(245)怪物の襲撃②
~目線なし~
紗彩とイアンの前に現れたのは、なんとも醜悪な四足歩行の怪物だった。
地面につく両手両足は、ライオンのような鋭い爪がついた獣の腕と足。
黒に近い緑色の鱗に覆われ、まるでワニのような胴体。
そして鋭利な牙が生え揃う、まるで海の捕食者である鮫のような青色の頭。
尻尾は、炎を吐く黄色と黒色の縞模様の大蛇。
そして胴体と腕の境目や胴体と首の境目、胴体と尻尾の境目には無理矢理何かをくっつけたように肌がケロイド状になっており歪んでいた。
まるで海と陸の捕食者の部位を無理矢理くっつけたような、見ていて痛々しくも感じる姿。
その姿を一言で表すのなら、【キメラ】だろうか?
「先手必勝って、知ってます!?」
緊張が漂うなか、先に動き出したのは紗彩だった。
「【暗雲低迷】」
彼女がそう呟き扇子を怪物に向かって仰いだ瞬間、怪物を囲うようにして真っ黒な霧が生まれる。
真っ黒な霧はモクモクと、怪物の周りを漂い、あっという間に怪物を飲み込んでしまった。
その瞬間、紗彩とイアンの視界に映ったのは霧の中で暴れる怪物の姿だった。
【暗雲低迷】という技は、風魔法と闇魔法を合わせて作り出した技の一つであり、相手の視界を攪乱させ一時的に相手の視界を封じることに特化した技だった。
だが、それが効くのは向けられた相手にのみ。
味方側から見れば、怪物がただ暴れているようにしか見えていなかった。
視界を封じられた怪物。
そんな怪物に向かって、イアンは姿勢を低くさせ、地面をおもいきり蹴り上げて走り出す。
ビュンとまるで弾丸のように、怪物の足元に向かうイアン。
そんなイアンの元に、なんとか霧の中から抜け出せたのか大蛇が向かってくる。
鋭い牙で噛もうとする大蛇を、すんでのところで体を右に傾けることで回避するイアン。
「ふっ!!」
そのまま怪物の足元に滑り込み、左側の前足と後ろ足を斬りつける。
…………がその瞬間、怪物は右側の後ろ脚だけで立ち上がりブンと回転し始めた。
「…………は?」
怪物のあまりの行動に、扇子を構えたまま固まり驚く紗彩。
イアンもまた驚くが、巻き込まれないようになんとか回避して紗彩の近くまで走る。
二人が合流した後も、怪物はずっと回転している。
「…………」
「どうしました?」
怪物の行動を見ながらも、イアンが短剣を握っていた右手を握っては開いてを繰り返していた。
そんな彼の行動に、疑問を持ちながらも心配になる紗彩。
「…………斬った時の感触が、肉を斬った時の感触でも防具を斬った時の感触でもない」
「え?」
イアンの言葉に紗彩が驚いていれば、怪物の回転が終わり、なんと怪物の周囲にあった黒い霧がはれてしまっていた。
「肉とか鱗とかよりももっと柔らかい…………例えば服や綿を切り裂くような感触だ」
「…………まさか」
イアンの言葉に、紗彩の頭の中で二つの事柄が一つの線で結ばれた。
次回予告:怪物の正体に気づく紗彩




