(243)怪物人形事件
~目線なし~
「人形?」
「そう、人形よ」
ザワザワと騒がしい店内で、セレスは小さな声でノーヴァにとある事件のことを教えた。
いろいろな客が話をしているせいか、声を抑えた二人の会話に気づく者はいない。
セレスがノーヴァに教えたのは、竜人の国で起こっている不可解な襲撃事件の事だった。
とある農夫が仕事に行く途中、一体の大きな怪物に襲撃された。
農夫は攻撃されたが、幸いなんとか自身の鱗でガードできたらしく骨が折れたぐらいで命に関わる怪我
はなかったらしい。
だが、そんな事件が竜人の国で相次ぎ、最近では竜人の国に近い獣人の村も襲撃された。
何故か、その場に共通していたのは怪物に似た持ち主不明の人形が置かれている事だった。
そんな事件の概要に、ノーヴァの眉間にしわが寄る。
急に襲撃され持ち主不明の人形が落ちているなど、なんとも不気味な事件である。
「まあ一言に人形と言っても、色々あるのよね。本当に人型の人形だったり、完全に動物の……ぬいぐるみっていうのもある」
「…………そもそも、なんで化け物がいた場所にそんなものがあるわけ?」
どこか悩ましげな表情を浮かべるセレスに、ノーヴァは自身が思った疑問を口にする。
そもそも、持ち主が不明の人形がなぜ襲撃現場にあるのだろう?
そういった、単純な疑問だった。
何しろいくら魔法があるとはいえ、人形が一人で出歩くような摩訶不思議な現象がポンポンと簡単に起きるわけではないのだ。
そんな疑問は、ノーヴァだけでなくセレスも考えていた。
「それが、わかんないのよね~。犯人からの何かのメッセージなのか、それともただ単に偶然その場にあったのか」
「…………毎回ある時点で、偶然っていうのはない気がする」
セレスの言葉に、ノーヴァは反論する。
そもそも、襲撃事件は合計十五回ほど起こっている。
場所はバラバラで、襲撃された被害者もその日の天気もバラバラ。
共通しているのは、その場に持ち主不明の人形やぬいぐるみが落ちている事のみ。
有益な共通点もなく、竜人の国の騎士団も見回りを強化する以外で対処方法が思い浮かばなかった。
「そうなのよね…………しかも、その【怪物人形事件】の被害現場ってどうやら竜人の国からだんだんこっちに近づいてきているらしいのよ」
「…………」
警戒を強めた声で言うセレス。
【被害現場が、だんだんこっちに近づいてきている】
それは、次の怪物の標的がこの国となること。
下手に観光客や一般人の多い街中を襲撃されれば、怪物の対処と共に一般人の混乱の鎮圧も行わなければいけない。
正直、どういった能力なのかもわからない怪物を相手にしながら、混乱して冷静でいられない一般人を逃がすのはかなりキツイ。
ノーヴァが、案を考えている時だった。
「きゃああああああ」
「うわああああああ」
突如店の外から複数の悲鳴が上がり、店内が騒がしくなったのは。
ドシンドシンと言う大きな足音と、地震が起こるようにグラグラと揺れる店内。
先ほどまで楽しげな声で満ち溢れていた店内は、一瞬で混乱と不安の声でいっぱいになる。
「騎士団の者です!! 皆さん、店内から出ないでください!!」
仕事上のキリッとした表情を浮かべて、立ち上がったセレスはそう店内に向かって叫んだ。
次回予告:突如、襲ってきたのはなんと件の事件に出て来る怪物!!
紗彩とイアンは突如共闘することになる




