(242)デート➂
~目線なし~
紗彩が、イアンの無意識下の攻撃(激甘)を受けている頃。
同じ店内には見知った影が二つ、初々しい二人を見守っていた。
「…………若いわね~」
「…………セレス、じじ臭い」
そう。
獣人騎士団参謀のセレスと、幹部補佐のノーヴァである。
なお、暇などと言ってはいけない。
この二人は、最近の激務の中でやっと得た休日を謳歌しているのだ。
そんなセレスはと言えば初々しい紗彩たちの姿をこっそりと見ては、目元をほころばせ、まるで人見知りの我が子に初めて友達ができた親のような喜びようである。
なおそんな視線を向けている相手は、数日前実は成人していることがわかった相手である。
成人しているとわかっても、子供扱いする癖が抜けきれない参謀殿であった。
そんなセレスを、ノーヴァは心底呆れたと言いたげな表情であった。
成人しているという(幹部たちにとって)驚きの情報を知っても、彼は特に紗彩に対する態度が変わることはなかった。
そもそも、ノーヴァ本人は彼女のことは他の幹部とは違い子供扱いではなく、どちらかというと年が近く好きなものが同じ異性の友達という扱いであった。
『好きなものは好き』・『嫌いなものは嫌い』という、過去の影響で好き嫌いで判断しがちなノーヴァにとって、彼女の中身の部分が『好きなもの』に分類されるため、彼女が成人しているという情報はものすごくどうでもいい情報であった。
彼なりに言うのなら、『友達って、年齢制限あるの?』である。
だが紗彩と関わるようになり、ある程度は空気を読めるようになったため、苦悩しながらも今までのような子供扱いの癖を直そうと奮闘する幹部メンバーには言わないノーヴァ。
幼馴染兼親友が、無意識のうちにあっさりと癖を直す努力を放棄したことには呆れの感情しか抱かなかった。
そんなノーヴァの反応に、セレスはジロリと彼を睨む。
「うっさいわね。あんたも、アタシと変わんないようなもんでしょ」
「五歳違う」
「たったの五歳でしょ? 細かすぎる男はモテないわよ」
「…………別に」
顔を膨らませながら言うセレスに、ノーヴァは首を傾げながら言う。
ノーヴァとしては、なぜそこでもテる・モテないという話題になったのかが理解できていなかった。
不思議に思いながらも、少し遠くの席にいる何百も年下の友人の方を見る。
二人の席とは間に五つほどの席があるためか、二人はこちらに気づいていないようだった。
そのことに、ノーヴァは心の中で安堵のため息を吐く。
一方のセレスもまた、楽しそうに話す二人を見ては安心した表情を浮かべている。
成人していると知っても、二人にとって紗彩は大切な仲間であった。
やっと取得できた休日を消費して見守りに来るほど、紗彩にとって過保護な部分がある。
なお、セレスは『あの子たち、意外に鈍感だし大丈夫かしら?』という心配の気持ちだが、ノーヴァは心配半分『紗彩泣かしたら、あのガキ潰す』という警戒もあった。
友人と言いながらも、過保護である。
紗彩をチラチラと眺めながら、ノーヴァは手元に運ばれてきた自分用のケーキに飾ってあるチョコレートの欠片をつまんで口に入れる。
ビターだったらしいチョコレートのほんのりとした苦みに笑みを浮かべるノーヴァを見て、今度はセレスが呆れた表情を浮かべる。
「…………あんた、それ全部食べる気?」
「…………別にいいじゃん」
どこか引き気味の態度をとるセレスが見ているのは、ノーヴァの前に広げられて六つのホールケーキである。
チョコレートやショートケーキ、フルーツケーキやモンブランなどいろいろなホールケーキが並んでいる。
なお、ホールケーキ一つの大きさは紗彩の頭ほどの大きさである。
紗彩がこの光景を見れば、二度見した後に目をこすって静かに見ないふりをしただろう。
「可愛いものや甘いものは好きだけど、アタシでもそれは食べれないわ」
「…………別腹って奴」
「何も言ってないわよ」
呆れたように言うセレスに、何を思ったのかムッとした表情で言うノーヴァ。
ほのぼのとした雰囲気が、二人の間で流れる。
「…………なんで、俺呼んだの?」
「はあ、そんなの」
「サーヤを見守る…………っていうのは、『ついで』でしょ?」
「…………」
優しい雰囲気は、ノーヴァの言葉によって一瞬で消失した。
次回予告:セレスがノーヴァを誘った本当の理由
平和の終わりは、意外に近かったのかもしれない




