜ私がラーグさんの手伝いをしているのかと言えば、シヴァさんからの頼みだったからだ。
…………うん、正直全く役に立たないと思うけどね。
森の中に生えている野草なんて、ほとんどわからないし。
こんなことになるなら、しっかりと暗記するぐらい図鑑を熟読しとけばよかったわ。
そう思いながら森の中に入って二時間ほど作業をしてたんだけど…………なぜか途中で襲ってきた人形の大群に現在進行形で鬼ごっこ中なのよね。
一応、二週間前に怪物に襲撃されたから自衛用の道具を持ってきているけど、さすがに森の中で道具を使うのはいろいろと危険がありそうだし。
ラーグさんの話だと、森を抜けた先は家も何もない広場になっているらしいからそこでなら戦えるかもしれない。
それで森の先まで走っているんだけど…………。
「さーやー」
「さーやーまってー」
「紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩紗彩」
背後の和服を着たボロボロな日本人形たちに名前を呼ばれるとか聞いてない。
ストーカー(と言えるかはわからない)はヒトコワ系のホラーだし、動くボロボロな日本人形もホラーだし!!
ホラーとホラーの掛け算をするんじゃない!!
余計に怖くなるじゃない!!
というか、怖すぎて今すぐに泣きたい!!
ここが森の中じゃなかったら、今すぐに燃やし尽くしたい!!
髪の毛が伸びきってて、着物も不自然なぐらいボロボロだからよく燃えると思うな!!
というか、動く日本人形って何ゴミになるの!?
あんな、三十体ぐらいありそうな大量の人形でも一発で回収してくれるの!?
そう、ラーグさんに抱き上げられたまま心の中で叫ぶ。
というか、叫ばないと恐怖で泣きそうになる。
「おい、一応聞くがあれは知り合いか?」
「あんな怖すぎる知り合いなんていません…………」
「…………だよな」
走りながらも聞いてくるラーグさんに涙声でそう返せば、静かに彼に頭を撫でられる。
ラーグさんが優しすぎて、私は泣きそう。
というか、泣いていいだろうか?
あんなホラーの塊の大群に追いかけられて泣かない私は、かなり偉いと思う。
え、成人しているだろって?
成人してても、怖いものは怖い。
「…………話す人形か…………売れるな。よし、狩るか」
ラーグさんがポツリと言った言葉に、私は耳を疑った。
ラーグさん、あのボロボロな日本人形はたとえ話したとしても子供が泣くからやめた方がいいと思う。
次回予告:ホラーなんてギャグだったんだ




